あしたの君へ

著者:柚月裕子

出版社 ‎文藝春秋 (2019/11/7)

発売日 ‎2019/11/7

言語 ‎日本語

文庫 ‎304ページ




本の概要

寄り添う事で、人の人生は変えられるか――

『孤狼の血』『盤上の向日葵』『慈雨』の次はこれ!!

柚月裕子が描く感動作!!


裁判所職員採用試験に合格し、家裁調査官に採用された望月大地。

だが、採用されてから任官するまでの二年間――養成課程研修のあいだ、修習生は家庭調査官補・通称“カンポちゃん”と呼ばれる。

試験に合格した二人の同期とともに、九州の県庁所在地にある福森家裁に配属された大地は、当初は関係書類の記載や整理を主に行っていたが、今回、はじめて実際の少年事件を扱うことになっていた。

窃盗を犯した少女。ストーカー事案で逮捕された高校生。一見幸せそうに見えた夫婦。親権を争う父と母のどちらに着いていっていいのかわからない少年。

心を開かない相談者たちを相手に、彼は真実に辿り着き、手を差し伸べることができるのか――。

彼らの未来のため、悩み、成長する「カンポちゃん」の物語。






『家庭裁判所調査官』

『家事事件担当』・・離婚や相続問題を扱う

『少年事件担当』・・少年犯罪を扱う



家庭裁判所調査官補の望月大地は、自身がなさそうだけれど、自身がないからこそ、ゆっくりと人の話しに耳を傾け、知ろうとするために足をはこび、

第三話での同級生瀬戸理沙に言われた言葉・・

「人を救うためには、知識と経験も大事だけれど、一番必要なのは、悩みを抱えている人たちの力になりたいって気持ちだと思う。それがなければ、知識や経験があっても、相談者には寄り添えない」p167

・・のように、相談者には寄り添う気持ちを持っていると感じらた。



家庭裁判所調査官の仕事は、少年犯罪を扱うことと、相続や離婚など犯罪ではないことを扱うことを知った。




装幀からの想像で、わたしの心に打撃を受けると覚悟していたが、それぞれに『やりきれない』思いをしたが、『救いようがない』ことがなかったことが、読み終えてホッとした。





【第一話 背負う者  (17歳  友理)】

17歳の少女が、ぼんやりしている母親と摂食障害の妹の生活を支えている。

コンビニのアルバイトで20万円ほどの収入と足りない分は、使用済みの下着を売って。

それでも、足りなくなってスマホで出会った男の財布を盗むところまで追い詰められていた。



親(ここでは母親)の生活能力不足ゆえの貧困で、こどもが犠牲になっている現実を描かれていて、やりきれない思い。



母親が福祉行政を頼ることをしなかったのは、「人様に迷惑をかけちゃいけない」という教えを守っていたのかもしれないが、母親の雰囲気からすると、そういったことも考えに及ばなかったのかもしれないと思った。

助けて欲しくてもどこへ求めたら良いのわからなければ、生きているのが精一杯であったのではないかと思う。親も子も。




『家裁調査官補』の望月大地が

「人に迷惑をかけることと、人に頼ることは違う」と友里に伝えるが、


いままで正しいと思ってきた価値観を、人は容易に覆すことはできない。友里も同じだ。人に迷惑をかけることと、人を頼ることは、まったく違うのだ、と理解するには時間がかかるだろう。p66




思い込み、刷り込みを自分にしていると、無意識に「頼ること=迷惑をかけること」・・に、なっているかもしれない。実際にわたしは、今も「頼ること」のハードルがとても高く、じぶんを苦しめていることも多い。




瀬尾勝一郎裁判官が下した友理の処分は、少年院送致。


母親が生活保護を受給できるようになり、家族3人がしっかりと暮らしていける環境が整うまで、友里を少年院で保護しようとの理由。



友里が背負ってきた思い荷物は、いったんは軽くなったかもしれないが、先のことを想像すると、単純に明るくはなれない。

ただ、祈るような思いになる。






【第二話  抱かれる者  (16歳  潤)】

裕福な生活だけれど、息が詰まるような生活をすごしている16歳の星野潤。

父親が別の場所で新たに家庭を作り、離婚を認めない母親 良子は、外見や地域の評判とは別の顔を持つ。

夫に別の女性ができ、離婚を迫られていても認めない、認められない。良子の息苦しさは良子の実家が由緒あるとか、兄姉自分も揃って有名大学出身とか、履歴書に書かれることが何よりも大切と思い込んでいる。

完璧を自分に求めた結果、良子自身の心も壊れ、その影響を一人で受けていた潤の苦しみ。



夫に別の女性ができ、新たに家庭を作り、その結果、母親が、壊れてしまう。。。

あれ?

