山下裕二の「日本美術の底力 『縄文×弥生』で解き明かす」を読んだ! | とんとん・にっき

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山下裕二の「日本美術の底力 『縄文×弥生』で解き明かす」(NHK出版新書:2020年4月10日第1刷発行)を読みました。

 

先日のNHK日曜美術館、「蔵出し!日本絵画 傑作15選 一の巻」

トップを飾ったのがこの作品、「チブサン古墳」でした。その案内役は、井浦新でした。

 

「チブサン古墳 壁画」テレビの画像より

 

驚いたのは、山下裕二の「日本美術の底力 『縄文×弥生』で解き明かす」でも、「チブサン古墳」は取り上げられていました。恥ずかしながら、僕はこの「チブサン古墳」の壁画については、まったく知りませんでした。

 

観る人をギョッと驚かされるような縄文的な想像力のマグマは急速に影を潜めていきました。その例外が、熊本県山鹿市の「チブサン古墳」に代表される、九州・筑後川流域の装飾古墳群でしょう。チブサン古墳の石棺の内壁は、大胆かつカラフルな幾何学文様で埋め尽くされています。その造形センスと旺盛な装飾意欲は、縄文の血を受け継ぐものと言って間違いありません。

 

これとは対照的に、大陸から入ってきたスタイルとレベルを完璧に踏襲しているのが、1972年に奈良県明日香村で発見された「高松塚古墳」の壁画です。

 

右:「チブサン古墳石室」6世紀、熊本県山鹿市

左:「高松塚古墳石室壁画 西壁女子群像」7世紀末~8世紀初め

   奈良県高松塚古墳、国宝

 

「日本美術の底力 『縄文×弥生』で解き明かす」というタイトルでも分かる通り、この本の山下は、「縄文×弥生」を対比的に扱って論を進めています。まず、岡本太郎を援用して、「ジャパン・オリジナル」として縄文土器を解きほぐします。長野県茅野市の棚畑遺跡から出土した「縄文のビーナス」など計5体が国宝に指定されました。その後、日本美術を「縄文」から見るか、「弥生」から見るかとして、実例を挙げていきます。

 

静と動、過剰と淡白、饒舌と寡黙、あるいは飾りの美と余白の美。これらはそれぞれ「縄文」と「弥生」という日本の二大類型になぞらえることができます。火焔型土器に代表される、装飾的で、エネルギッシュな縄文時代の造形に対し、弥生時代の土器は、調和のとれた美しいフォルムを特徴としています。抑制のきいた文様が施され、機能的にも無駄がありません。こうした弥生的な美が「日本的美」の特質であるとして、日本美術史は語られてきました。

 

国宝に指定すべき縄文土器たち

 

1933年に来日したドイツの建築家ブルーノ・タウトは、桂離宮の簡素な建築美を「モダニズム建築の造形美に通じる」と絶賛した一方で、東照宮は「権力を誇示するだけの俗悪な建築」と切り捨てまっした。「東照宮は修学旅行の子どもたちが見るもの」「オトナが味わうべきは桂離宮の美」という風潮や思い込みが広がってしまい、いまだに根強く残っています。

 

右:「日光東照宮 陽明門」1636年、栃木、国宝

左:「桂離宮御殿群」17世紀、京都

 

「詫び寂び」のようにコンセプチュアルでシンプルなもの、深い精神性を「秘めた」ものが日本美術の神髄であり、誰が観ても「すごい!」とわかるような職人仕事は美術ではない――そんな明治以来の風潮は、いまだ根強いように思います。こんなに素晴らしい作品への評価が低いのは、本当に残念です。

 

下は、三越本店にある佐藤玄々の「天女(まごころ)像」(1960年)です。一昔前ならキッチュとして、日本美術史では、切り捨てられていたものです。

 

佐藤玄々「天女(まごころ)像」1960年、日本橋三越

 

もちろん、これだけではなく、「第5章いかに日本美術は進化してきたか」では、さまざまな画家たちが取り上げられています。岡本太郎の「太陽の塔」、山口晃の「東京圖 六本木昼図」、田村一村「不喰芋と蘇鐵」、曽我蕭白「美人図」、長澤芦雪「山姥図」、甲斐庄楠音「春宵(花びら)」、牧野邦夫「海と戦(平家物語より)」、狩野一信「五百羅漢図」、そして村上隆「五百羅漢図」などが、詳細に語られています。

 

「おわりに」で、山下は、私に決定的な影響を与えた岡本太郎さん、

「『縄文×弥生』で解き明かす」というサブタイトルは、彼の縄文土器論」に強く感化されたものなのです、と、述べています。

 

内容(「BOOK」データベースより)
過剰で派手な「縄文」と簡潔で優雅な「弥生」。2つの軸で、古代から現代までの日本美術を軽やかに一気読み!なぜ独創的な絵師が美術史から締め出されたか?雪舟、等伯、若冲らはどこがすごいのか?「ジャパン・オリジナル」の想像力の源流とは?国宝、重文を含む傑作61点をオールカラーで収載した、著者初の新書!
 

山下裕二:
1958年、広島県生まれ。美術史家。明治学院大学文学部芸術学科教授。東京大学大学院修了。室町時代の水墨画の研究を起点に、縄文から現代まで幅広く日本美術を論じるほか、講演、展覧会プロデュースなど幅広く活躍。著書に『未来の国宝・MY国宝』(小学館)、『日本美術の20世紀』(晶文社)、『岡本太郎宣言』(平凡社)、赤瀬川原平との共著に『日本美術応援団』(ちくま文庫)ほか多数。

 

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