柄谷行人の「憲法の無意識」を読んだ! | とんとん・にっき

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柄谷行人の「憲法の無意識」(岩波新書:2016年4月20日第1刷発行)を読みました。 本の帯には、柄谷の写真とともに、「日本人は憲法9条によって護られてきた」とあります。


ふと考えてみたら、柄谷行人の著作、新しく出ると買うには買いましたが、まだ読んでいない本が何冊もあるのに気が付きました。最近では、分厚い「定本柄谷行人文学論集」がそれです。


興味深かったのは、中谷礼仁(早稲田大学教授)が建築史に関して提起した「先行形態」という概念に示唆されたというII 章の「憲法の先行形態」という箇所は俄然分かり易くなります。途中からフロイト、ヘーゲル、カントやマルクスを引用した説が展開されますが、なかなか理解できません。


近代国家は資本=ネーション=国家という形をとるというあたりは、以前に読んだことがありました。以前読んだもののなかに「歴史の反復」として60年周期説を提示していましたが、「あとがき」で、なぜかこの考えを60年から120年に変更しています。歴史の周期説に関しては、どうしても違和感を感じざるをえません。


柄谷は、最後の章「将来の展望」として、以下のようにいう。

現在の状況は、世界戦争を経なければ解決できないというわけではありません。真の解決はむしろ、世界戦争を阻止することによってこそもたらされるものだと思います。その場合、日本がなすべきでありかつなしうる唯一のことは、憲法9条を文字通り実行することです。私は第1章で、護憲勢力は憲法9条を護ってきたのではない、逆に憲法9条によって護られてきたのだと述べました。それは別に皮肉ではありません。実際に、日本人は憲法9条によって護られてきたのです。空想的リアリストは憲法9条があるために自国を護ることができないというのですが、われわれは憲法9条によってこそ戦争から護られるのです。


岩浪書店の「岩波新書編集部」だよりには、以下のようにあります。


日本人は憲法9条によって護られてきた
日本の戦後憲法9条には幾つもの謎がある。なぜ戦後70年を経てもなお改憲は実現しないのか。なぜ9条は実行されていないのに残されているのか。改憲、護憲の議論が見逃しているものは何か。著者が見つけた糸口は「無意識」である。意識的ものはすべからく意識的に放棄され得る。放棄されない理由は意識下にある。
占領軍の検閲下での憲法制定、検閲と「無意識」から第1次大戦後のフロイトへ。さらに日本人の歴史的・集団的無意識に分け入るべく、憲法の先行形態としての徳川体制へ。今まで見えてこなかったものが見えてくる。フランス革命前後のカントの思索を導きの糸に、新自由主義下の「戦争の末の」平和ではない、世界平和への道筋を示す。資本主義の論理を超えた国際社会への9条贈与論は、ノーベル平和賞候補となった「9条と日本国民」にとって今や現実的な選択肢となる。
「憲法の無意識」が国民のデモとともに政治の危機に立ち現れる。


柄谷行人(からたに・こうじん):

1941年生まれ。思想家。著書に、 『定本 柄谷行人文学論集』 『定本 柄谷行人集』 『哲学の起源』(岩波書店)、『トランスクリティーク―カントとマルクス』 『定本 日本近代文学の起源』 『世界史の構造』(岩波現代文庫)、『世界共和国へ―資本=ネーション=国家を超えて』(岩波新書)、『遊動論』(文春新書)、『帝国の構造』(青土社)、『倫理21』(平凡社ライブラリー)ほか著書多数。


目次
I 章 憲法の意識から無意識へ
1 憲法と無意識
2 第1次大戦とフロイト
3 天皇制と戦争放棄
4 無意識と世論調査
II 章 憲法の先行形態
1 憲法1条と9条
2 建築の先行形態
3 元老支配から天皇機関説へ
4 戦後憲法の先行形態
5 「戦後」としての徳川体制
III 章 カントの平和論
1 中江兆民と北村透谷
2 ヘーゲルによるカント平和論の批判
3 『普遍史』と『永遠平和』
4 カントとマルクス
5 カントとフロイト
6 贈与の力
IV 章 新自由主義と戦争
1 反復するカントの平和論
2 交換様式から見た帝国主義
3 資本蓄積の3形式
4 ヘゲモニー国家の経済政策
5 ヘゲモニー国家の交替
6 自由主義と新自由主義
7 歴史と反復
8 将来の展望
あとがき


過去の関連記事:

柄谷行人の「遊動論 柳田国男と山人」を読んだ!

柄谷行人の「世界共和国へ」を読んだ!

「柄谷行人 政治を語る」を読んだ!


購入したが、まだ読んでいない柄谷行人の本


kara4 「定本柄谷行人文学論集」

2016年1月8日第1刷発行

著者:柄谷行人

発行所:株式会社岩波書店



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「柄谷行人インタヴーズ2002-2013」

2014年3月10日第1刷発行

著者:柄谷行人

発行所:株式会社講談社




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「柄谷行人インタヴーズ1977-2001」

2014年2月10日第1刷発行

著者:柄谷行人

発行所:株式会社講談社





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「定本日本近代文学の起源」

2008年10月16日第1刷発行

著者:柄谷行人

発行所:株式会社岩波書店







朝日新聞:2016年6月14日朝刊

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