チャップリンの異色作。

一人の男が30年間務めた銀行をクビになり、妻と子供を養うために、中年女を誘惑し偽装結婚して金をだまし取って殺す、という映画。

チャップリンの映画は短編をほぼすべて観た。Youtubeで。

この映画は、そういうドタバタ喜劇のチャップリンのパブリックイメージを利用したような感じ。

マヌケで、ズルくて、でもどこか優しいフーテン男が、冷酷に人を殺しまくるという映画。

これ、公開当時はコケたらしいが、当たり前である。この映画で観客が笑うと思ったチャップリンはおかしい。

 

ところどころ、短編チャップリンでよく見たドタバタシーンは出てくる。船の上のアクションとか、扉の開け閉めとか、隠れんぼみたいなシーンは「あー、見た見た」という感じ。

この特異なキャラはなんなのだろうか。本当に金のために女を殺しまくる。それも家族を養うため。

でも、一人だけ刑務所から出所したばかりの若い女だけは殺さなかった。唯一助けた女である。

おそらく、この男本人もなぜこの女を殺さなかったのか、理由が分かっていないのだと思う。

 

冷酷ながら、暖かいヒューマニズムは残っているのである。ここにチャップリンの深い洞察がある。

さらに、この映画で最も有名なのは最後付近のセリフ「一人殺すと罪人で、100万人殺せば英雄。数が殺人を神聖化する」である。

 

1947年ながらチャップリン史的には晩年の作品になる。

あとは『ライムライト』を見ようと思う。