カルロ・スカルパ「ブリオン家墓地」、その1 エントランス・パヴィリオン | とんとん・にっき

カルロ・スカルパ「ブリオン家墓地」、その1 エントランス・パヴィリオン



1990年の夏、あるデザイン関係の仲間と15日間のイタリアとパリへ旅行をしました。たしか、ローマ、フィレンツェ、ヴェネツィア、パリ、それぞれ3日間ずつ同じホテルに滞在するというものでした。1日はみんなで見て回り、あとの2日は自由行動でした。ヴェネツィアに泊まったときの自由行動は、1日は同室だったあるカメラマンと一緒にヴィチェンツァへ行ってパラーディオの建築を見て、もう1日は建築家でパース屋、そしてCADの専門家のKさんとスカルパの「ブリオン=ヴェガ」を見に行こうということで、ヴェネツィアのサンタルチアの駅から汽車に乗りました。


手掛かりは建築雑誌にあった「トレヴィゾ近郊」という、駅名というか地名だけでした。とりあえず行ってみるか、というのがスタートですから、どうなることやら、先がまったく見えません。いま、その雑誌を見てみると「トレヴィゾ近郊、サン・ヴィトー・ダルティヴォレ」とあります。ここまで分かっていれば、あんなに苦労しなくても行けたのに、と今さらながら思います。


なにしろブリオン=ヴェガへ着くまでは聞くも涙、語るも涙の大変な珍道中でした。なんとか悪戦苦闘してトレヴィゾから乗ったバスの終着駅まで着いたのですが、そこからが大変、炎天下の中、二人で畑の中の一本道を延々歩き、途中で音を上げて入った小さなレストランのおじさんの計らいで、そこの息子さんにブリオン=ヴェガまで車で送ってもらいました。


ブリオン=ヴェガに着いたら、偶然にも門番のおじさんがいて、鍵を開けて墓地の中に入れてくれました。おじさんがいなかったら墓地の中に入れなかったことを思うと、背筋に汗が流れました。後からやって来たドイツの学生さん2人組も、一緒に見て回りました広い墓地の中、見学者は僕たち二人と彼らが二人、ゆったりと観て回ることができました。帰りは彼らの車で、バス停まで送ってもらったりもしました。


カルロ・スカルパ(1906-1978)

イタリアの建築家。ヴェニスに生まれ、ヴェネト地方の豊かな文化の中で古い建物の改修を中心に活動。コンクリートやスタッコ、金属などの材料を使いながら、一貫して環境やそれを構成する物質に対する繊細でシャープな感覚によって、タイムレスな新しさを持つデザインを行った。その場のコンテクストを現代的に展開させる方法は深い洞察に基づいており、ライトやカーンといった人々とも交流を持ち、日本にもフォロワーが多い。

(「20世紀の現代建築を検証する」2013年7月25日発行、エーディーエー・エディタ・トーキョーより)


ブリオン=ヴェガ墓地

イタリアの工業界で財を成したブリオン家一族のための廟。それまで改修や展示、増築の仕事の多かったスカルパだが、この作品では経費の面でも建物の機能の面でもほとんど拘束を受けなかった。内側に傾いた塀で囲まれたL字形の敷地の中には、ちょうど要の位置にブリオン夫妻の墓が軸線を45度振って配置されているほか、双子円をくりぬいた壁のエントランス棟、池の中に浮かぶパヴィリオン、家族の墓、礼拝堂などがあり、その構成には日本の回遊式庭園からの影響がうかがえる。空間構成、ディテールはいずれも極めて技巧的で、さまざまな独自の建築言語が、過剰と思えるほどに織り込まれている。それらはまた職人の手仕事の技術を十分に生かしたものでもある。随所に石や金属、木が効果的に使われている。息子トビア・スカルパのデザインによるカルロ・スカルパの墓もこの一角にある。

(新建築1991年6月臨時増刊創刊65周年記念号「建築20世紀PART2」より)




エントランス、廻廊、あずまや








とんとん・にっき-ga GAグローバル・アーキテクチュア

〈カルロ・スカルパ〉

ブリオン=ヴェガ墓地1970-72

企画・撮影:二川幸夫

文:パオロ・ポルトゲージ

デザイン:細谷巌



とんとん・にっき-sca3 a+u建築と都市
1985年10月臨時増刊号

発行日:1985年10月3日

編集者:中村敏男

発行所:株式会社エー・アンド・ユー








とんとん・にっき-sca2

《現代の建築家》カルロ・スカルパ
編著:SD編集部

発行:昭和53年5月15日
発行所:鹿島出版会





とんとん・にっき-sca1 「カルロ・スカルパ」

SD選書207

発行:1989年2月20日

編者:アーダ・フランチェスカ・マルチャノ

訳者:濱口オサミ

発行所:鹿島出版会