加藤典洋の「戦後入門」を読んだ! | とんとん・にっき

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わたしたちよ、これでいいのか?

日本はなぜ「戦後」を終わらせられないのか。その核心にある「対米従属」「ねじれ」の問題の起源を世界戦争に探り、平和憲法の大胆な書き替えによる打開案を示す。

加藤典洋の「戦後入門」(ちくま新書:2015年10月10日第1刷発行)を読みました。昨年末までに読み終わろうと思ったがそれができず、お正月期間中に読み終わろうと思ったが、まったく読めませんでした。まあ、年明けてからなんとか読み終わったのですが、これをブログに書くというのが一苦労、なにしろ新書とはいえ600ページもあるこの本のこと、そう簡単に書けるというものではありません。


「とんとん・にっき」の中で加藤典洋の名が出てくるのは、江國香織の「がらくた」、芝崎友香の「文庫本3冊」、そして堀江敏幸の「めぐらし屋」、それぞれ本を読んでブログに取り上げた時のことでした。それも朝日新聞の「文藝時評」に掲載されたものの引用というかたちをとっています。つまり、僕は加藤典洋はこの本を読むまでは「文芸評論家」だとばかり思っていました。


同様に、江藤淳が対米従属について提言をしていたことも、この本を読むまではまったく知りませんでした。1978年、江藤淳は「日本は無条件降伏などしていない」と突如主張したという。大江健三郎と江藤淳が共同編集した「われらの文学」(昭和41年頃)という全集を読んでいましたが、江藤淳が戦後政治の体制を批判していたことなど、知る由もありませんでした。


加藤は、「これは私の本としては異例のことですが」と断りながら、「2011年の3月の東日本大震災、大津波、原発事故以降の日本社会と日本政治の劣化のぐあい、とりわけ2012年12月以降の自民党政権の徹底した対米従属主義の外装のもとでの復古型国家主義的な政策の追求に、何としてでも歯止めをかけたいと考えています。」と、自身の決意を表明しています。


呼びかけ人9人による「9条の会」が、「日本国憲法第9条を変えるな」と訴えていたことは、加藤周一や大江健三郎、井上ひさしらの活動によって、多少は知っていました。その「9条」の文言を変える必要があるというのが、近年の加藤の提言です。2009年に鳩山首相が米軍基地の移設を試みて撤回に追い込まれたことが一つの転機だったという。主権国家としてアメリカと対等に交渉できず、対米追従する政府の姿を見て、この構造を根本から変えない限り、基地の撤廃も対米追従からの脱却もできないと加藤は思ったという。


そのための方策が、9条改正による国連中心主義への転換です。実現性はあるのか。「すごく少ないと思っています。国連改革ひとつでも大変だ。ただ日本が国際社会から理解を得つつ対米自立を果たすには、それしか道はない。そのように観念し、死ぬ気で取り組めば、必ず世界は変えられると思います。」と、朝日新聞のインタビュー(2015年12月1日夕刊)で加藤は答えています。


この本の内容:

日本ばかりが、いまだ「戦後」を終わらせられないのはなぜか。この国をなお呪縛する「対米従属」や「ねじれ」の問題は、どこに起源があり、どうすれば解消できるのか―。世界大戦の意味を喝破し、原子爆弾と無条件降伏の関係を明らかにすることで、敗戦国日本がかかえた矛盾の本質が浮き彫りになる。憲法九条の平和原則をさらに強化することにより、戦後問題を一挙に突破する行程を示す決定的論考。どこまでも広く深く考え抜き、平明に語った本書は、これまでの思想の枠組みを破壊する、ことばの爆弾だ!


目次
はじめに――戦後が剝げかかってきた

第一部 対米従属とねじれ
I 対米従属――『アメリカの影』再訪
1 「対米従属」の後退
2 対米従属の内面化
3 江藤淳のジレンマ
II ねじれ――『敗戦後論』再見
1 独立と「ねじれ」
2 戦争の死者とわれわれ
3 憲法と制定権力

第二部 世界戦争とは何か
I 世界戦争の準備――第一次世界大戦
1 敗戦国の研究――『敗北の文化』
2 国際コミュニティの成立――レーニンとウィルソン
II 世界戦争の完成――第二次世界大戦
1 認識上の落差
2 世界戦争の発明
3 「枢軸国」と「ファシズム」
III 世界との距離――日本の「大義」
1 人種差別の撤廃――ヴェルサイユ会議
2 植民地の解放――大東亜会議
IV 「戦後」の水源
1 戦争モデルの再成形
2 劣化と修復

第三部 原子爆弾と戦後の起源
I 理念から大義へ
1 原爆の使用と無条件降伏
2 「理念」からの呼びかけ
II 原爆を投下すること
1 声明について
2 投下と「回心」
3 批判から「神話」へ
III 原爆を投下されること
1 無条件降伏と抵抗
2 沈黙とことば
3 批判が孤立するわけ
4 ただの人の立場

第四部 戦後日本の構造
I 敗戦後日本の成立
1 平和憲法と戦争体験
2 憲法九条をささえた三つの力源
II 戦後型の顕教・密教システム
1 吉田ドクトリンと戦後の顕教・密教システム
2 顕彰、批判、再評価
3 システムの崩壊と政治の〝解凍〞

第五部 ではどうすればよいのか――私の九条強化案
I 憲法九条と国連中心主義
1 占領の終わりと基地撤廃の主張
2 憲法九条と国連
3 国連中心外交――R・ドーアの贈り物(1)
4 「誇り」について
5 自衛権の問題
II 核の廃絶と非核条項
1 核管理、国連、NPT
2 「核のない世界」とは何か
3 「核抑止」と「核廃絶」
4 新「核兵器管理」体制――R・ドーアの贈り物(2)
III 対米独立と基地撤廃条項
1 なぜ基地撤去が必要か
2 なぜ護憲では不十分なのか
3 フィリピン・モデルとその教訓
4 基地撤廃条項と矢部方式

おわりに――新しい戦後へ


引用文献
あとがき


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加藤典洋:1948年、山形県生まれ。文芸評論家。早稲田大学名誉教授。東京大学文学部仏文科卒業。著書に『敗戦後論』(ちくま学芸文庫、伊藤整文学賞受賞)、『言語表現法講義』(岩波書店、新潮学芸賞受賞)、『小説の未来』『テクストから遠く離れて』(朝日新聞社/講談社、両著で桑原武夫学芸賞受賞)、『アメリカの影』『日本風景論』(講談社文芸文庫)、『日本の無思想』(平凡社新書)、『さようなら、ゴジラたち』『3.11 死に神に突き飛ばされる』(岩波書店)、『人類が永遠に続くのではないとしたら』(新潮社)など多数。