これは、『汝、星のごとく』でも同じケースだ。

しかし、『汝、星のごとく』では、娘の暁海は道を外さなかった。



様々な家庭環境で、様々な性格の親や子が暮らしている。ひとつも同じケースは無いってことだ。


じぶんの愚かな行為を〇〇のせいと思うことなく、〇〇に振り回されず生きていくことの難しさをわたしも課題としている。





【第三話  縋る者】

年末年始休暇に実家に帰った望月大地は、家裁調査官の仕事が向いていない気がしていた。辞めて実家に戻ろうかとも考えていた。


中高の同級生との飲み会、気になってい瀬戸理沙と3年半ぶりに会う。理沙は20歳で結婚して2歳半になる子供がいる。

飲み会の帰り道、大地は理沙に弱音を吐き出し、理沙の辛い現状も聞く。




縋る、頼る、救う、救われる。

自分の中で弱さや悩みをひとりで抱え込むと、良い方向にいかないことがあるけれど、耳を傾けてくれる誰かに打ち明けることで、いままでとは違う視点や観点でものごとを見ることや発見できることもあると思う。


生きていくって、助け合うってことなんだなぁと思った章でした。





【第四話  責める者  (35歳  可南子)】


家事事件

離婚調停

モラル・ハラスメント

自己愛パーソナリティ障害:モラハラの加害者

人当たりがよく、自信家のようにみえるけれども、心の底には強い劣等感を抱えている。



『調停委員』のひとり、鷹尾政児68歳の発言がひどすぎる。こんな人が調停委員になっていいのかと驚く。


こんな人が調停委員で、『圧』をかけられたら、公正ではない判断が下されることもあるのかもしれないと想像するだけで恐ろしい。

鷲尾政児も、モラハラ、パワハラに匹敵する気がした。


『証拠』が大切なことを肝に銘じるが、そんな場面がないことが何よりだけれど、世の中何があるかわからない。





【第五話  迷う者  (十歳  悠真)】


離婚調停、妻 片岡朋美が申立人。

小学5年生10歳の悠真の親権を争う夫婦。


真実があまりにも残酷で、朋美の身勝手な行動で多くの人を傷つけていることを朋美自身は反省してもいないのが腹がたった。












備忘録


登場人物


福森家庭裁判所


家裁調査官 総括主任:真鍋恭子マナベキョウコ 46才

家裁調査官:溝内圭祐ミゾウチケイスケ、35歳。官暦8年。ここ5年ほどは少年事件を担当。大学院で心理学を学んだあと任官。露木千佳子と同期。

家裁調査官補:望月大地モチヅキダイチ、22歳。静岡県出身。法学部出身。

家裁調査官補:藤代美由紀フジシロミユキ。九州出身。発達臨床心理学出身。

家裁調査官補:志水貴志シミズタカシ

家裁調査官:露木千佳子ツユキチカコ 、32歳。家事事件担当。福森家裁4年目。法律と心理学の両方を学ぶ。溝内圭祐と同期。




家裁調査官は大きく分けて三通りの人間

法律畑心理学畑社会学畑





【第一話 背負う者  (17歳  友理)】



17歳の鈴川友里はコンビニアルバイトでしっかり働いている。さらに、ここ3ヶ月のあいだ、使用済みの下着を売っていた。


ある日、スマホで知り合った小林28歳をラブホテルに誘い、小林がシャワーを浴びている間に、ズボンのポケットから財布を抜き取り、そのままホテルを出た。

小林は財布に入れている10万円近い現金は泣き寝入りするには痛すぎると思い、通報した。

通報を受け手配された警察官から職務質問を受けた友里は、罪を認めた。


今回の窃盗や下着を売った理由は、遊ぶ金がほしかったからと答えている。


しかし、友里は遊んでいる気配が全くない。

母親と妹の生活費のため。そして、病気の妹の医療費のためにお金が必要だったことがわかる。






少年法

貧困

母子家庭

母親の知的能力の低さ

子供の接触障害、

住居はネットカフェ

健康保険証なし



どうして、母親の直子は福祉行政を頼らないのか?



