指揮=ジョナサン・ノット

ヴィオラ=青木篤子(東響首席)*

ヴィオラ=サオ・スレーズ・ラリヴィエール**


ベルリオーズ:交響曲「イタリアのハロルド」op.16*

酒井健治:ヴィオラ協奏曲「ヒストリア」**

イベール:交響組曲「寄港地」



「イタリアのハロルド」は滅多に聴けないし、ノット東響のフランスものも楽しみ。


オーケストラはノット監督のいつもの対抗配置。開演前、舞台では指揮台から向かって左にソリストが立つのが普通ですが、この日はヴィオラが独奏だからか上手側に譜面台が置いてありました。その一歩斜め後ろにハープが置かれ、P席最後列のパイプオルガンの手前の通路に空いた椅子が3席。ノット監督、今日も何か仕掛けてきそうです。


実演で聴く機会が少ないので比較対象が少なく、慣れ親しんだデュトワの録音と比べるしかないが40分弱と全体的には早めのテンポに聴こえました。


独奏ヴィオラにはオケの首席奏者を迎えていることもあるのでしょうか、ベルリオーズのオーケストレーションなのか、技巧をひけらかすでもなく、私の席(3階RB)では独奏がオケに溶け込んで聴こえます。もう少し主張してもいいように思いますが、席の関係もあるかもしれません。4楽章などはほとんど最後しか出番がない。


この曲で一番好きなのが、3楽章の冒頭と後半に繰り返される、ヴィオラパートのリズミカルな伴奏に始まってピッコロが奏でる民謡風のメロディ。ここは最高でした。欧州の山の情景と空気感が目の前にパノラマのように広がりました。実演で聴けただけで幸せ。来た甲斐がありました。


2楽章が終わった時に、第一、第二ヴァイオリンとチェロ奏者が楽器を持って離席して、4楽章になってP席のパイプオルガンの横に座り、最後の前わずか30秒ほどの合奏を舞台上のヴィオラソロと奏でる、弦楽版のバンダの趣向もありました。


後半は日本人作曲家の酒井健治のヴィオラ協奏曲。ソリストも変わります。

前半と同じ楽器とはとても思えないくらいの違いでした。

隈取り鮮やかで一つ一つの音に存在感があり、音量と自己主張もある。大きい身振りで踏み込んで攻めていく感じでした。一言で言うと「目立って自己主張する音」。

これは協奏曲だからというのももちろんあるでしょうし、ヴィオラに与えられた役割は前半のベルリオーズとは異なることを考えても、ソリストとオーケストラ奏者の方の違いは大きいのかなと思いました。前半と役割が逆だったらどうなるんだろうと興味深いですが、ノット監督のことだから考えがあったのでしょう。曲自体も現代曲としては奇妙な不協和音もなく、違和感なく聴けました。


最後はまた編成が大きくなり、イベールの「寄港地」。

1曲目「ローマ冒頭のフルートの低い音のソロ、それに続く弦のミュート?でのテーマで一気に地中海周辺に持ってかれました。海の香りが漂ってきそう。

2曲目「チュニスーネフタ」のオーボエのアラブ風のメロディー。

3曲目「バレンシア」の最後は打楽器の浮き立つリズムはいいのですが、このコンビにしてはちょっと急ぎ足だった感じで、音の大きいところが今までの精密さがなかった気が。ソロはともかく、オーケストラ全体としては先週の大地の歌の方が良かったです。


独奏の好対照のお二人の音、そしてオケのヴィオラと、楽器の多彩な響きと奏法を楽しめた稀有の機会に感謝でしたし、欧州の山と地中海の情景が浮かんできて旅行気分に浸れました。


「寄港地」はまた来月に沖澤さんとN響でも取り上げるとのことで、これも楽しみです。


やっぱり個人的には土曜日のマチネーが心穏やかに聴けて一番いいな。