高樹のぶ子の「伊勢物語 在原業平 恋と誠」(日経プレミアシリーズ:2020年10月23日1刷)を読みました。
高樹のぶ子の「小説伊勢物語 業平」(日本経済新聞出版本部:2020年5月11日第1刷)を購入したこともありし、また11月には、NHKEテレ「100分de名著」の放送が決定したこともあります。で、その前に「小説伊勢物語 業平」の副読本の位置づけである高樹のぶ子のこの本「伊勢物語 在原業平 恋と誠」を、読んでみたというわけです。
この新書を読んで頂くことで、「小説伊勢物語 業平」の理解を深め、人間関係の細部に託した作者の思いに触れて頂きたい。小説に書ききれなった心の綾や心理の裏側にも言及していますので、在原業平の人間的な厚みを感じとって欲しい。と、高樹のぶ子は「はじめに」で書いています。この新書は、僕のようなものでも、ホント、解りやすい。個別な事象、一つ一つがよく理解できて、なおかつ、大きく全体像も理解できる、というわけです。
NHKEテレ「100分de名著」の放映予定も、書いておきましょう。
第1回 11月2日放送/11月4日再放送
「みやび」を体現する男
第2回 11月9日放送/11月11日再放送
愛の教科書、恋の指南書
第3回 11月16日放送/11月18日再放送
男の友情と生き方
第4回 11月23日放送/11月25日再放送
歌は人生そのもの
私の中の業平がいまも変容し成長を続けている――注目作『小説伊勢物語 業平』の作家が、日本人が本来持っている「雅」の神髄に迫ります。
「小説伊勢物語 業平」は、この色男の15歳から亡くなる56歳までが書かれています。高樹のぶ子は、一言でいえば在原業平、「思うに任せぬことの多かった生涯」を、「思うに任せぬことをも愉しみながら」生き抜いた人、と述べています。
僕がよく知っているのは、これ。
月やあらぬ 春や昔の春ならぬ
わが身ひとつはもとの身にして
これも思うに任せぬことのひとつでしょう。
出版社おすすめのポイント:
千百年前から伊勢物語は読み継がれ、ふるくから在原業平はプレイボーイの代名詞だった。業平の「色好み」とはいったいどういうものなのか――多くの読者を獲得している『小説伊勢物語 業平』の著者が自ら小説に紡ぐうちに浮かび上がってきた「雅」という人間力に迫る!
「英雄、色を好む」ということわざがある。現在ではセクシャルハラスメントになりかねないが、長らく続いた男尊女卑の社会では、それをよしとしてきたことを表すフレーズとも言える。英雄ではないにしても在原業平もしばしばこの文脈でプレイボーイの代名詞として人々の口の端にのぼってきた。しかし、業平の「色好み」は単に女性との性愛に執着することとは違うのではないか――見えてきたのは、現代にも通じる豊かな人間関係を構築できる能力だった。そして「雅」とはその能力に裏打ちされた人間的な余裕だとも。社会が多様性を認めることを人々に求める現代人にこそ、その優れたコミュニケーション力を、業平から学ぶところは大きい。
伊勢物語は恋愛の教科書ともしばしば言われる。つまるところ、男はいい女に育てられ、成長した男がいい女を育てる、それも思いを歌に詠むことによって。それゆえに言葉のコミュニケーション力の高さが求められる。その能力は恋愛以外の人生も豊かにするものになるだろう。
目次
平安時代の業平を理解するために
第一章 高貴なるものの責務--ノブレス・オブリージュ
第二章 女性からの気づき
第三章 禁じられた恋、そして和歌を広める同志へ
第四章 男たちとの関係
第五章 巻き込まれた結果
高樹のぶ子:
作家 1946年山口県生まれ。80年「その細き道」で作家デビュー。84年「光抱く友よ」で芥川賞、94年「蔦燃」で島清恋愛文学賞、95年「水脈」で女流文学賞、99年「透光の樹」で谷崎潤一郎賞、2006年「HOKKAI」で芸術選奨、10年「トモスイ」で川端康成文学賞。著作は多数。芥川賞をはじめ数々の文学賞の選考委員を歴任。17年、日本芸術院会員。18年、文化功労者。
過去の関連記事:
朝日新聞:2020年10月28日
NHKテキスト2020年11月
100分de名著
伊勢物語 高樹のぶ子
2020年11月1日発行
「小説伊勢物語 業平」
2020年5月11日第1刷
2020年7月6日第5刷
著者:高樹のぶ子
発行:日本経済新聞出版本部
新潮日本古典集成
「伊勢物語」
昭和51年7月10日発行
校注者:渡辺実
発行所:新潮社