金原ひとみの「ミーツ・ザ・ワールド」を読んだ! | とんとん・にっき

金原ひとみの「ミーツ・ザ・ワールド」を読んだ!

 

金原ひとみの「ミーツ・ザ・ワールド」を読みました。

 

金原ひとみは、2004年「蛇にピアス」で130回芥川賞を受賞し、同時に受賞した綿矢りさとともに、一躍時代の寵児となりました。「蛇にピアス」は読みましたが、その後読む機会がなく、最近、第57回谷崎潤一郎賞を受賞したという「アンソーシャル ディスタンス」を読みました。金原ひとみは、朝日新聞の書評欄で書く書評は、割と平均的な考えの文章を書いています。

 

さて「ミーツ・ザ・ワールド」は・・・

 

死にたいキャバ嬢×推したい腐女子

焼肉擬人化漫画をこよなく愛する腐女子の由嘉里。人生二度目の合コン帰り、酔い潰れていた夜の新宿歌舞伎町で、美しいキャバ嬢・ライと出会う。「私はこの世界から消えなきゃいけない」と語るライ。彼女と一緒に暮らすことになり、由嘉里の世界の新たな扉が開く――。推しへの愛と三次元の恋。世間の常識を軽やかに飛び越え、幸せを求める気持ちが向かう先は……。金原ひとみが描く恋愛の新境地。

 

さて「ミーツ・ザ・ワールド」は、以下のように始まります。

歩けない。歩けなかった。人生の中で自分の意思で歩けないという記憶がなくて、今自分が歩けないことが恐ろしくて仕方がない。しゃがみ込んでいた体から力が抜け、尻を地面につけて瞬間もうここで死ぬのかもしれないと思う。私はこんなところで、こんなに惨めな気持ちのまま、こんなになす術もなく処女のまま死んでいくのか。そう思った瞬間涙が溢れた。ただただ悲しかった。つまらない人生だった。我が人生をそう締めくくると、涙がアスファルトを濡らした。

 

歌舞伎町で酔い潰れた腐女子の由嘉里が、美しいキャバ嬢のライに助けられる。由嘉里が「綺麗な人、あなたみたいになりたい」と言うと、「300万あればあんたもなれるんじゃい?」と言われ、「300万あげようか?」と言われる。ゲロと涙まみれの由嘉里は、歌舞伎町から徒歩圏内の彼女のマンションに連れていかれた。バスルームに押し込まれた由嘉里は、すべて洗い流すことに集中します。バ スタオルに体を包んだまま、ゲロまみれの服を前に途方に暮れていると、急にドアが開いて、シュートパンツとキャミソールが投げ込まれた。不釣り合いなセットを身に付けリビングのドアを開けるとソファの上に座っていた彼女が「似合わないな」と無表情のまま言った。部屋はどこからともなく腐敗異臭がする。ごみが散乱し、足の踏み場もない。彼女がソファに座っていたのは消極的選択で、ソファしか腰を落ち着けられる場所がないのだ。「駄目だよこれは駄目。本当にこんな生活していたらあなた死んじゃうよ」「だから私死ぬんだって」。ライは「私はギフテッドなの。私にはこの世から消えるための高度な才能が与えられている」と言う。「ミート・イズ・マインってなに?」「焼肉の部位がイケメンに擬人化してミノくんとかトモサンとかカイノミンとかがライバル心と仲間意識と自尊心のコンプレックスとの間で仲良くしたり仲違いしたりする日常系焼肉漫画。由嘉里の推しはトモサン」。「ああ、そういうやつね。キャバにも結構腐女子いるよ」。片付けは思ったよりも楽だった。45リットルのゴミ袋に目についたゴミらしきものを詰め込んで廊下に出してしまうと、残ったのはほとんど洋服だった。シンクの中の食器も洗剤とスポンジで洗った。バスルームの排水溝やトイレも買ってきた掃除用具でピカピカに磨き上げた。「ライさん、見てください綺麗でしょ? 」「わーすごい。天国みたい」。「 家に帰りたくないんならここに帰ってきてもいいよ」。思わず眉をひそめて、いいんですか?と聞く。理由もなくこれから死ぬことを決めている彼女には何も執着がなくてそれが私には怖くて、怖すぎて目を離せないという思いが、私が今日もここに帰ってきたいと思った理由の一つだ。

 

 

金原ひとみ『ミーツ・ザ・ワールド』刊行記念インタビュー

「真逆の二人がぶつかった先に生まれる、新たな愛の形」

インタビューに答えて

彼女はいろんな人と出会って、見る世界がどんどん広がっていく。おかげで自分に必要なものを自分で認められる強さを得ていくんですよね。見た目的なところは変わってなくても、きっと一緒にいるみんなには、彼女がどんどん自信を持っていって、自分がどういう人なのかということに自覚的になっていく姿が見えていただろうと思いますし、書いている私も嬉しかったです。

 

金原 ひとみ (かねはら・ひとみ)

1983年東京生まれ。
2003年『蛇にピアス』で第27回すばる文学賞を受賞。
04年、同作で第130回芥川賞を受賞。ベストセラーとなり、各国で翻訳出版されている。
10年『TRIP TRAP』で第27回織田作之助賞を受賞。
2012年『マザーズ』で第22回Bunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞。
20年『アタラクシア』で第5回渡辺淳一文学賞を受賞。
21年『アンソーシャル ディスタンス』で第57回谷崎潤一郎賞を受賞。

 

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