慶應義塾ワグネル・ソサィエティー男声合唱団 第142回定期演奏会 | とのとののブログ

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 東西四大学の定演,トップを切ったのはワグネル。普通は12月以降だからかなり早い。

プログラム上は67名だが,オンステメンバーは55名程度。今年は一階ベース側で聴いたが,よく響くホール。頭声が効いた塾歌の演奏で幕が上がる。

 

第一ステージは,東西四大学で演奏した男声合唱組曲「ひたすらな道」(高野喜久雄作詩,髙田三郎作曲),指揮は佐藤正浩先生,ピアノ伴奏は前田勝則先生。東西四大学のときは1970年代の全日本合唱コンクールでの高校女声合唱団の演奏に心を奪われた経験から,男声の演奏に入り込めないと書いた。

(https://ameblo.jp/tonotono-57-oboegaki/entry-12286980928.html)

それはやはり失礼な話なので,今回はフラットに聴くように女声合唱の残像を追い払って聴いた。改めて聴くと,クリアに映像を描きながら(プレバトの夏木先生の俳句の指導にあるように)読むもの者の心をざわめかせる高野喜久雄の一連の詩を選び,それらに感動的な音楽を生み出した髙田三郎の凄さがよく分かる。ワグネルは緻密なアンサンブルの上に,この哲学的な世界を音楽として昇華すべく,日本語と格闘していた。時にトップのトーンをソフトなものに変えていたのは,通常のよく響くがハードで固い音色との対比がついて,表現の幅を広げていた。「あの弦だ 人の耳にはただの沈黙 ただの唖としてしか 響かない弦 あのいのちをこそ いのちとしたいと」の問いかけを差別意識で濁らせてはいけない。

 

第二ステージは,男声合唱組曲「吹雪の街を」(伊藤整作詩,多田武彦作曲)を指揮は学生の平田亮さん。彼が北海道のご出身なのでこの組曲を選ばれたのでしょうか。私が現役だった40年前も学生指揮者は多田作品を選ばれることが多いけど,その美しさとは裏腹に実は難しい。これは多田先生の「名演奏の秘訣」講義を受けられた方は分かるでしょう。多田先生ががあれを意識して作曲されているわけだから,歌う側も楽譜を分析して表現しないといけない。この「吹雪の街を」は,それに加えてパートソロが順に出てくる箇所など音色の違いを聴かせることで表現が立体的になる。とても残念だけど,今日はそこまでの表現に踏み込めてはいなかった。詩で歌われる年代に近く共感も深いと思うし,繰り出されるメロデイーの美しさは多田作品の中でも上位のものなので,のめり込んでしまうのはよく分かるけど,そこを踏みとどまって演奏してもらいたかった。

 

第三ステジは,男声合唱組曲「Enfance finie 〜過ぎ去りし少年時代〜」(三好達治作詩,木下牧子作曲),指揮は客演の清水敬一先生,ピアノ伴奏は前田勝則先生。個人的には単独ステージの中で最も良かった。音楽がよく流れ,膨らみのあるフレーズ作りと決め所で鳴る豊かなハーモニに魅惑された。清水先生の客演,成功ですね。

 

第四ステージは,佐藤先生の「4年に一度,ワーグナーを演奏する年」ということで,福永陽一郎先生が編曲された歌劇「『タンホイザー』より」を,合唱はワグネルOBと慶應義塾志木高校ワグネル,ワグネルのOBオーケストラ,ソプラノ小川里美さん,バリトンソロ谷口伸(ワグネルOB)。大行進曲の第一声から合唱の声量,いや,響きが耳に痛いほどに鳴る。オケの音の厚みやソリストの深い発声も相まって,聴き応えあるステージだった。この曲は,関西学院グリークラブの80周年演奏会で聴いたことがあり(東西四大学の合同でも聴いたかもしれないが忘れた),その時は関学ベースの全盛期(という言い方が悪ければ,空前絶後のベースだった時)で低音の迫力と厚さに圧倒されたが,今日は主としてテノールの響きに圧倒された。演奏の善し悪し的なことは述べる力がないです。

 

 アンコールは,佐藤先生がサン・サーンスの「白鳥」のボーカリゼ。多分,「ひたすらな道」の「白鳥」つながり。清水先生が三好達治・木下牧子つながりで「鴎」。学生指揮者の曲は知らない曲でした。新しい曲*。そして,昨年と同じく慶応の応援歌など。最後に倍音を鳴らして終わったのは,さすがでした。

* ワグネルのツィートで「 谷川俊太郎作詩 信長貴富作曲「木」 」と知りました

 

 今年の東西四大学は関東勢が優位だったが,ワグネルの定演も充実したものだった。1年生が少ないのが気になるけど,60名以上のオンステ目指して頑張ってもらいたいものだ。さて,これに続く他大学はどうかな(早稲田に行けないのは残念。