森本あんりの「反知性主義 アメリカが生んだ『熱病』の正体」を読んだ! | とんとん・にっき

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森本あんりの「異端の時代―正統のかたちを求めて」を読んだ後、以下のように書きました。

 

既成宗教が弱体化して人びとの発言を集約する機能を持たなくなった今日、その情熱の排出に代替的な手段を与えているのがポピュリズムであると、森本は言う。この点で、ポピュリズムは反知性主義と同じく、宗教なき時代に興隆する代替宗教の一様態としています。ポピュリズムは、一般市民に「正統性」の意識を抱かせ、それを堪能する機会を与えているのである。

 

これだけじゃわからないので、著作のなかでも評判の良い森本あんりの「反知性主義 アメリカが生んだ『熱病』の正体」(新潮選書:2015年2月20日発行、2017年2月20日14刷)を読みました。文章は平易で読み易いのですが、なかなか理解するのが難しくて、時間が経ってしまいました。

 

なにしろ本の帯には、、前トランプ大統領の顔写真が…。

トランプ大統領を生み出したイデオロギーの根源、とあります。

 

<日本人が知らない「反知性」の正体>

アメリカ×キリスト教×自己啓発

反知性主義

その恐るべきパワーと意外な効用とは?

 

本のカバー裏には、以下のようにあります。

民主主義の破壊者か。あるいは平等主義の伝道者か。

アメリカでは、なぜ反インテリの風潮が強いのか。なぜキリスト教が異様に盛んなのか。なぜビジネスマンが自己啓発に熱心なのか。なぜ政治が極端な道徳主義に走るのか。そのすべての謎を解く鍵は、アメリカで変質したキリスト教が生みだした「反知性主義」にあった。いま世界でもっとも危険なイデオロギーの意外な正体を、歴史的視点から鮮やかに描く。

 

以下、まえがきより

反知性主義とはなにか? 元外務省主任分析官で作家の佐藤優は、反知性主義のことを「実証性や客観性を軽んじ、自分が理解したいように世界を理解する態度」と定義している。政権中枢にいる日本の政治家が、ナチズムを肯定するかのような発言をし、その深刻さを自覚できないでいる、というのはその典型的な症状だろう。

 

他方、教育社会学者の竹内洋は、社会の大衆化が進み、人びとの感情を煽るような言動で票を集めるような政治家があらわれたことに、反知性主義の高まりを見ている。・・・民主主義社会では、政治が扇動家やポピュリズムに乗っ取られる危険性は常に伏在している。

 

反知性主義とは、単なる知性への反対というだけではなく、もう少し積極的な意味を含んでいる。・・・本来「反知性主義」は、知性そのものでなくそれに付随する「何か」への反対で、社会の不健全さよりもむしろ健全さを示す指標だったのである。

 

「反知性主義」という言葉には、特定の名付け親がある。それは「アメリカの反知性主義」を著したリチャード・ホフスタッターである。訳者の田村哲夫は、「説得的な歴史観の下で、正確な叙述で表された歴史書は、どんな時代にも古くささを感じさせるものではないし、どんな時代にも有益なヒントをあたえてくれる」ものであると記しています。

 

以下、(長い引用になりますが)あとがきより

本書は結局のところ、アメリカ史に登場する反知性主義のヒーローを追ったものだ、ということになる。彼らがどのようにして反知性主義のヒーローとなり、どのように大衆の心を掴み、その後の歴史にどのような影響を与えたか、それを辿ることによって、反知性主義という現象の輪郭を描き出すことを試みた。

 

日本でこのような反知性主義を担うのは、どんな人だろうか。知性の傲りや権力との癒着を「ぶっとばす」ようなパワーをもち、大衆に受け入れられる人。反骨の精神で、伝統や大家や形式といった権威の構造を打ち破り、そこに新たな知の可能性を提示できる人。大舞台で大見得を切ってみせるほど腹の座った人。そういうヒーローやアンチヒーローを引き受けるだけの粒の立った個人がいないと、何事も大きな運動には成長しない。

