リカバリー・カバヒコ
著者:青山美智子
出版社 ‎光文社 (2023/9/21)
発売日 ‎2023/9/21
言語 ‎日本語
ハードカバー ‎240ページ


本の概要
5階建ての新築分譲マンション、アドヴァンス・ヒル。近くの日の出公園には古くから設置されているカバのアニマルライドがあり、自分の治したい部分と同じ部分を触ると回復するという都市伝説がある。人呼んで”リカバリー・カバヒコ”。アドヴァンス・ヒルに住まう人々は、それぞれの悩みをカバヒコに打ち明ける。高校入学と同時に家族で越してきた奏斗は、急な成績不振に自信をなくしている。偶然立ち寄った日の出公園でクラスメイトの雫田さんに遭遇し、カバヒコの伝説を聞いた奏斗は「頭脳回復」を願ってカバヒコの頭を撫でる――(第1話「奏斗の頭」)出産を機に仕事をやめた紗羽は、ママ友たちになじめず孤立気味。アパレルの接客業をしていた頃は表彰されたこともあったほどなのに、うまく言葉が出てこない。カバヒコの伝説を聞き、口を撫でにいくと――(第3話「紗羽の口」)誰もが抱く小さな痛みにやさしく寄り添う、青山ワールドの真骨頂。




青山美智子作品、3作目。
大好きな作家さんになりました。
心に溶け込むような、染み込むような描き方に、わたしは『ほっこり』をいただきました♡
手元に置いておきたい作品です。図書館本だけど。。




「カバヒコにはね、自分の体の治したいところと同じ部分を触ると回復するって伝説があるのよ。」
人差し指をすっと立てて
「人呼んで、リカバリー・カバヒコ」
「.....カバだけに」




・日の出公園
・カバのアニマルライド『カバヒコ』
・サンライズ・クリーニングのおばあさん
・アドヴァンス・ヒル  5階建てマンション





強く共感できたのが、第2話の接客の仕事が大好きだった紗羽がママ友と上手く話しができなくなってしまったことや、第3話のちはるの耳管開放症の症状。



わたしは結婚を機に、他県で暮らし始め、閉鎖的な地域で息苦しさを感じていて、その流れで子どもができてからは自分を母親という枠にがんじがらめにして(自分で)子どもが中学卒業までずっと苦しかった思い出がある。



『耳管開放症』は社会人になり、仕事が楽しくて張り切ってきたのに、耳がボーボーして本当に辛かったし、今も時々ボーボーする時期がある。
精神的なことで、ボーボーするのか?わたしにはわからないけれど、呼吸さえもボーボー聞こえてくるのはホント!不愉快。その症状でストレスになると描かれていたが、本当にそうだと思う。



そして、第4話の駅伝大会の選手にくじ引きで選ばれた足の遅いスグルくんの言葉
「駅伝、やったことないかさら。おれに番が回ってきたから、まずはやってみるっていう、それだけ。もしかしたら楽しいかもしれないし、やっぱりすごくつらいだけかもしれないし、でもそれってやらないとわかんないじゃん
と、スグルくんは言う。

ドキン!とした。
こんな思考で何事も取り組んでいく生き方?
カッコ悪い自分を見せないように、笑われないようにって縮こまっていく生き方?
どちらを選択するかは自分次第。
人生の楽しみ方を気づかせてもらった。


さらに整体師さんが言った
「人間の体はね、病気や怪我のリカバリーのあと、前とまったく同じようには戻るというわけじゃないんだ」
「回復したあと、前とは違う自分になっているんだよ」

元に戻る・・って言葉がいつの頃からか違和感を感じていて、整体師さんの言葉がとてもしっくりきた。



沁みてくる、沁みた〜〜って読み終えて、しみじみしている


わたしも『カバヒコ』をイメージしながら
人差し指をすっと立てて
「人呼んで、リカバリー・カバヒコ」
「.....カバだけに」
と、自分をリカバリーしていこう!












備忘録


【第1話  奏斗の頭】

ねじ曲がってガチガチな頭をリカバリー!

アドヴァンス・ヒル1階住人


中学生まではさほど努力もしなかったが成績がよかった宮原奏斗カナトは、都内の進学高校へ推薦入試をなんなく合格し希望を胸にしていた高校で、努力しなければテストで平均点までもとれない自分にクサッテいた。
『カバヒコ』がいる「日の出公園」で、同級生の雫田さんと偶然出会い、『リカバリー・カバヒコ』の伝説のご利益を知る。





【第2話  紗羽の口】

ママ友との関係をリカバリー!


アドヴァンス・ヒル 2階住人



紗羽は、短大卒業後、ショップ店員として働いていて接客の仕事が大好きで、優秀な店員として全国大会で特別賞を受賞したことがある。
提案すること、人との触れ合い、言葉を交わすことを心から楽しんでいたときがあった。

しかし、ママ友と上手く話しができなくなってしまった紗羽は、ある日『サンライズ・クリーニング』へ行った際に、接客が素晴らしいと思っていたスーパーのレジ係の雫田さんに偶然出会う。
そこで、『リカバリー・カバヒコ』の伝説を聞いた。



【第3話  ちはるの耳】

自分にとって苦しい現実を、受け付けようとしなかった耳。
不安という想像力に押しつぶされて、ふさがってしまった耳。
そのせいで、自分の声ばかりを聴いている耳。
外への感情は、すべて自分自身に跳ね返ってくる。
カバヒコ、助けて。リカバリーして!
人の幸せを願う私に、どうか戻して。



アドヴァンス・ヒル  3階住人


耳管開放症の症状でウエディングプランナーの仕事を休職した、ちはる。
たぶん、きっかけは同期で好きな洋治が同業他社から転職してきた澄恵と付き合っているらしいと感じてきた時期だった。




【第4話  勇哉の足】

痛い足をリカバリー!
自分の歩くところをちゃんと自分で決められるように!



アドヴァンス・ヒル 4階住人

小学4年生の勇哉は、学校行事の駅伝に出たくなくて、足を捻挫したと嘘をついた。その後、まもなく本当に足が痛くなり、病院を2ヶ所行ってもピンとこないので、ちはるの紹介で整体院へ行く。

カバヒコに会いに行った際に、くじ引きで選ばれた、足の遅いスグルくんがいた。


「駅伝、やったことないかさら。おれに番が回ってきたから、まずはやってみるっていう、それだけ。もしかしたら楽しいかもしれないし、やっぱりすごくつらいだけかもしれないし、でもそれってやらないとわかんないじゃん」
と、スグルくんは言う。


何が好きで、何が苦手で、何が楽しくて、何が辛いのか、試しながら覚えていくんだ。
誰かの目を気にして、カッコ悪い自分を見せないように、笑われないようにって縮こまっていたらきっと、それがどんなことなのかわからなくなってしまう。


「人間の体はね、病気や怪我のリカバリーのあと、前とまったく同じようには戻るというわけじゃないんだ」
「回復したあと、前とは違う自分になっているんだよ」p173






【第5話  和彦の目】

親子関係をリカバリー!


アドヴァンス・ヒル  5階住人

サンライズ・クリーニングのおばあちゃんの息子

老いた母を想う気持ちはあるものの、言葉にしてうまく伝えられない息子の和彦。
息子を想うからこそ、息子の足手まといになりたくなくて、やや偏屈な言葉で強がってしまうサンライズ・クリーニングのおばあちゃん。

和彦の妻は、結婚後20年の間ずっとサンライズ・クリーニングに月に一度のペースで、客として通っていた。

そんな素敵な妻と母親を改めて知り、和彦は少しずつこわばった心を緩めていく。