第115回 同志社グリークラブ定期演奏会 感想 | とのとののブログ

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 2020216()に京都コンサートホール大ホールで開催された,第115回同志社グリークラブ定期演奏会を聴いてきた。昨年は残念ながら伺えなかったので楽しみ。

 

 Doshisha Colledge Songは,ちょっと緊張しているのか喉が温まりきっていないのか硬いけど,これからの演奏が楽しみになる歌唱。38名がオンステで,以下ほぼ同数。人数が減っているのは気がかり。ボイストレーナーが3人おられるのだけど,どういう分担なんでしょう。一人は分かる,二人もまあ分かる,四人も分からないではない。三人とは?

 

1ステージ

カンティクム・サクルム第2

男声合唱のための3つの聖母賛歌《マリア,アレルヤ!

作曲 千原英喜/指揮 伊東恵司/パーカッション 樽井美咲

 

 3曲とも趣向が異なり大変楽しめた。一曲目「Maria, Mater gratiae」は作曲者が言う「スローテンポな盆踊り」そのまま。グレゴリア聖歌らしい単旋律の唄い出しは宗教曲だけど立体的なパーカッションが盆踊的で,明るいハーモニーがなり始めてもクリスチャンというよりキリシタン的な響きなのが面白い。二曲目「Ave Maria, gratia plena」では,日本語でゆったりとアカペラで歌われ,「どちりなきりしたん」風のハーモニー。ハーモニーの色合い変わるところで内声の動きがもうすこしクリアでも良かったが,これは個人的好み。第三曲「Alleluia (Regina ceali)」は一曲めを更に土俗的にした感じで,掛け声やパーカッションのリズムは日本的を越え,アフリカ的ともネイティヴ・アメリカン風とも。東宝映画「キングコング対ゴジラ」でキングコングを称える島民の歌を思い出してしまった。グリーメンもノリノリで歌っておられたのが良かった。

 

 

2ステージ

男声合唱組曲「雪明りの路」

作曲 多田武彦/作詩 伊藤整/指揮 村津耕平

 

 60年前に作曲されたこの組曲が,いまも若い人たちに歌い継がれているのが興味深い。私が現役だった1970年代後半は,畑中良輔先生が指揮される慶應義塾ワグネル・ソサィエティー男声合唱団のLPが決定版のように扱われ,みながその演奏を聴いているためかどこも似たような演奏(フレージングやテンポなど)をしていたのだけど,その呪縛から自由になっているのが頼もしい。逆に,全体のテンポ設定がすこし慌ただしく,もうすこしゆったり表現して欲しいところもあったけれど,それは私が未だに呪縛されているからでしょう。このような「若い」曲に感情移入しにくくなっている自分を見つけ,戸惑っているところもある。静かに賢く老いていけたら良いのだけど。

 

3ステージ

OB合同ステージ 「秋のピエロ」他,愛唱曲

指揮 (浅井敬壹/)桑山博/山下裕司/伊東恵司/村津耕平

 

 OB80名を合わせ120名の演奏。この人数で音がほとんど濁らないのは大したもので,羨ましいかぎり。予定されていた浅井先生がご都合で出演できなくなったとのこと,パンフレットにも記載されているので昨日今日のことではないのでしょううが心配です。「赤とんぼ」を振られる予定だったそうですが,福永陽一郎先生を同志社グリークラブに招聘された時,最初にステージで振っていただいたのが「赤とんぼ」だそうです。その思いも含んでの選曲だったと思う。聴けなかったのは断念。

 桑山博さんの指揮でAlbert Duhaupas作曲のKyrie,山下裕司さんの指揮で多田武彦作曲「梅雨の晴れ間」,伊東恵司さんの指揮で清水脩作曲「秋のピエロ」,そして学生指揮者村津耕平さんの指揮で「詩篇98」。名曲揃いで圧倒的な響きの男声合唱を楽しめた。

 思い切り個人的には,同志社グリークラブゆかりとしてAlbert DuhaupasGloriaを,多田武彦氏の曲は「雪と花火」の「花火」を演奏してもらえたら嬉しい。120回定期演奏会ぐらいで演ってもらえないかしらん()

 

