俳人の中村草田男氏のことが出ましたが、この俳人の有名句を一寸みると、

 

  降 る 雪 や 明 治 は 遠 く な り に け り

  蟇 蛙 長 子 家 去 る 由 も な し

  秋 の 航 一 大 紺 円 盤 の 中

  夕 桜 あ の 家 こ の 家 に 琴 鳴 り て

    妻 二 タ 夜 あ ら ず 二 タ 夜 の 天 の 川

    吾 妻 か の 三 日 月 ほ ど の 吾 子 胎 す か

    妻 抱 か な 春 昼 の 砂 利 踏 み て 帰 る

  虹 に 謝 す 妻 よ り ほ か に 女 知 ら ず

  燭 の 灯 を 煙 草 火 と し つ チ エ ホ フ 忌

  万 緑 の 中 や 吾 子 の 歯 生 え 初 む る

  勇 気 こ そ 地 の 塩 な れ や 梅 真 白

  空 は 太 初 の 青 さ 妻 よ り 林 檎 う く

 

滑稽を首とした俳諧というよりも、まさしく「俳句」というものですね。例えば、わたしには、

 

  浦 風 や 巴(ともえ)を く づ す む ら 千 鳥               曾 良

 

群れた千鳥がぐるぐると、きれいな渦を巻いて飛んでいたが、浦風がさっと吹いて「あらッ」とばかり崩れてしまったというほうが無邪気で愉快である。こちらは句意に深みなどありませんが、真に好いのはどちらでしょうか。