村田沙耶香の「信仰」を読んだ! | とんとん・にっき

村田沙耶香の「信仰」を読んだ!

 

村田沙耶香の「信仰」(文藝春秋:2022年6月10日第1刷発行)を読みました。

 

村田沙耶香と言えば「コンビニ人間」、なんと38に国と地域で翻訳されている、という。

 

「コンビニ人間」の芥川賞選評(文芸春秋)小川洋子さん

自分は普通ではない。どこか変なのだと自覚している人間を語り手にして小説を書くのは難しい。変であることを特権のように振りかざして、時に読み手をうんざりさせる。しかし「コンビニ人間」はその危険を巧みにすり抜けた。社会的異物である主人公を、人工的に正常化したコンビニの箱の中に立たせた時、外の世界にいる人々の怪しさが生々しく見えてくる。あるいは、明らかな奇人、白羽が主人公の部屋で一緒に暮らすうち、思いがけず凡庸な正体を露呈してしまう。あやふやな境界を自在に伸び縮みさせる、このあたりの展開を面白く読んだ。主人公は安易に変化しない。切なくけなげな自分をアピールしない。どうにもならないことを、どうにもならないままに書ききった勇気を、賞賛したい。

 

目次

信仰

生存

土脉潤起(どみゃくうるおいおこる)

彼らの惑星へ帰っていくこと

カルチャーショック

気持ちよさという罪

書かなかった小説

左後の展覧会

 

以下、概略を記す。

信仰

「なあ、永岡、俺と、新しくカルト始めない?」駅前のショッピングモールの中にあるサイゼリアで、石毛からそう切り出されたのは、家族連れで賑わう日曜日の午後のことだった。

生存

子供の頃から、私の生存率は低かった。生存率とは、65歳のときに生きている可能性がどれくらいか、数値で表したものだ。今の時代、お金さえ払えば大抵の病気は子供の頃に治せてしまうので、生存率は本人が得るであろう収入の程度の予測とほぼ比例している。

土脉潤起(どみゃくうるおいおこる)

姉が急に、「私は野生に返る」と言って家を出てから、三年が経った。それか、ら、季節の変化に敏感になった気がする。

彼らの惑星へ帰っていくこと

子供のころから宇宙人は、私にとって人間よりも身近な存在だった。「宇宙人」という概念を、自分がいつ知ったかは覚えていない。たぶん、自分が「地球人」だと感じた瞬間には、すでに彼らのことを知っていたのだと思う。

カルチャーショック

僕とパパが「均一」を出て「カルチャーショック」についたのは、昨日の夜遅くだった。朝早く、まだ外が暗いうちに、ぼくはぐっすり寝ているパパの隣でそっとベットから抜け出し、フロントの前をすり抜けて、ホテルの外へ飛び出した。

気持ちよさという罪

子どもの頃、大人が「個性」という言葉を安易に使うのが大嫌いだった。確か中学生くらいのころ、急に学校の先生が一斉に「個性」という言葉を使い始めたという記憶がある。

書かなかった小説

家電に詳しい友達に強く勧められ、自分のクローンを買うことにした。既に持っている友達によると、「だいたいルンバとおなじくらいの便利さ」とのことだった。前から興味があったので、その言葉が決め手になって決意したのだった。

左後の展覧会

真っ暗な星の表面をよく見ると、さらに深い黒で輪郭が見えて、海と島があるとわかった。Kは慣れた手つきで水面と陸を見分け、水がない方の暗闇に着陸した。

 

村田沙耶香:

1979年千葉県生まれ。2003年「授乳」で群像新人文学賞優秀作、09年「ギンイロノウタ」で野間文芸新人賞、13年「しろいろの街の、その骨の体温の」で三島由紀夫賞、16年「コンビニ人間」で芥川賞を受賞した。ミリオンセラーとなった「コンビニ人間」は、2022年現在38の国と地域で翻訳されている。20年には「地球星人(Earthlings)」、22年には「生命式(Life Ceremony) 」の英訳が刊行されるなど、世界各国で注目を集め続けている。また本書の表題作「信仰」は、「Faith」(ジニー・タブリー・タケモリ訳)としてイギリスの「Granta Online」に掲載され、2020年のシャーリー・ジャクスン賞の中編小説部(Novelette)にノミネートされた。その他の著書に小説「殺人出産」「消滅世界」「丸の内魔法少女ミラクリーナ」「変半身」、エッセイに「きれいなシワの作り方」「私が食べた本」「となりの脳世界」、絵本「ぼくのポーポがこいをした」(絵・米増由香 編・瀧井朝世)ほか。

 

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