森本あんりの「異端の時代―正統のかたちを求めて」を読んだ! | とんとん・にっき

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森本あんりの「異端の時代―正統のかたちを求めて」(岩波新書:2018年8月21日第1刷発行、2018年10月25日第2刷発行)を読みました。

 

数えましたよ、末尾の引用文献/参考文献を。驚くなかれ、日本の本92、海外の本など23、計115ですよ。全部が全部、僕の知らない本ばかり。もう、これだけで、浅学菲才の身、ボデーブローを食ったようで、参ってしまいます。

 

この本に書かれていることが僕から言わせれば早い話が(ハルナックの主張は、つづめて言うと)「そんなことどっちでもいいじゃないか」ということばかり。でも、それでは身も蓋もありません。永六輔の「大往生」とは違って、「岩波新書」らしい本ですから…。

 

どのような本なのでしょうか?

なぜトランプは世界を席巻し続けるのか。蔓延するポピュリズムは民主主義の異端か、それとも正統と化したのか――。キリスト教史の展開、丸山眞男らの議論を精緻に辿り、「正統と異端」の力学から現代人のかくれた宗教性と、その陥穽を示す。神学者が十年来抱えたテーマがついに結実、混迷する世界を読み解く鍵がここにある。 

 

今朝の新聞の一面を見ると、「英メイ首相 辞意表明」とあり、「英国では、離脱が実現しないことへのいらだちや既成政党への不満から、ポピュリズムの新たな高まりも見える」とあります。「ポピュリズムは民主主義の異端か、それとも正統と化したのか――」。新聞の別の面では、「トランプ大統領、きょう来日」として、相撲観戦や安倍首相とのゴルフを通じて、「蜜月」をアピールする、としています。

 

この本の終章は「民主主義とポピュリズム」というタイトル。ポピュリズムはイデオロギー的な理念の厚みが存在しない。従来のイデオロギーと異なり、全体的な将来構想をもたない、あくまでも自分が専門家集団に立つアマチュアであることを強調する。素朴な民衆はいつも騙されて搾取される被害者だ。自分こそそういう民衆全体の利益代表者だ、という設定です。

 

既成宗教が弱体化して人びとの発言を集約する機能を持たなくなった今日、その情熱の排出に代替的な手段を与えているのがポピュリズムであると、森本は言う。この点で、ポピュリズムは反知性主義と同じく、宗教なき時代に興隆する代替宗教の一様態としています。ポピュリズムは、一般市民に「正統性」の意識を抱かせ、それを堪能する機会を与えているのである。

 

アルブレヒト・デューラー
「騎士と死と悪魔」

 

現代には、非正統はあるが異端はない。古今東西の歴史に見る真正の異端は、みな志の高い人びとである。知的に優秀で、道徳的に潔癖で、人格的に端正で、人間的に魅力のある者だけが、異端となる資格をもつ。そうでない者は、安んじて正統にとどまるがよい。

 

この本は、キリスト教史を軸にした「正統と異端」の話のようでしたが、右から左にと簡単に理解できる代物でなありません。森本あんりの著作のなかでも評判の良い『反知性主義――アメリカが生んだ「熱病」の正体』(新潮選書)を、さっそくアマゾンで購入申し込みをしました。

 

最後に気が付きました。森本あんりは、女性ではなく男性でした。

 

目次

序 章 正統の腐蝕――現代世界に共通の問いかけ
 1 変質する政党政治
 2 反知性主義の行方
第一章 「異端好み」の日本人――丸山眞男を読む
 1 「L正統」と「O正統」
 2 異なる価値秩序の併存
 3 日本的な「片隅異端」
 4 未完に終わった正統論
第二章 正典が正統を作るのか
 1 宗教学の諸前提
 2 書物になる前の聖書
 3 正典化の基準
 4 異端が正典を作る
 5 歴史の審判
第三章 教義が正統を定めるのか
 1 ハルナックの困惑
 2 正典から教義へ
 3 「どこでも,いつでも,誰にでも」
 4 根本教義なら正統を定義できるか
 5 始源も本質を定義しない
 6 「祈りの法」と「信仰の法」
第四章 聖職者たちが正統を担うのか
 1 「地の黙した人々」に聞く
 2 厳格な性倫理という誤解
 3 オリゲネスの後悔
 4 高貴なる異端
 5 凡俗なる正統
第五章 異端の分類学――発生のメカニズムを追う
 1 正統の存在論
 2 現代民主主義の酩酊
 3 異端発生のメカニズム
 4 分派・異端・異教
第六章 異端の熱力学――中世神学を手がかりに
 1 社会主義体制との比較
 2 ドナティストの潔癖
 3 秘跡論から見る正統
 4 丸山の誤解
 5 改革の熱情
第七章 形なきものに形を与える――正統の輪郭
 1 絵の本質は額縁にあり
 2 異端排斥文の定式
 3 制約による自由
 4 「複数可算名詞」としての自由
 5 正統の受肉
第八章 退屈な組織と煌めく個人――精神史の伏流
 1 個人の経験が判断の基準に
 2 自己表現の至高性
 3 普遍化する異端
 4 個人主義的宗教の煌めき
 5 反骨性のアイコン
 6 今日もっともありふれた宗教形態
 7 個人主義的宗教の特徴
終 章 今日の正統と異端のかたち
 1 民主主義とポピュリズム
 2 正統性を堪能する人びと
 3 信憑性構造としての正統
 4 真正の異端を求めて
引用文献/参考文献
あとがき

 

森本あんり:
1956年神奈川県生まれ.プリンストン神学大学院博士課程修了(Ph.D.).
現在―国際基督教大学(ICU)学務副学長,同教授
専攻―神学・宗教学
著書―『ジョナサン・エドワーズ研究――アメリカ・ピューリタニズムの存在論と救済論』(創文社),『アメリカ・キリスト教史――理念によって建てられた国の軌跡』(新教出版社),『アメリカ的理念の身体――寛容と良心・政教分離・信教の自由をめぐる歴史的実験の軌跡』(創文社),『反知性主義――アメリカが生んだ「熱病」の正体』(新潮選書),『宗教国家アメリカのふしぎな論理』(NHK出版新書)ほか