直子は母親から人様に迷惑をかけんようにって繰り返し教えられ、その教えを守っている・・と、義理姉が言う。p57


「人様に迷惑をかけちゃいけない」と、友里も母親から言い聞かされてきた。


「人に迷惑をかけることと、人に頼ることは違う」p65

と、『家裁調査官補』の望月大地は友里に言う。



いままで正しいと思ってきた価値観を、人は容易に覆すことはできない。友里も同じだ。人に迷惑をかけることと、人を頼ることは、まったく違うのだ、と理解するには時間がかかるだろう。p66




母親が生活保護を受給できるようになり、家族3人がしっかりと暮らしていける環境が整うまで、友里を少年院で保護しようとの理由で友里は少年院送致。






【第二話  抱かれる者  (16歳  潤)】



星野潤 16歳、市内の進学高校2年生。

9/18ストーカー事案で家裁に送られてきた。

被害者は別の高校1年生、相沢真奈。



面接では、優等生そのものだった潤。

母親の良子も、PTA活動、福祉関係やボランティア活動など地域活動にも貢献し、地域住民から信頼を寄せられている。

良子の実家は150年の歴史を持つ、乙部織の老舗。

三人兄弟の良子は地元の名門国立大卒。兄と姉も有名大学出身で、社会の重要な地位に就き、国家の軸にかかわる仕事をしていて、そのような家に生まれたことを誇りに思っていると言う。



実際の家庭生活では、潤は高校もギリギリで入学し、その後は学力がついていけず休みがちににもなっていた。

父親は他に結婚したいと思う女性と暮らしていて、5年間自宅には帰っていなかった。

潤とは、1年半会っておらず、今回の事件に関しても、関わりが消極的で、戸籍上父親であるから、書類上の手続きや法的に必要なことがあればするが、それ以外のことは良子に一任すると言う。




裕福な生活だけれど、息が詰まるような生活をすごしている16歳の星野潤。

父親が別の場所で新たに家庭を作り、離婚を認めない母親 良子は、外見や地域の評判とは別の顔を持つ。

夫に別の女性ができ、離婚を迫られていても認めない、認められない。良子の息苦しさは良子の実家が由緒あるとか、兄姉自分も揃って有名大学出身とか、履歴書に書かれることが何よりも大切と思い込んでいること。

そして潤は母親が望んでいるような学力がないことも認めようとしないことで、さらに潤を追い込んでいることを母親は気付いていない。



完璧を自分に求めた結果、良子自身の心も壊れ、その影響を一人で受けていた潤の苦しみ。







【第三話  縋る者】



年末年始休暇に実家に帰った望月大地は、家裁調査官の仕事が向いていない気がしていた。辞めて実家に戻ろうかとも考えていた。


中高の同級生との飲み会、気になってい瀬戸理沙と3年半ぶりに会う。理沙は20歳で結婚して2歳半になる子供がいる。

飲み会の帰り道、大地は理沙に弱音をはきだした。


「俺、この仕事に向いてないような気がするだよなあ」

「悩んでいる人たちを救いたいという気持ちばかりが先走って、知識や経験が追いついてない。俺みたいな人として未熟な者が、他人の人生を左右するような仕事をしてもいいのかなぁって。。」p160



すると


離婚で親権争いの調停中だと打ち明ける理沙



自分の両親は他界し、経済力もない理沙に対して、夫の実家は裕福で、祖父母にあたる者が手をかけて育てることができる。条件からは、理沙が親権を得るのは難しいと弁護士に言われたとき、息子を引き取るのを諦めかけたが、考え直した。


