ヒロイン
著者:桜木紫乃
出版社 毎日新聞出版 (2023/9/15)
発売日 2023/9/15
言語 日本語
単行本 408ページ
世間を震撼させた白昼のテロ事件から17年。
名を変え他人になりすまし、“無実”の彼女はなぜ逃げ続けたのか?
1995年3月某日。渋谷駅で毒ガス散布事件が発生。実行犯として指名手配されたのは宗教団体「光の心教団」の幹部男性と、何も知らずに同行させられた23歳の信者岡本啓美(おかもとひろみ)。この日から、無実の啓美の長い逃亡劇が始まった。他人を演じ続けて17年、流れついた地で彼女が見つけた本当の“罪”とはいったい何だったのか――。
jinさまの記事2024.6.12に惹かれて図書館本。
桜木紫乃作品、4作目。『ラブレス』の印象が強く残っている作家さん。
ひとりの女性 岡本啓美が宗教に入信するまでの経緯と、犯罪者として追われた(「見つからなかっただけ」)17年を描かれていた。
宗教施設に入る前のバレエに支配されていた暮らしより、追われている17年の間の方が、充実している様に、自分自身をも解放している様にも感じた。
しかし、バレエに支配された嫌な思い出を断ち切るのかと思いきや、ストレッチを欠かさずしていたり、バレエへの想いを生活と重ねてみたり、男性と重ねてみたりとバレエが啓美の細胞に組み込まれていたように感じた。
両親のことを想う気持ちはなくても、スナックで働いていた時の、ニセモノの祖母『梅乃さん』の遺骨のひとかけらを大切に持ち歩く心理は、血の繋がりより人としての相性の方が優位になることもあるのだと知る。人として、そのことだけは血が通っていたのだとホッとした。
しかし、梅乃さんのホンモノの孫と暮らしていた(かくまっていた)毒ガス事件の犯人が自殺してしまい、その遺体を切り刻んで『梅乃』の床下に埋めることを淡々と出来てしまうところからは、啓美のことは、遠目で、薄目でみながら読み進めていた。
好きになった中国人男性ワンウェイの子どもを産み手放す。身を切られるような心の苦しみは描かれておらず、淡々としている啓美に苛立ちも感じた。
流れる様に生きていた17年。
「見つからなかっただけ」と言うが、見つからない様に生きていたと感じる。
本当に、このような人が存在するのだろうと思いながら読み終えた。
前向きにもなることがどこにもなく、得るものも何もなく読み終えた。