日本橋三越で「吉野石膏珠玉のコレクション展 愛と絆 高山辰雄「聖家族」&マルク・シャガール「逆さ世界のヴァイオリン弾き」他」を観てきました。僕のお目当ては高山辰雄の「聖家族シリーズ」でした。これほど纏まって「聖家族シリーズ」を観られるのは滅多にないことです。
吉野石膏コレクションについては、数年前に偶然訪れた山形美術館で、そのときは主として「印象派」でしたが観たことがあります。今回の所蔵品と併せると、どれだけの所蔵品があるのか、その全貌を知りたいものです。昨年、「吉野石膏コレクションのすべて」という展覧会が、山形美術館で開催されたようです。そこには、以下のようにありました。
1991年、吉野石膏株式会社は故郷への文化的貢献のため、山形美術館に作品18点を寄託。ルノワール、モネ、ピサロ、シャガールらの作品は当館で「吉野石膏コレクション」として公開されると大きな反響を呼びました。以後追加寄託が相次ぎ、現在では印象派の中心をなす画家の作品を中心に、バルビゾン派から20世紀初頭のフォーヴィスムやキュビスム、さらにエコール・ド・パリまでを網羅する国内屈指のコレクションとして注目を集めています。
展覧会の構成は、以下の通りです。
第Ⅰ部:「五山」―戦後日本画の巨匠たち―
第Ⅱ部:「聖家族」高山辰雄
第Ⅲ部:「マルク・シャガール」
第Ⅳ部:「ダフニスとクロエ」マルク・シャガール
第Ⅰ部:「五山」―戦後日本画の巨匠たち―
第Ⅱ部:「聖家族」高山辰雄
(その1)参照のこと
第Ⅲ部:「マルク・シャガール」
以下、図録の解説より
マルク・シャガール(1887-1985)は、帝政ロシア領ヴィテブスク(元ベラルーシ共和国)出身のロシア人画家です。東欧系ユダヤ人として生まれたシャガールは、ロシア、フランス、アメリカと活動の拠点を移しながら、ユダヤの文化や風習に想を得た絵画を制作しつづけました。その神秘的な世界観と、20代半ばに赴いたパリで吸収したキュビスムやシュルレアリスムなどの画期的な表現を取り入れつつ、自由な造形と巧みな色使いで表現した作品は、国際的な評価を得て、現在では20世紀を代表する芸術家の一人として知られています。
出品作からは、シャガールさlく品の様々な魅力を味わうことができます。多様なイメージが複雑に交差して描かれていながら親しみを感じさせる作風は「参徒=シャペル」に顕著で、ユーモラスに擬人化された鶏が空を舞うなか、陶磁のパリの家や街並みが描かれ、夢と現実が融合した情景が描かれています。また出品作に登場するヴァイオリン弾きやサーカスの芸人は、画家が好んで描いたモティーフで、のびやかなポーズを取る彼らは華やかな色彩に彩られ、画面に祝祭的な雰囲気をもたらしています。そしてシャガールほど、「愛」という言葉と共に語られる画家はいないでしょう。多くの作品に描かれた幸福な恋人たちの姿、とりわけ最初の妻であったベラをモデルとした、愛情に満ちた作品群は、多くの人々を魅了してきました。「バラ色の肘掛椅子」「恋人たちと花束」「モンマルトルの恋人たち」など、出品作の多くも恋人たちがモティーフとなっており、シャガールが生涯を通して追求した、愛の表現をたどることができます。
迫害を逃れての亡命、第二次世界大戦による動乱のさなかの愛妻の史など、シャガールは大きな苦難を経験しつつも、自らのルーツへの郷愁と普遍的な愛のかたちを表現しつづけたのです。
第Ⅳ部:「ダフニスとクロエ」マルク・シャガール
以下、図録の解説より
「ダフニスとクロエ」の制作が出版社テリアードからシャガールに依頼されたのは、1952年のことでした。シャガールは自らギリシャを訪れ構想を練り、そのスケッチをもとに2年かけてグアッシュで原案を作成、さらに3年かけてリトグラフを制作しました。当初は5色刷りの予定だったものが、何度も修正を繰り返し、最終的には20色あまりが使われることになりました。完成までに長い年月を要した、この繊細で色彩豊かなリトグラフからは、妥協を許さないシャガールのこだわりが伝わってきます。
「ダフニスとクロエ」は、エーゲ海に浮かぶ美しいレスボス島が舞台の恋愛譚で、ギリシャの詩人ロンゴスによって2~3世紀頃に書かれたものとされています。物語は男女の赤ん坊がそれぞれ山羊と羊に育てられているのを発見されたところから始まります。山羊飼いに拾われた男の子はダフニス、羊飼いに拾われた女の子はクロエと名付けられ、それぞれ大切に育てられます。やがて美しく成長した2人は恋に落ち、降りかかる数々の困難を乗り越えながら、その愛を成就するのでした。
「ダフニスとクロエ」は他の画家たちのモティーフともなり、バルビゾン派の画家ジャン=フランソワ・ミレーの作品「春」(1865年、国立西洋美術館)にも、2人の恋人たちが登場します。また1912年には、バレエ・リュスによる舞台「ダフニスとクロエ」がパリのシャトレ座で上演されました。この時につくられたモーリス・ラヴェルの管弦楽曲が現在では広く知られていますが、1958年パリ・オペラ座での上演では、シャガールが舞台美術と衣裳を手がけています。
「吉野石膏珠玉のコレクション展 愛と絆」
世界的に著名な、内外の作品を多数所有する吉野石膏株式会社と公益財団法人吉野石膏美術振興財団。本展は、そのなかより、芸術表現のもっとも根幹ともいうべき、人間の愛と絆をテーマに高山辰雄とマルク・シャガールの二人の作品を中心に展示します。高山辰雄は、若き日にゴーギャンに感銘を受け、鮮やかな色彩と簡略化された色面構成の作品を制作しますが、後年になると一転して人間の内面を見つめた心象風景画を多く制作します。家族愛を描いた「聖家族」シリーズは人間存在を深く追求する主題と、岩絵の具・黒群緑のモノクローム的な画面で観る者を圧倒します。対するマルク・シャガールは、さまざまなモチーフを元に幻想的な表現を行い、その深い慈愛に満ちた作品で人々を魅了します。それは描くというよりも奏でるというような音楽的な諧調をもつ作品群です。「逆さ世界のヴァイオリン弾き」や「バラ色の肘掛椅子」など、洋の東西を問わず人間の普遍的な価値を絵画として消化した二人の作品を中心に「日本画五山」と呼ばれる日本画家5人(東山魁夷・杉山寧・高山辰雄・加山又造・平山郁夫)の作品を含む約100点で展観します。
「日本橋三越本店」ホームページ
吉野石膏珠玉のコレクション展
愛と絆 高山辰雄「聖家族」&マルク・シャガール「逆さ世界のヴァイオリン弾き」他
図録
2016年1月20日発行
監修:草薙奈津子(平塚美術館館長)
発行:「吉野石膏珠玉のコレクション展」実行委員会
編集協力:公益財団法人吉野石膏美術振興財団
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