なぜなら


「女性の家裁調査官に、いま諦めたらあなたは一生、子供を手放してしまったという負い目を感じて生きていくことになる。頑張れるところまで頑張ってみたらいいんじゃないかって言われたの」p166


「望月くんは、未熟な自分が他人の人生を左右するような仕事をしてもいいのか悩む、って言ったよね。でも、自分では問題を解決できずに、調停委員や家裁調査官という他人に、縋るしかない人間もいるの。そして、その人たちの言葉に救われる人がいる。私も、そのひとり」p167


「人を救うためには、知識と経験も大事だけれど、一番必要なのは、悩みを抱えている人たちの力になりたいって気持ちだと思う。それがなければ、知識や経験があっても、相談者には寄り添えない」p167



理沙の言葉で、

やるだけやってみよう。それで駄目なら、そのとき、もう一度考えればいい。だけどいまは、まだ諦めたくない。

と、大地は思う。




【第四話  責める者  (35歳  可南子)】


家事事件

離婚調停

モラル・ハラスメント

自己愛パーソナリティ障害:モラハラの加害者

人当たりがよく、自信家のようにみえるけれども、心の底には強い劣等感を抱えている



妻朝井加南子から夫朝井駿一へ離婚申立て。

理由は『精神的に虐待する』



調停の出席者

『調停委員』は非常勤、様々な分野の専門家や、地域社会で活動していた年配者が多い。


朝井加南子の『調停委員』のひとり、鷹尾政児68歳の発言がひどすぎる。こんな人が調停委員になっていいのかと驚く。


モラハラの録音を内藤クリニックで手に入れられたため、離婚は成立する希望が見えた。




【第五話  迷う者  (十歳  悠真)】



離婚調停、妻 片岡朋美が申立人。

小学5年生10歳の悠真の親権を争う夫婦。


朋美はすでに家を出て、新たに住まいを準備している。仕事もしていて、悠真と暮らすのに問題ないように見えたが、驚きの真実があった。

離婚が成立していないのにもかかわらず、別の男性と付き合っている。

「どうして付き合っている人がいると、親権がもてないんですか」

とまで平気で言う朋美。


さらに

悠真の父親は夫 片岡伸夫ではなく、今付き合っている人の子どもだと言う。

「悠真は、本当の父親と母親──家族と暮らす方が幸せなんです。親権は私が持ちます」p272

と、堂々と宣言するかのように言う。


そして

夫 伸夫は、自分の子供ではないことをはじめから知っていたと言う。自分は子供が持てない身体なんだと知っていた。

「俺はお前を愛していた。その気持ちはいまも変わらない。お前が俺の子として産むと言うなら、俺も自分の子供として育てようと決めた。血のつながりはなくても、俺は悠真を自分の子供だと思っている。子供を持てない自分に、神様が授けてくれた、贈り物だと思っている。いままでも、そしてこれからも、その気持ちにわかりはない」p277


「両親は知りません。悠真を、自分たちの本当の孫だと思っています。だから・・・・だから、これ以上、悠真を、両親を、苦しめたくないんです」p277




悠真の気持ちが知りたかったが、気持ちは揺れている。父親か?母親か?どちらかに決めるなんて簡単にできるはずがない。

両親、祖父母から、大切に育てられてきたからこそ、ひとつに決めることなんてできないのはあたりまえで、混乱してしまうのも当たり前。



4回目の調停でも、双方とも親権を諦める様子はなかったが、いますぐにでも離婚したいと頑なに言っていた朋美だったが、悠真が両親の離婚を納得するまで待ってもいいと、歩み寄ってきたのだ。


伸夫の実家に戻るつもりはないし、交際相手の阿部と別れるつもりもない。阿部と悠真と自分の三人で暮らしたい気持ちは変わらないが、それが果たして悠真の幸せなのかは疑問に思うようになったと、大地と調停委員の前で話した。自分と伸夫の関係の修復は難しいが、他人の子供と知りながら悠真を大事に育ててきた伸夫の愛情は、心に響いたらしい。p286



結論は出ていない。



この件について結論が出ていない状況で、大地の実務修習が終わる。