鈴木博之の「庭師 小川治兵衞とその時代」を読んだ! | とんとん・にっき

鈴木博之の「庭師 小川治兵衞とその時代」を読んだ!

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鈴木博之の「庭師 小川治兵衞とその時代」(東京大学出版会:2013年5月31日初版)を読みました。鈴木の著作は、最近「都市へ」を読みブログにアップしましたが、その他はほとんどブログに書いていません。というか、最近はまったく鈴木の著作は読んでいなかったことに気がつきました。


もちろん、初期の傑作である「建築の世紀末」(晶文社:1977年5月30日初版)や、「建築の七つの力」(鹿島出版会:昭和59年10月30日)、「夢のすむ家」(平凡社:1989年8月10日初版第1刷)、「建築家たちのヴィクトリア朝―ゴシック復興の世紀―」(平凡社:1991年11月20日初版第1刷)、「東京の地霊」(文藝春秋:1990年5月30日第1刷)等々、まだまだありますが、読んではいますが、ずいぶん前の話です。そういえば、東京大学退職を記念した「近代建築論講義」(東京大学出版会:2009年10月22日初版)は、多くの執筆者の協力により出版されたもので、興味の赴くままに拾い読みしていますが・・・。


著者紹介:鈴木博之
1945年、東京都生まれ。1974年、東京大学工学系大学院博士課程修了。工学博士。ロンドン大学コートゥールド美術史研究所留学。東京大学工学部専任講師を経て、1990年より東京大学大学院工学系研究科教授。2009年4月より青山学院大学総合文化政策学部教授。2010年4月より博物館明治村館長併任。

主著:「東京の『地霊』」(文藝春秋、1990年、サントリー学芸賞)。「ヴィクトリアン・ゴシックの崩壊」(中央公論美術出版、1996年、日本建築学会賞)。「都市へ」(中央公論新社、1999年、建築史学会賞)。「都市のかなしみ」(中央公論新社、2003年)。「建築の遺伝子」(王国社、2007年)ほか多数。

「庭師 小川治兵衞とその時代」というタイトルから本の内容を想像すると、まったくのところ肩すかしを食わされます。建築史家の鈴木がどうして「庭師」の話を書くのか、疑問に思っていました。そういえば、ずいぶん昔のことですが、有楽町マリオンができた頃、20年前ぐらいだったと思いますが、その上にある朝日ホールで庭園に関しての鈴木の講演を聞きに行ったことを思い出しました。たぶん、西洋と日本の庭園の違いの話だったように思いますが・・・。鈴木がしきりに「おにわ」と言っていたことが、妙に印象に残っています。


鈴木博之の「都市へ」を読んだときに、以下のように書きました。

「面白かったのは、というか、よく知らなかったことですが、第二部の琵琶湖疎水計画とその展開と、阪神間という土地、でした」。実はこの部分が、「庭師 小川治兵衞とその時代」にもで出くる主要な話なのです。


「序 哲学の道」には、以下のようにあります。

小川治兵衞という庭師は1860(万延元)年4月、京都府に生まれ、1877(明治10)年、京都の庭師・小川家の養嗣子となって家業を継いだ。彼は琵琶湖疎水の水を引き入れた庭園群をつくることによって、近代京都に新しい庭園文化をもたらした。


続けて、

京都に「哲学の道」と名付けられた道がある。南禅寺から銀閣寺の手前にかけてゆったりと流れる琵琶湖疎水の支流の辺に沿った道で、紅葉の頃はとりわけ美しい風情をただよわせる。・・・しばしば京都を千年の都などというが、「哲学の道」から南禅寺にいたるあたりは、・・・それは明治から昭和にかけて生み出されたものなのである。つまり、千年の都の面影ではなく、近代日本の生み出した文化の姿なのである。・・・そこには、山県有朋にはじまり近衛文麿にいたる、近代化を求め続けた日本の支配層が欲した、彼等の私的全体性を支えてくれる表現があったのである。


ということで、「庭師 小川治兵衞とその時代」本は、琵琶湖疎水自体の開発の歴史から始まります。


以下のふたつの書評、内容紹介をみると、この本の概略が見えてきます。


日本経済新聞のこの本の書評、評者は熊倉功夫ですが、以下のようにあります。

壮大な文化創造のドラマ――本書は単なる庭師小川治兵衛の伝記でもなく庭園の分析でもない。日露戦争より太平洋戦争終結に至る、近代日本が歩んだ壮大な文化創造のドラマであり、現代日本に対する問題提議の書物ともなっている。


出版社からの内容紹介は、以下のようにあります。

小会PR誌「UP」の好評連載を加筆・再構成し、待望の書籍化。山県有朋、西園寺公望、近衛文麿……国家の最大限の西欧化を推進しつつ、私的には伝統に縛られない和風の表現を求めた明治から昭和前期の政治家・企業家たち。彼らが愛した植治の庭を通して、日本の近代化のあり方を見つめる。建築に歴史的まなざしを注いできた著者による近代化論。


目次
序 哲学の道
1章 近代化のなかの琵琶湖疏水開発
2章 はじまりとしての山県有朋
3章 庭園におけるブルジョワジーと華冑界
4章 琵琶湖疏水を庭園へ
5章 庭園世界の拡大
6章 数寄者たちの創造のあり方
7章 最後のパトロン

とんとん・にっき-suzu3 「シリーズ日本の近代 都市へ」

2012年10月25日初版発行

著者:鈴木博之

発行所:中央公論新社











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