リラの花咲くけものみち

著者:藤岡陽子

出版社 ‎光文社 (2023/7/20)

発売日 ‎2023/7/20

単行本(ソフトカバー) ‎384ページ



本の概要

動物たちが、「生きること」を教えてくれた。 家庭環境に悩み心に傷を負った聡里は、祖母とペットに支えられて獣医師を目指し、北海道の獣医学大学へ進学し、自らの「居場所」を見つけていくことに――北海道の地で、自らの人生を変えてゆく少女の姿を描いた感動作。







聡里の努力はもちろんだが、祖母チドリの言葉や行動力が凄い!チドリが全力で見守って支えてくれる安心感を感じられたからこそ、聡里は立ち止まることはあっても、しっかりと前へ進むことができたように感じた。




とても安心できる存在があるというのは、チカラになると思う。そのチカラを自分の中に落とし込んでさらにしっかりとすることにより、今度は自分が安心できる存在になれるかもしれない。



聡里がチドリから受け継いだ、安心というチカラはこれからの聡里の仕事や生きていく道のりで出会う人に活かされるように思う。


そうだったらいいな。




〈チドリの特技〉

どんな不運にみまわれても、その中から幸運を見つけだすのがチドリの才能だということを、聡里は思い出した。p278



〈チドリの教え〉

大事なことを伝えるには、大きな声ではっきり。腹式呼吸で。p316







備忘録



聡里は小学4年生のときに母親を亡くし、6年生の時に父親が再婚。中学に進学する春、継母と父との間に赤ん坊が生まれた。と、同時に父親が単身赴任。


継母が愛犬パールのことを人に譲ろうとしたから、自分が学校に行っている間にパールをつれていかれるのではないかと不安になり、自室にこもりパールと過ごしていた。


中学3年の12月に母方の祖母チドリが連絡をくれたことで、聡里はパールとともにチドリの家で暮らすようになる。中学も転校し、担任の先生は進学できる高校も懸命に探してくれ、都立のチャレンジスクールの午前の部に通学するようになり、チドリから大学進学を勧められる。


そして北農大学の獣医学類へ進学する。聡里の大学費用生活費などを計算して、チドリは自宅を売り、小さな団地に住まいを変える。




大学一年 夏

農業組合──NOSAIの夏期臨床実習に参加し、先輩の静原夏菜から馬のお産の見学に誘われて行った。楽しみにしていた馬のお産がうまくいかず、母馬は助けられたが、胎子は前足が出てこないためノコギリを使い一部を切断、胎子の下半身は腕を入れて掻き出すのを見る。


衝撃の処置を目の前にパニックになる聡里。


「静原さん、私・・・獣医師になりたくないです」と聡里。

「獣医師の仕事は甘くない。無理だと思うなら、やめたほうがいい」と夏菜。p130





動物の病気を治す。命を救う。そんな自分に都合のいい獣医師像だけを頭の中に描いていた。

獣医の役割は命を救うばかりではない。時には命を絶つ選択をすることだってある。


今日みたいな処置を・・・自分ができるとは思えないんです。p134



大学を辞めようと、チドリの家へ帰ったが、亡くなった母のことをチドリから聞いたり、友人の綾華が連絡をくれたりして、大学へ戻ることにした。







チドリは病気をして、体が不自由になったけれど、リハビリを頑張り、聡里の卒業式を楽しみにしていたが、聡里が大学5年生の一月に病気で亡くなってしまう。


数年ぶりに再開した父親との決別も、感謝を伝えて終わりにできた。



6年生のNOSAI夏期臨床実習が終わる頃に、聡里は進路を決めることができた。



大動物の獣医師の仕事は、誰かの人生とともにある。自分の存在が誰かの暮らしの一部になる。そんな思いを持って働けたら、きっと幸せだろう。p365