ヒコロヒーの「黙って喋って」を読んだ! | とんとん・にっき

ヒコロヒーの「黙って喋って」を読んだ!

 

 

ヒコロヒーの「黙って喋って」(朝日新聞出版:2024年1月30日第1刷発行)を読みました。

 

感情がほとばしって言い過ぎた言葉、

平気をよそおって言えなかった言葉。

「もう黙って」「もっと喋って」と思わずにはいられない、

もどかしくて愛おしい掌編18本。

 

記憶の片隅にあった感情が

じわっとあふれ出す

短編恋愛小説集

 

自分自身も未来も何も定まらなかった頃。

見上げた曇り空のあの哀しさ、色っぽさを強く思い出しました。

 ――吉本ばなな 

 

それでも彼女たちは、届かないものに手を伸ばすのだろう 

そして生きてゆくのだろう 

――西加奈子

 

ここで一つだけ、最後の「黒じゃなくて青なんだね」から…

 

遥希と会う回数は目に見えて減ってはいたけれど、その香りを身に纏いながら遥希と三つほどの季節を過ごした頃、遥希からの連絡はとうとうほぼなくなって、電話がかかってくることはおろか、電話をかけても出てくれることはなくなり、メッセージに既読がつくことさえなくなっていた。しかし不思議なことに、私は、ああ、そうか、と、どこか冷静に遥希の不在を受け入れることができていた。

遥希が本来は私のようなルックスの女性が好きではないことなどとっくに気づいていたし、遥希に合わせて行動する自分がどんどん惨めな姿になっていることにも、遥希に舐められてしまっていることにも、本当はとっくに気付いていた。それでも好かれたくて、好かれていると思いたくて、そうやって必死になればなるほど遥希が私から離れていくことさえきちんと実感しながらも、それでもいつか遥希が心から私を愛してくれる瞬間があるのではないかと期待することをやめられなかった。

 

ヒコロヒー:

1989年、愛媛県生まれ。

ピン芸人。

著書にエッセイ集「きれはし」がある。

本書は初の小説集となる。