十重田裕一の「川端康成 孤独を駆ける」を読んだ! | とんとん・にっき

十重田裕一の「川端康成 孤独を駆ける」を読んだ!

 

十重田裕一の「川端康成 孤独を駆ける」(岩波新書:2023年3月17日第1刷発行)を読みました。

 

最近、いくつかの川端康成に関する記事を書きました。

100分de名著の、北條民雄の「いのちの初夜」に関するもの。

そして川端の初期の作品、「少年」を読んだこと。

この二つが、川端理解に大きく役立ちました。

 

 

 

 

さて、十重田裕一の「川端康成 孤独を駆ける」ですが、なにしろ細かい、詳細にわたって書かれています。名作の「伊豆の踊子」は、単行本刊行時にはまだ多くの読者を獲得していなかったし、文壇で高い評価を得ていなかったという。初期の傑作といわれている「浅草紅団」については、僕は初めて聞くことばかりでした。鎌倉を舞台とする「千羽鶴」と「山の音」は、若いころ読みましたね。横光利一と菊池寛との関係は興味深い。鎌倉文庫以降の活躍、ペンクラブの活躍は、素晴らしいに尽きます。そうそう、映画化された作品が多いのも川端の特徴の一つです。

 

二〇世紀文学に大きな足跡を残した川端康成は、その孤独の精神を源泉に、他者とのつながりをもたらすメディアへの関心を生涯にわたって持ち続けた。マス・メディアの成立、活字から音声・映像への展開など、メディアの状況が激的に変化していく時代のなかを、旺盛な創作活動のもとに駆け抜けていった作家の軌跡を描きだす。

 

他者とのつながり、心を通わすことを強く求める思いが、川端の文学の基盤をかたちづくっていた。言葉で表現することへのこだわりがあったことで、川端は文学者の道を歩むことになる。他者と自己とをつなぐ媒体への関心は、言葉だけにとどまるものではなく、写真・映画・ラジオ・テレビなどにも及んでいた。テレパシーへの関心も、ここにいない他者との交信に対する強い思いの表れであった。(第1章より)

 

目次

はじめに
第一章 原体験としての喪失――出生から上京まで
  1 天涯孤独の感覚と他者とのつながり
  2 川端康成の日本語観
   3 文学者を志して上京する
 《コラム》
  1 臨時国語調査会と川端康成
  2 はじまりとしての「招魂祭一景」

第二章 モダン都市とメディアを舞台に

      ――「伊豆の踊子」と「浅草紅団」
  4 新感覚派の旗手として
  5 一九二六年、映画との遭遇
  6 「名作」はつくられる
  7 帝都復興を映し出す「浅草紅団」
 《コラム》
  3 『文藝時代』同人たちの去就
  4 共同製作に携わった歓び
  5 学生時代の恋愛と別れ
  6 復興する東京のパノラマ

第三章 戦中・戦後の陰翳――書き続けられる「雪国」
  8 文芸復興期前後の活躍
  9 言論統制と「雪国」
  10 新人発見と育成の名人
  11 女性作家支援と女性雑誌での活動
 《コラム》
  7 競い合う創作
  8 創作と後進支援の舞台裏

第四章 占領と戦後のメディアの中で
  12 知友たちの死と鎌倉文庫
  13 GHQ/SCAP検閲下における創作と出版
  14 占領終了前後に紡がれる物語
  15 高度経済成長期のノスタルジー
 《コラム》
  9 美術品の収集と死者との対話
  10 敗戦後の文学全集と文庫本
  11 教室の中のベストセラー
  12 「伊豆の踊子」とツーリズム
 

第五章 世界のカワバタ――「古都」から「美しい日本の私」へ
  16 文学振興への献身

  17 翻訳と「日本」の発信
  18 ノーベル文学賞への軌跡
 《コラム》
  13 川端康成と松本清張
  14 「弓浦市」と『富士の初雪』

 おわりに
 主要参考文献
 あとがき

 図版出典一覧
 川端康成原作映画一覧
 川端康成著作目録
 川端康成関連年表

 

十重田裕一(トエダ ヒロカズ):
1964年東京都生まれ.日本近現代文学専攻.博士(文学).
早稲田大学文学学術院教授・国際文学館館長,

柳井イニシアティブ共同ディレクター.
著書に,
『占領期雑誌資料大系 文学編』全5 巻(共編,岩波書店,2009-10年)
『岩波茂雄――低く暮らし、高く想ふ』(ミネルヴァ書房,2013年)
Literature among the Ruins, 1945-1955: Postwar Japanese Literary Criticism(共編著,Lexington Books, 2018年)
『東京百年物語』全3巻(共編,岩波文庫,2018年)
『〈作者〉とは何か 継承・占有・共同性』(共編著,岩波書店,2021年)
『横光利一と近代メディア ― 震災から占領まで』(第30回やまなし文学賞,岩波書店,2021年)
ほか.