塩田武士の「存在のすべてを」を読んだ! | とんとん・にっき

塩田武士の「存在のすべてを」を読んだ!

 

塩田武士の「存在のすべてを」(朝日新聞出版:2023年9月30日第1刷発行)を読みました。

 

どうしてこの本を読み出したのか、まったく覚えていない。いずれにせよ普段僕の読むものとはまったく違っていたことはたしかである。まあ、評価が高そうなので気分転換にと思い、あまり期待もせずに読んでみることにしました。

 

前代未聞「二児同時誘拐」の

真相に至る「虚実」の迷宮!

真実を追求する記者、

現実を描写する画家。

著者渾身の到達点、圧巻の

結末に心打たれる最新作。

 

平成3年に発生した誘拐事件から30年。当時警察担当だった新聞記者の門田は、旧知の刑事の死をきっかけに被害男児の「今」を知る。異様な展開を辿った事件の真実を求め再取材を重ねた結果、ある写実画家の存在が浮かび上がる――。質感なき時代に「実」を見つめる、著者渾身、圧巻の最新作。

 

五〇ページものボリュームを割いた「序章――誘拐――」で描かれるのは、平成三年(一九九一年)に神奈川県下で発生した特異な誘拐事件だ。

一二月一一日の夕刻、厚木市内で二人組の男に小学六年生の少年が拐われ、犯人は電話で母親に身代金を要求した。通報を受けた警察は、警視庁の特殊事件捜査指導官を含む総勢二七九名からなる対策チームを編成。

翌一二日、警察のバックアップを受けた両親が身代金受け渡しのために動き出した矢先、横浜市中区に暮らす資産家から「四歳の孫が誘拐され、身代金を要求された」という新たな通報が入る。すでに厚木に配備している警察官を、山手に回すのは難しい。

残った人員の中から二件目の誘拐事件の対応を任せられたのは、かつて県警本部の特殊班にいた所轄刑事・中澤洋一だった。(AERA::8月26日)

 

そしてラストは、

門田の時計の針が30年の時を巻き戻していく。滋賀にある「英語塾レインボー」で撮られた写真、貴彦から亮へ受け継がれた500号の絵、そして約10メートル前方でジョーロを持つ実在の女性―指紋のような正確さで、答えが導き出された。

二人の写実画家を見守り続けた、妻であり母でもある一人の女。

母と子は再会していた―。

言い知れぬ衝動が門田を芯から貫いた。乳歯一つにも愛情を注いだ人が辿り着いた、揺るぎない執着。

揺さぶられて立ち尽くす記者に、重なり合うエゾハルゼミの泣き声が降り注いだ。

野本優美は門田に深く一礼すると、マスクをして背を向けた。そして、迷いのない足どりで館の門へ歩いて行った。

 

塩田武士:

1979年兵庫県生まれ。関西学院大学卒業後、神戸新聞社在籍中の2010年「盤上のアルファ」で第5回小説現代長編新人賞、11年第23回将棋ペンクラブ大賞を受賞。16年「罪の声」で第7回山田風太郎賞を受賞、「週刊文春ミステリーベスト10」国内部門第1位。19年に「歪んだ波紋」で第40回吉川英治文学新人賞を受賞。著書に「女神のタクト」「崩壊」「騙し絵の牙」「デルタの羊」「朱色の化身」などがある。