蓮實重彦の「伯爵夫人」を読んだ! | とんとん・にっき

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蓮實重彦の「伯爵夫人」(新潮社:2016年6月20日発行)を読みました。 第29回三島由紀夫賞受賞作品です。帯には「エロス×戦争×サスペンス 世界の均衡を揺るがす文学的事件」、とあります。


アマゾンの内容紹介には、以下のようにあります。

世界の均衡は保たれるのか? エロスとサスペンスに満ちた文学的事件! 帝大入試を間近に控えた二朗は、謎めいた伯爵夫人に誘われ、性の昂ぶりを憶えていく。そこに容赦なく挑発を重ねる、従妹の蓬子や和製ルイーズ・ブルックスら魅力的な女たち。しかし背後には、開戦の足音が迫りつつあるらしい――。蠱惑的な文章に乗せられ、いつしか読者は未知のエクスタシーへ。著者22年ぶりとなる衝撃の長編小説。


「では、また浣腸をしてさしあげましょうというなり、小春は尻の下に手をさしのべ、冷たい指先を音もなく肛門にすべりこませる。何をするのだと二朗が身を起こそうとすると、太腿を押さえつけるようにして動きをとめ、冷えた指もそのうち温かくなってまいりましょうと口にしながら指先をぬるりと奥へさし入れ、こう見えても、私はお母さまからお許しを頂戴しておりますと開きなおる」。


僕が蓮實重彦の「伯爵夫人」のことを知ったのは、朝日新聞2016年3月30日の、片山杜秀の「文芸時評」でした。今月の注目作として、蓮實重彦の「伯爵夫人」(新潮4月号)を詳細に紹介していました。その時点で新潮5月号を購入しようとしましたが、何倍もの値段でしか購入できなかったので一旦諦めて、新刊が出るのを待ちました。アマゾンに予約しておいたものが届いたので、やっと読むことができました。


片山は、以下のようにいう。「見事なリズム! しかしこれは何? ポルノグラフィだ。帝国大学の法科の受験に備える旧制高校生、二朗はまだ童貞。彼の一夜の性的冒険が描かれる。時は1941年12月7日。日米開戦前日」。続けて「『伯爵夫人』で主人公の二朗は、性の深みを思い知らされる冒険をする。ただし童貞のまま。一歩踏み出そうとすると「金玉潰しのお龍」や「魔羅切りのお仙」が出てきて邪魔をする。快楽をもう知ったと下手に錯覚することはできない。肉欲の探究は無限の可能性を宿しながら、二朗の将来は留保される」。


「伯爵夫人」とはだれか?「二朗の周囲には魅力的で活発な女性たちが溢れる。いちばんには伯爵夫人と呼ばれる中年女性。下半身が熟れきっている(蓮實言うところの「熟れたまんこ」の持ち主)」。・・・「百戦錬磨の伯爵夫人にとっても肉欲はなお無限である。彼女は性をあまりに豊かに感じられる肉体の持ち主。一回一回がまるで違う。常に新鮮。そして伯爵夫人の性遍歴には、第一次世界大戦で負傷して不能になったドイツ人、日本軍国主義の犠牲となった朝鮮系の男性、イギリス帝国主義に虐げられたアイルランドの女性らが、かけがいなき記憶として含まれている。性の喜悦は戦争の暴力とは交われない。むしろ敵対する。そんな二朗や伯爵夫人がどうして肉欲を見限れようか」。


「伯爵夫人」は帝大受験を控えた童貞青年が様々な女性と関わる中で、半ば妄想的に性の冒険を繰り広げる物語。情景や心理描写を抑え、アクションの連鎖で読者を引き込んでいく。・・・80歳になった蓮實さんが童貞青年の性への妄想を語る。この落差がこの小説を特徴的なものにしている。

「このフィクションにはどこかに落差がなければいけないと思っていました。自分の体験をそのまま書くことはすまいと。ここには自伝的要素が含まれていますが、そこにはフィクション的な飛躍がありました」と答えています。


「聖林(ハリウッド)」「伯林(ベルリン)」「巴丁巴丁(バーデンバーデン)」「倫敦(ロンドン)」「新嘉披(シンガポール)」「英吉利(イギリス)」「古馬(コモ)湖畔」「仏蘭西(フランス)」「紐育(ニューヨーク)」「柔拂(ジョホール)」「孟買(ボンベイ)」、等々、なかなかすんなりとは読めません。映画評論でも知られている蓮實、「伯爵夫人」の中でも随所に(やや古い)映画のシーンを再現してみせます。なにしろ従妹をご贔屓の女優ルイーズ・ブルックスまがいの髪型としているほどですから…。


蓮實重彦 ハスミ・シゲヒコ

1936(昭和11)年東京生まれ。東京大学文学部仏文学科卒業。教養学部教授を経て1993年から1995年まで教養学部長。1995年から1997年まで副学長を歴任。1997年から2001年まで第26代総長。主な著書に、『反=日本語論』(1977 読売文学賞受賞)『凡庸な芸術家の肖像 マクシム・デュ・カン論』(1989 芸術選奨文部大臣賞受賞)『監督 小津安二郎』(1983 仏訳 映画書翻訳最高賞)『陥没地帯』(1986)『オペラ・オペラシオネル』(1994)『「赤」の誘惑―フィクション論序説―』(2007)『随想』(2010)『「ボヴァリー夫人」論』(2014)など多数。1999年、芸術文化コマンドゥール勲章受章。


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