前回までの内容


都内のとある病院での出来事。

新人ナースだった「私」は、目の前で起こる出来事に衝撃を覚えつつ、仕事をこなしていた。


人手不足の為とはいえ、あってはならない事が又起こった。パンによる窒息。

喉から掻き出すパンは、まるで白い綿の様にも見えた。既に息はなかった。



タイムスリップします。


パンの時、患者さんの家族が来て「急変」という事で終わった。ヘルパーさんにも、注意はいったがさほどの事ではなかった。人手不足が元凶だと、師長は言っていた…


誰かは誰かの大切な人なのに、真実を伏せる。


世の中って、こういうもの?

不条理でしかない。


そして、忘れてはならない個室の患者さんの事があった。その患者さんは、家族はいる様だがお見舞いに1度も来た事がないらしい。


個室に入っている男性の70代。


そこの部屋は、クーラーのみならず、暖房もない部屋だった。

夜勤で、その部屋に入る時はその部屋様のダウンコートがある。それを着て、ラウンドする。


病室は白い息がはぁーっと出て、患者さんにはニット帽とマフラーを巻いているのだ。


あまりにも寒いその部屋で、身動きも取れず寝たきり、もちろん口も聞けない状態である。


私はその部屋に入り、声かけをしてマフラーを巻き直してあげる。が、そもそもこんな部屋が病室だなんて…


認知症の大部屋は、クーラーはないが暖房はあった。ここの部屋はどちらもない。


最低限の生活環境が与えられずに、こんな不幸があっていいのか?

この人を人として、扱っているのか?


答えは出ていると思う…


この患者さんは、冬はよく熱を出した。高熱で、なかなか下がらない。

こんな環境だと、病気が増えてもおかしくない。

40度近くいつも熱が上がる。

そして数日で一旦は下がる。それの繰り返し。


私がそこに勤めている間は、その方は生きておられた。あの部屋で、辛いだろうに。


何が病院だ!

外来は繁盛していて、評判もそこそこ良い。


ただし、病棟は地獄の様な場所だった。


寒い夜に、ふと、その事を思い出す時がある。


今日みたいな夜に。


暖かいお布団で寝れる事が有難い。

猫のロディも寄り添ってくれてるので、更にあったかい…

あの患者さんの辛さを見たから、私はその事を忘れない。


そして、どの人も尊い存在だと深く思う…