 

実在の人物で言うと、さてどんな人だろう。・・・なかなか適切な人物像が見当たらなかった。「日本に反知性主義は存在するか」という問いはよく聞かれるが、その答えは「日本に反知性主義は存在するか」という問いに対する答えと相即しているようである。竹内洋は、反知性主義が「きわめてアメリカ的」であり、日本にはあからさまな反知性主義の噴出が見られなかったことを指摘している。強力な知性主義がなければ、それに対抗する反知性主義も生まれず、逆に強力な反知性主義がなければ、知性主義も練磨されることがない。どちらも中途半端な日本にあるのは、「半」知性主義だけである、というのが竹内の見立てである。

 

反知性主義を成り立たせるためには、批判すべき当の秩序とはどこか別のところに自分の足場をもっていなければならない。たとえば、小田嶋隆というコラムニストがいる。何かと話の引き出しが多い男で、いつもどこか別のところにある座標軸から世間の常識をナナメに切ってみせる。じつは彼とは小中高と同級生だったので、わたしは彼が小さいころから成績優秀な秀才だったことをよく知っている。明らかに高度な知性の持ち主だが、その自分の立ち位置にも常にシニカルな目線を注いで笑いの種にしてしまう。それで彼の言葉は、「その筋の権威」といわれるものを片端から軽妙洒脱に切り捨てることができるのである。

 

そして、森本は以下のように結んでいます。

知性と権力との固定的な結びつきは、どんな社会にも閉塞感をもたらす。現代日本でこの結びつきに楔を打ち込むには、まずは相手に負けないだけの優れた知性が必要だろう。と同時に、知性とはどこか別の世界から、自分に対する根本的な確信の根拠を得ていなければならない。日本にも、そういう真の反知性主義の担い手が続々と現れて、既存の秩序とは違う新しい価値の世界を切り拓いてくれるようになることを願っている。

 

結局僕は、この本を読んでの収穫は、森本あんりの幼友達、コラムニストの小田嶋隆を知ったことと、知ってはいたがヘンリー・デイヴィッド・ソローの「ウォールデン・森の生活」を読んでみようかと思ったことでした。

 

目次

はじめに

プロローグ

第1章 ハーバード大学 反知性主義の前提

1. 極端な知性主義

2. ピューリタンの生活ぶり

第2章 信仰復興運動 反知性主義の原点

1. 宗教的熱狂の伝統

2. 「神の行商人」

3. 反知性主義の原点

第3章 反知性主義を育む平等の理念

1. アメリカの不平等

2. 宗教改革左派とセクト主義

3. 宗教勢力と政治勢力の結合

第4章 アメリカ的な自然と知性の融合

1. 釣りと宗教

2. 「理性の詩人」と「森の賢者」

第5章 反知性主義と大衆リバイバリズム

1. 第二次信仰復興運動

2. 反知性主義のヒーロー

3. リバイバルのテクニック

第6章 反知性主義のもう一つのエンジン

1. 巨大産業化するリバイバル

2. 信仰とビジネスの融合

3. 宗教の娯楽化

第7章 「ハーバード主義」をぶっとばせ

1. 反知性主義の完成

2. 知性の平等な国アメリカ

3. アメリカ史を貫く成功の倫理

エピローグ

あとがき

 

 

森本あんり:

1956年、神奈川県生まれ。国際基督教大学(ICU)人文科学科卒。東京神学大学大学院を経てプリンストン神学大学博士課程修了(組織神学)。プリンストンやバークレーで客員教授を務める。国際基督教大学牧師、同大学人文科学科教授を経て、2012年より同大学学務副学長。主な著書に「ジョナサン・エドワーズ研究」「現代に語りかけるキリスト教」「アジア神学講義」「アメリカ・キリスト教史」「アメリカ的理念の身体」等。

 

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