今回は名作「カルメン」を短期間で2回観ることができましたので、これを中心に欧州の劇場で感じたことをまとめてみました。筆者はオペラについてはこの10年の合計で、劇場で30回、演奏会形式で10回程度と限定的で、うち半分がコロナ禍明けです。100%個人としての意見であることを前提としてお読み頂ければと思います。公演データは劇場ホームページを原語のままコピペしています。

A公演



B公演




① 劇場


ネオ・バロックやロココ形式、馬蹄形でボックス席、プロセニアムアーチのある欧州伝統のオペラ劇場。日本では未来永劫できないタイプでしょう。この建物を見るだけでも価値があります。


A: 世界に冠たるオペラハウスだけあって、観光客も多く、見学ツアーも5ヶ国語で行われていました。プレミエでは蝶ネクタイをした方も10人以上見かけました。地元の社交界と観光客が混在しています。

Bは地元の常連さんが多く落ち着いた雰囲気でした。


② 歌手と合唱


母国語でない言葉でもきれいな発音をして、歌詞も完璧に覚えて、役柄のイメージを考えた演技もして、その上で歌と演技双方の質を聴衆に判断されるというとてつもない才能の世界。

日本では知られていなくても(あるいは私が知らなくても)、当たり前ですが素晴らしい歌手が沢山いて、競争が激しい中で本場で舞台に上がっている限られた選ばれた人達。


他の公演も含めて特にすごいと思ったのは順不同で、既に有名な方も含めて下記の通り。


ヴィットリーオ・グリゴーロ →高音の伸びが圧倒的で、周りとはオーラが違いました。エンターテイナーですね

アンニャ・カンペ →凄みすら感じる歌と演技でした。

トーマス・コニエチュニー

マリナ・ヴィオッティ →詳細は④で

サイオア・エルナンデス

Amartuvshin Enkhbat

Avery Amereau


もう一つは、歌だけでなく演技も同じくらい重要であること。立派な箱があるし、演技も重要なので、欧州では日本で多い演奏会型式が少ないことも納得です。

劇場併設の合唱団も歌、演技とも素晴らしく、合唱が加わった部分のオケと合わさった全体の迫力は圧倒的でした。


③ 演出

A: 冒頭から兵士が一人半裸でランニングをしていたり、舞台上に電話ボックスがあったり、途中で火を吹いたり、舞台上に車が出てきてその上で踊ったりと、良く言えば飽きさせないし、悪く言えば意味不明。これが現代風なんですかね。


B: 演出はシンプルで、読み替えや極端な設定もなし。全体を照らしていた照明がパッと消えて、ソロやデュオなど少人数では歌手だけにスポットライトを当てたり、ストーリーの展開の際に幕を閉めて、舞台の手前と幕の向こうを切り分ける効果的な演出だったと思います。

演出家が前半と後半で衣装をガラッと変えていることが多い理由は良く分かりません。


演出家インタビュー

「カルメンはなぜこんなに人気があるのか?」


https://www.youtube.com/watch?v=7xRcL25AkOk


③ オーケストラ

A: オケの音が生き生きと弾んで聴こえてました。歌手に寄り添うように、テンポも各場面により大きく差をつけていたと思います。個別では日本で聴く時と一番違うのは金管かなと。

指揮のフィッシュは歌劇場叩き上げの人なのかなと感じました、知らんけど。


B:オケはホールが鳴らないこともあってか響かなくて、指揮者がなんとかして欲しいと思いました。管楽器のソロは素晴らしかったです。

最後のカルメンが倒れるクライマックスのところがオケの迫力が全然なくてがっかり。ノセダはゲルギエフのアシスタントとして頭角を表しているのでオペラの経験は豊富で、だからこそ監督を務めているのでしょうが、オケ単体でN響やLSOと聴いた時もいい印象がなく、私には合わないみたいです。


④ 情報発信

特に感じ入ることが多かったのがここ。

劇場で販売のプログラムは当日のキャスト紹介に絞った1-2ユーロの簡易版と、分厚い冊子で過去からの演奏記録やストーリー、専門的な解説や歌詞が詳しく載っている3〜8ユーロぐらいの2種類が売ってます。後者は日本にはないタイプ。

あとはホームページや冊子映像での紹介やインタビューが詳しく載っています。

カルメンのタイトルロールについては注目度も高く、それぞれインタビューが載ってます。


A:

https://www.wiener-staatsoper.at/staatsoper/medien/detail/news/jeden-tag-ein-anderer-mensch/


歌はもちろんのこと、演技に気を遣っていることが感じられました。

アーティストのインタビュー記事でも、”Carmen ist nicht nur der Gesang, sie braucht den großen Bühnenausdruck.” =カルメンは歌だけでなく、大舞台での表現も必要です、とご本人が言及されてましたので、我が意を得たりでした。


B: 

https://www.opernhaus.ch/backstage/zwischenspiel-ein-podcast-aus-dem-opernhaus-zuerich/folge-65/



なんと歌を学び始めたのが25歳からという遅咲き。

父が早逝した指揮者のマルチェロ・ヴィオッティ、弟は東響にも客演する指揮者のロレンツォ・ヴィオッティ。

音楽以外への興味や造詣も深いことが感じられる内容でした。

ビゼーは女性心理が良くわかっていて共感することが多いとか、カルメンの強い部分と女性らしい部分の両面がある部分は自分と重なるので、どう役を作っていくかを考える、というようなことを喋ってました。

こういう情報があると、作品やアーティストにも興味が生まれますよね。インタビュアーの質問も秀逸です。いろいろと考えさせられる刺激の多い期間でした。