井田太郎の「酒井抱一 俳諧と絵画の織りなす叙情」(岩波新書:2019年9月20日第1刷発行)を読みました。
酒井抱一と俳諧?びっくりするような取り合わせです。が、しかし、昔購入した玉蟲敏子の「酒井抱一 生涯と作品」(東京美術:2008年9月25日初版第1刷発行)には、「近年、脚光を浴びる抱一の画俳」と題して、「表現活動において、画俳、すなわち絵画と俳諧の両方に通じ、それぞれに成果を挙げた稀な才能への賛美。とくに、いわゆる『装飾的な琳派』に通ずる優美艶麗な作風と、其角流の俳諧につながる洒脱で都会的な作風が綯交ぜない混ざり、その二重構造が魅力のひとつになっていることは否めない」と、「はじめに」で述べています。「抱一の画俳」、まったく見逃していました。
過去に、千葉市美術館で「坂井抱一と江戸琳派の全貌」を観ました。かなり大規模な展覧会で、図録も分厚く、充実していました。
井田太郎は、第四章、たとえば尾形光琳の代表作「風神雷神図屏風」の裏面に、抱一みずから「夏秋草図屏風」描いたことに対して、抱一が光琳の構図を利用したことなどへの詳細な分析は圧巻でした。
序章の終わりに、「いささか繁多な考証の多い第一章・第二章をとりあえず飛ばしてもらいたい。この二章分こそが本書での難所で、以下わかりやすくなる。霧の晴れてくる第三相から第四章まで進み、改めて読み飛ばした宝暦から文化三年までを扱う部分に戻ってもらえれば、筆者としてはうれしい」とあり、それに従って読むことにしました。なにしろ、丁寧すぎる考証部分が多いので、やや読むのが辛かったことを告白しておきます。
本のカバー裏には、以下のようにあります。
名門大名家に生まれながら,市井で生涯を終えた,抱一.「琳派」誕生を決定づけたこの才能は,多彩な交友から,宝井其角・尾形光琳への敬慕に至り,畢生の名作「夏秋草図屏風」をうみだした.江戸社会を自在に往還したその軌跡を,絵画と俳諧の両面から丁寧に読み解く評伝.新出作品を含む図版多数.[カラー口絵8頁]
著者からのメッセージ
酒井抱一は、宝井其角と尾形光琳に私淑し、画俳二つの世界に生きた。才人ぞろいの大江戸にあって、いかなる俳諧と絵画を紡ぎ、その繊細な叙情を織りなし、大輪の花を咲かせたのか。重要文化財「夏秋草図屏風」という高みへと至る秘密を読み解いていきたい。
口絵:酒井抱一「夏秋草図屏風」(東京国立博物館)
口絵:酒井抱一「観音像」「白蓮図」「葛に家守図」
「向日葵に百足図」「四季花鳥図巻」等
目次
一 酒井家という沃土 ―― 宝暦から安永期
二 尻焼猿人と美人画 ―― 天明期
三 春来への私淑 ―― 寛政前期
四 模索と学習 ―― 寛政中期
一 隠者としての出家 ―― 寛政後期
二 文人性と琳派 ―― 享和年間
三 百花園という結節点 ―― 文化初年
四 其角百回忌 ―― 文化三年
一 花開く季節へ ―― 文化初年から文化一二年
二 光琳百回忌 ―― 文化一二年
三 開花のとき ―― 文化末年
一 錦の裏と表 ―― 文政二年まで
二 「夏秋草図屛風」の生成した場
三 豊饒の神々
四 「夏秋草図屛風」の両義性
五 追憶と回顧 ―― 最晩年
主要参考文献
発句・和歌・狂歌索引
酒井抱一略年譜
井田太郎:
1973年生まれ.早稲田大学第一文学部フランス文学専修卒業.早稲田大学大学院文学研究科博士課程(日本文学専攻)単位取得退学.博士(文学).国文学研究資料館助手,助教(いずれも任期付き)を経て,現在─近畿大学文芸学部教授
専攻─日本文学
著書─「富士筑波という型の成立と展開」(『國華』1315)「新出の酒井抱一画・加藤千蔭書「桐図屛風」と永田コレクション」(『MUSEUM』601)「幻住庵記考――『猿蓑』巻六という場所」(『国語と国文学』88-5)『原本『古画備考』のネットワーク』(共編,思文閣出版)『近代学問の起源と編成』(共編,勉誠出版)
過去の関連記事:
「酒井抱一と江戸琳派の全貌」
発行日:2011年9月25日初版
企画・監修:酒井抱一展開催実行委員会
姫路市立美術館/千葉市美術館/細見美術館
編者:松尾知子(千葉市美術館)
岡野智子(細見美術館)
発行所:求龍堂
アート・ビギナーズ・コレクション
もっと知りたい酒井抱一生涯と作品
2008年9月25日初版第1刷発行
著者:玉蟲敏子
発行所:東京美術