時には、名作をと、近松門左衛門の世話浄瑠璃「大経師昔暦」を下敷きにした、巨匠・溝口健二監督の「近松物語」を、観ました。

 

 

徳川時代には、不義密通はもっとも重い犯罪であり、露見すれば死罪、京都の大経師以春の妻おさんが手代の茂兵衛の不幸な愛の顛末が、誰もが胸を塞がれるような、とびきりの悲恋物語として、見事に描かれていました。

 

おさんを演じるのは、香川京子、そして、茂兵衛は、長谷川一夫。

 

名場面はいくつもありましたが、特に、役人に追われての、琵琶湖での心中未遂シーンの美しさに目をみはりました。

 

世をはかなんだおさんは死ぬ決意をし、それに茂兵衛もお供することとして、2人で船に乗って琵琶湖に身を投げようとする。

 

その時に、以前からおさんを慕っていたと、」茂兵衛が思わぬ告白。

 

それを聞いたおさんは、俄然態度を変え、「おまえの今の一言で、死ねんようになった、死ぬのはいやや、生きていたい」とのセリフ。

 

この言葉によって、2人は恋人同士として、本当に結ばれるのである。そして結ばれた2人は、なるべく長く生き続けようとし、生きている限りは愛しあおうと決意する。

 

ラストでは、捉えられた2人は、市中引き回しになって、処刑場へと向かっていくのだけれど、
おさんは、愛を得て陶酔して満足そうな笑みを浮かべ、その「晴れ晴れとした顔」が素晴らしく、茂兵衛は、最後の最後でやや後悔の念も見えるような複雑な表情、その純愛さに、心が洗われました。