戦戦まもなく、社会的問題を扱った句に「メーデーの腕くめば雨あたたかし」というものを知りまして、当時素人が作った懸賞俳句に入賞した作品だそうです。

 そのときの素直な感情を吐いたものというのは認められますが、たとえば貞門や談林、蕉風の伝統上に繫がる作とは到底思えませんね。

 現代の深刻な問題を五七五に表そうとするとこんな風に陥ってしまう。現代詩や散文で表現すべきを、わざわざ俳句の力を借りることもないのでは。

 また有力俳人の一人であった中村草田男氏の「蝶々の横行コールド・ウォーアの中」という句は朝鮮戦争の勃発時の一句だそうで、見事な作と称賛する評者もあまたにあります。「蝶々の横行」という冠、流石巧いことは巧いですが、私はこのような題材を扱うのは好きじゃない。

 発句というものは、世間の事情などに執着せず知らぬ顔をして、鶯や時鳥、冬の月などを吟ずるべきです。