斎藤幸平+松本卓也の「コモンの『自治』論」を読んだ! | とんとん・にっき

斎藤幸平+松本卓也の「コモンの『自治』論」を読んだ!

 

斎藤幸平+松本卓也の「コモンの『自治』論」(集英社シリーズ・コモン:2023年8月30日第1刷発行)を読みました。

 

気鋭の論客たちのスリリングな論考が集まった本です。感動しました。

 

本書は、「自治研究会」と題された研究会のなかで、各章の著者がそれぞれの現場の「自治」論をもちより、討論を行って完成させたものである。

最初の二つの章は、現代における「自治」の衰退を確認した上で、「自治」の再生のための希望を示す章である。

第二章では、商品交換の場である商店における「自治」が取り上げられる。

つづく四つの章は、「自治」を「当事者になること」の実践として捉えるものであると言えるかもしれない。

第三章は、杉並区長の岸本聡子氏が執筆した、公共政策や地方自治という、文字通りの「自治」の現場からのレポートである。

社会学者の木村あや氏による第四章は、そのような身近な問題についての「自治」の実例を提供してくれる。2011年の原発事故後の市民科学の活動を紹介するとともに、そのような「自治」の活動が当事者を水平的に結びつけることの重要性が説かれる。

第五章の拙稿では、精神病院という現場における「自治」すなわち自主管理の要求とそれ以後の実践の記憶が、現代における精神医療の倫理をかろうじて担保しており、患者や治療者やスタッフがそれぞれ当事者になることを可能にしていることを指摘している。

第六章は歴史学者の藤原辰史氏の手によるものだ。農村自治という具体例をもとに、「自治」が魅力的なものであるだけでなく、ファシズムや新自由主義的な統治へと反転してしまう可能性をもつものでもあることが論じられる。

最終章は、斎藤幸平氏が社会変革の観点から「自治」を論じている。「自治」とは、水平的であるだけでなく、組織化というちょっとした垂直化の契機を含むものであって、その意味では水平的であるというよりは「斜め」の実践なのである。そうした新しい「自治」の実践こそが、複合危機の時代の「希望」であると斎藤氏は締めくくる。(以上、松本卓也「おわりに」より)

 

『人新世の「資本論」』、次なる実践へ!

 斎藤幸平、渾身のプロジェクト
戦争、インフレ、気候変動。資本主義がもたらした環境危機や経済格差で「人新世」の複合危機が始まった。国々も人々も、生存をかけて過剰に競争をし、そのせいでさらに分断が拡がっている。崖っぷちの資本主義と民主主義。この危機を乗り越えるには、破壊された「コモン」(共有財・公共財)を再生し、その管理に市民が参画していくなかで、「自治」の力を育てていくしかない。
『人新世の「資本論」』の斎藤幸平をはじめ、時代を背負う気鋭の論客や実務家が集結。危機のさなかに、未来を拓く実践の書。


目次
はじめに:今、なぜ〈コモン〉の「自治」なのか? 斎藤幸平
第1章:大学における「自治」の危機 白井 聡
第2章:資本主義で「自治」は可能か?
──店がともに生きる拠点になる 松村圭一郎
第3章:〈コモン〉と〈ケア〉のミュニシパリズムへ 岸本聡子
第4章:武器としての市民科学を 木村あや
第5章:精神医療とその周辺から「自治」を考える 松本卓也
第6章:食と農から始まる「自治」
──権藤成卿自治論の批判の先に 藤原辰史
第7章:「自治」の力を耕す、〈コモン〉の現場 斎藤幸平
おわりに:どろくさく、面倒で、ややこしい「自治」のために 松本卓也


著者略歴:
斎藤幸平(さいとう・こうへい)
経済思想家。『人新世の「資本論」』で新書大賞受賞。
松本卓也(まつもと・たくや)
精神科医。主な著作に『創造と狂気の歴史』など。
白井 聡(しらい・さとし)
政治学者。『永続敗戦論』で石橋湛山賞受賞。
松村圭一郎(まつむら・けいいちろう)
文化人類学者。『うしろめたさの人類学』で毎日出版文化賞特別賞受賞。
岸本聡子(きしもと・さとこ)
杉並区長。主な著作に『水道、再び公営化!』など。
木村あや(きむら・あや)
社会学者。Radiation Brain Moms and Citizen Scientistsでレイチェル・カーソン賞受賞。
藤原辰史(ふじはら・たつし)
歴史学者。『分解の哲学』でサントリー学芸賞受賞。

 

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