4ステージ

ロマン派合唱作品集 シューベルト作品他

指揮 伊東恵司

 

 メンデルスゾーンの「Liebe und Wein 」「Wanderlied」,シューマンの「Die Lotosblume」,シューベルトの「Grab und Mond」「Die Nachtigall 」。実にのびのびと,生き生きと歌われ,声もこなれてきて,ドイツロマン派のステージとして今まで聴いた中で出色の演奏だった。ドイツ語の発音や歌いまわしはワグネルに一歩(も二歩も)及ばないけど楽しく歌っている点で,そしてそれがこちらにストレスなく伝わるという点で,日本人がドイツロマン派の合唱曲歌うスタイルとして理想形の一つ。ドイツ音楽の向こうに人類として至高の音楽があるというのは偏見だと思うし,ドイツ人のマネをいくらしても彼らより先に行くことはできない(ワグネルを揶揄しているのではない)。ならば,至高などと考えずに,読み取れる音楽を日本人として楽しむスタイルはありだと思う。ある意味,第一ステージのキリスト教音楽を「土着的に処理する」ことと通じるところがある。

 しかし,このアプローチは曲を選ぶのかもしれない。Grab und Mondの時は一転してたたどたどしく拙い。楽しさに共鳴できない場合はたじろぎ固まってしまう。このあたりは今後の課題。

 同志社大学の図書館には,大先輩の山口隆俊さんが寄贈されたドイツ語男声合唱曲の楽譜がたくさん眠っている。いまでは本国も買えないものもあるので,ぜひ研究して欲しい。ヘーガーの日本で演奏されていない曲もあるので,よろしくおねがいします。

 

5ステージ

男声合唱とピアノのための組曲「回風歌」

作曲 松本望/作詩 木島始/ 指揮 伊東恵司/ピアノ 水戸美弥子

 

 東西四大学でも演奏された。一部,修正して再掲。

「回風歌」といえば私には法政大学アリオンコールが委嘱した高橋悠治の曲だけど(作詩の木島始は一時アリオンコールの関係者でもあった),今回は松本望さんが作曲されたもの。歌詞を読むとあるメッセージを受け取ってしまいそうになるが,木島が「歌われるさいに,聴衆に必ずしも意味が理解されることを期待しているわけではない。くりかえし,くりかえされる殆ど無意味な言葉の連鎖のなかから,次の一句が出てくればいいわけである」と記している通り,次々と言葉が紡ぎ出されるさまを楽しむのがよいだろう。高橋の曲に比べてメロディアスなので,聴きやすい。

 

 こちらの聴き方の問題なのか,前回の演奏のほうが緊張感があった。印象の問題なのでなんとも言えないが,もしかすると歌いこんだ結果として,言葉の流れがスムーズになったのかもしれないず,だとすると,完成度が上がった。

 パンフレットには「『回風歌』の題名は,中国の詩人,李白の「古風その七」にある一旬,「同風送天啓」からとられたもである。武部利男による和訳によると「つむじ凪が天上の音楽をおくる」という意味であるようだ」とあり,「つむじ凪がおくる『天上の音楽』を感じていただければ幸いである」と書かれている。たしかに余計な緊張なく聴ける「天上の音楽」だったとも言える。しかし,「つむじ凪(なぎ)」という言葉はきいたことがなく,調べても出てこない。原詩にも「風」と書いてあるので,これは「つむじ風」で,言葉がくるくる回るという意味で使われているはず。

 

アンコール

 30年前に学生指揮者だったという伊東さんの指揮で「Set down Servant」,村津さんの指揮で多田武彦作曲「宇宙線驟雨の中で」。

 

バラエティに富んだ挑戦心のある演奏会でした。グリーメンも40名程度で声がへたることもなく,歌い切るのはさすが。ストームを近くで聴きましたが,すごいボリュームでした。できればあと10人,できれば20人欲しいところ。再び60人で聴けたら嬉しいです。

 

次回は2021117(京都コンサートホール)だそうです。メモメモ。

 

ストーム中のグリーメン。斎太郎節,Ride the Chariot,そしてDoshisha Colledge Songにて締めくくり。お顔には軽くモザイクかけました。

 

以上