夜空にひらく
著者:いとうみく
出版社 ‎アリス館 (2023/8/4)
発売日 ‎2023/8/4
言語 ‎        日本語
単行本 ‎256ページ
 
 
 
アルバイト先で暴力事件を起こし、家庭裁判所に送致されたのち試験観察処分となった、鳴海円人。
幼い頃母が家を出て行って、祖母と二人暮らしだった円人は、祖母と折り合いが悪く、できるだけ早く自立したいと思いアルバイトに明け暮れていたが、そのなかで起きた暴力事件だった。
 
補導委託先に選ばれたのは、山梨県で煙火店(花火の製造所)を営む、深見静一の家だった。
深見と深見の母まち子、住み込みで働く双子の花火師、健と康と同じ屋根の下で暮らすうちに、円人は居場所を見つけていく。
 
 
 
図書館返却本コーナーに一冊だけポツンとあって、装幀が美しかったのでお借りしました。
はじめましての作家さん、いとうみく作品。
カテゴリーは〈ヤングアダルト〉というらしい。
ヤングアダルトという言葉さえも、理解できていない、いつまでたっても初心者マークのわたし🔰
 
 
登場人物がみんな優しいくて安心できる。
 
罪を犯しても少年だということで、大人の罪とは違う結果になり、それを受け止められない被害者の苦しみ。
犯人を憎みたくても、犯人が亡くなってしまいその怒りをどこへぶつけていいかわからない状態が永遠にも続くような哀しみ苦しみ。
わが子が罪を犯したあと自殺してしまい、被害者と遺族の人への申し訳ない気持ちと、息子を亡くした悲しみを感じる母親の複雑な気持ち。
その母親の気持ちを理解しようと思えない人と、理解できる人の気持ちは、どちらも間違っていないように思う。
 
哀しみ、苦しみなどの執着と開放の仕方は人それぞれで、否定も肯定もできるものではないけれど、身近な人だったり身内だからこそ違いを認め合えない時もありズレがが生じてしまい、ついにはそれまで築いてきた関係が壊れてしまうことになってしまう最も悲しい結果がここにあった。
 
 
 
 
真面目に生きているが、人とのコミュニケーションがちょっと不器用な鳴海円人。
暴力事件で『試験観察処分』となった円人は弁護士につれられて『補導委託』の深見煙火店の自宅で過ごすことになる。
 
円人は傷害事件を起こしてしまった罪の重さに心を閉じてしまっていたが、深見煙火店社長と社長の母親 まち子、住み込みで働く双子の兄弟との日々の暮らしで、毎朝みんなで朝食を食べたり、ラジオ体操をしたり、それまで経験してこなかったことから、人のぬくもりのようなものを感じていく。
花火作りにかける熱い思いを社員やパートさんたちから感じ、円人も花火師に興味を持つようになっていく。
 
幼い頃、アパートの窓から母親と一緒にみた花火の記憶は実は祖母だったということを大人になってから知り、それまで祖母は自分を疎ましく思っていたと勘違いしていたことにも気づくことになる。
 
 
ひとつ道を踏み外しても修正して歩きなおすことができる人。
ふたつみっつ踏み間違えたとしても、導いてくれる善い人がいて、素直に歩きなおせる人。
踏み間違えて、さらに間違えて、どんどん間違えて、真っ暗闇で必死に歩き、光を見つけられない人。
 
円人は善い人たちに恵まれた。

恵まれたことに感謝し、真面目に働き、なりたいと思う花火師になることができた。

 

人として大切なことをこの一冊で教えてもらった。

ヤングアダルトの本とのことだが、わたしのようなかなりの大人でも気付きをもらい、明日への希望になった。

 

 

 
 
 
<備忘録>
 
円人は真面目だ。
 
真面目はけっして悪いことではない。でも真面目過ぎると自分を追い詰めて、結局自分を苦しくしてしまう。p186
 
 
ひき逃げされた深見の子供の母親の兄富樫は円人を徹底的に嫌う。
あるひ、円人を挑発した。
 
「あいつがおれを殴ればそれで終わるだろう。更生だなんて言ったって、人はそんなに簡単に変わるわけがない。簡単に変わられてたまるかよ!」p200
富樫は声を荒げて、自分の口から出たことばにはっとした。
人は変われないと言いながら、気づいていた。鳴海が変わっていくことに気づいていて、だからこと、許せなかった。
罪を犯した人間が救われて、被害者は傷ついて、失って、あたりまえの生活も未来も夢も奪われて。
そんな矛盾したことがあっていいはずがない。p200
 
どれほどの月日が経過しても、被害者の気持ちは変わることがないのかもしれないと思った。