金時鐘の「朝鮮と日本を生きる」を読んだ! | とんとん・にっき

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金時鐘の「朝鮮と日本を生きる―済州島から猪狩野へ」(岩波新書:2015年2月20日第1刷発行)を読みました。どうしてこの本のことを知って購入したのか、いまとなってはわかりませんが、本の帯には「第42回(2015年)大佛次郎賞受賞」とあり、「四・三事件とは、いったい何だったんのか。現代史の深い闇を生きた詩人の自伝的回想記」とあります。


済州島はどこにあるのか?昨日(2016年1月26日)の朝日新聞夕刊に、「寒波で済州島が孤立。韓国8.7万人足止め、夜通し航空便」という記事が載っていました。「韓国全土は先週から強い寒波に襲われ、首都ソウルでも24日、零下18度を記録した。済州島でも12センチの積雪を記録し、23日夕刻から25日朝までチェジュ国際空港が閉鎖された。」とあり、驚きました。日本でも毎日新聞は、「記録的寒波 九州各地氷点下、長崎積雪17センチ」と報じていましたので、済州島だけではなかったようですが、 済州島は朝鮮半島の南の海に浮かぶ小島なので、僕が勝手に温暖な島なのだろうと勘違いしただけの話です。


日韓関係(竹島問題、従軍慰安婦、在日、強制連行など)については、さまざまな問題が横たわっています。昨年末の従軍慰安婦問題の日韓の合意文書も「最終的・不可避的」と書かれていながら、問題は一向に収まる気配がありません。


韓国・朝鮮関連としては、直接関連があるかどうかは別にして、過去に以下の本を読んでいます。

大西裕の「先進国・韓国の憂鬱」を読んだ!

菊池嘉晃著「北朝鮮帰国事業」を読んだ!

趙景達の「近代朝鮮と日本」を読んだ!


韓国も日本と同様ですが、戦後の「対米従属」の問題を分かり易く解きあかしたのが、加藤典洋の「戦後入門」でした。

加藤典洋の「戦後入門」を読んだ!


ふと、先日読んだ小熊英二の父親も同世代の人だろうと思って調べたところ、金時鐘は1929年生まれ、小熊の父親・小熊謙二は1925年生まれで、ほぼ同世代だといえるでしょう。もちろん、釜山うまれで済州島育ちの金と、東京生まれでシベリア抑留を体験している謙二とは、育った環境が異なりますが、同じ天皇を崇拝する皇国史観の教育を受けて育った世代ということで、世代的に共通したところも多いことがわかりました。

小熊英二の「生きて帰ってきた男―ある日本兵の戦争と戦後」を読んだ!


ウキペディアには、「済州島四・三事件と大韓民国への編入」として、以下のようにあります。

1948年4月3日には朝鮮の南北分断を固定するとの理由から、南朝鮮単独での総選挙実施に反対する過程で済州島四・三事件が発生し、少なくとも3万人の島民が南朝鮮国防警備隊やその後身の大韓民国国軍、大韓民国の民間右翼などによって虐殺された。この事件は、朝鮮半島の南北支配戦争の渦中で済州島だけは島民だけで今後の行方を決めようとする運動を、北側の介入と見て南側の軍部や自警団が抹殺したものである。結果として済州島は大韓民国に組み込まれた。この虐殺事件の混乱で済州島民は周辺国に難民として逃れた。現在の在日韓国・朝鮮人には、この時に命からがら日本に逃れて来た者も多い。

僕は、金時鐘の経歴についてはまったく知りませんでした。詩人として活躍してきたこと、差別の問題をラディカルに発言してきたことなど、経歴を読んで初めて知りました。金時鐘は、日本統治下の済州島で育ち、天皇を崇拝する典型的な皇国少年でした。1945年の「解放」を機に朝鮮人として目覚め、自主独立運動に飛びこむ。単独選挙に反対して起こった武装蜂起(四・三事件)の体験、来日後の猪飼野での生活など波乱万丈の半生を語ります。「朝鮮と日本を生きる―済州島から猪狩野へ」は、詩人の自伝的回想です。正しい日本語で、かつ平易な文章で読みやすい。セーラー服の女学生から差し出されたカッターシャツの話は、唯一微笑ましいエピソードです。


著者からのメッセージ:「あとがき」より
 『図書』の連載を機に私はどのような関わりから「四・三事件」の渦中に巻き込まれ、私はどのような状況下で動いていたのか。“共産暴徒”のはしくれの一人であった私が、明かしうる事実はどの程度のものか、を改めて見つめ直すことに注力しました、今更ながら、植民地統治の業の深さに歯がみしました。反共の大義を殺戮の暴圧で実証した中心勢力はすべて、植民地統治下で名を成し、その下で成長をとげた親日派の人たちであり、その勢力を全的に支えたアメリカの、赫々たる民主主義でした。具体的にはまだまだ明かせないことをかかえている私ですが、四・三事件の負い目をこれからも背負って生きつづけねばならない者として、私はなおなお己に深く言い聞かせています。記憶せよ、和合せよと。


金時鐘(キム・シジョン):

1929年、釜山生まれ。詩人。1948年の済州島四・三事件を経て来日。1953年に詩誌『ヂンダレ』を創刊。日本語による詩作を中心に,批評などの執筆と講演活動を続ける。著書・共著書・訳書・編訳書に、『さらされるものとさらすもの』(明治図書出版、1975年)、『「在日」のはざまで』(立風書房、1986年)、『なぜ書きつづけてきたか なぜ沈黙してきたか』(平凡社、2001年)、『わが生と詩』(岩波書店、2004年)、『尹東柱詩集 空と風と星と詩』(もず工房、2004年)、『再訳 朝鮮詩集』(岩波書店、2007年)、詩集に『地平線』(ヂンダレ発行所、1955年)、『新潟』(構造社、1970年)、『光州詩片』(福武書店、1983年)、『原野の詩』(立風書房、1991年)、『化石の夏』(海風社、1998年)、『境界の詩』(藤原書店、2005年)、『失くした季節』(藤原書店、2010年)など。


目次
はじめに
第1章 悪童たちの中で
第2章 植民地の「皇国少年」
第3章 「解放」の日々
第4章 信託統治をめぐって
第5章 ゼネストと白色テロ
第6章 四・三事件
第7章 猪飼野へ
第8章 朝鮮戦争下の大阪で
終 章 朝鮮籍から韓国籍へ
あとがき
年譜


朝日新聞:2016年1月30日朝刊
kin