「だって…明日会社だもん…」
さっきから何度も同じ会話をしている。
帰らなければならないのはわかっているけれど、帰って欲しくない俺と、
ギリギリの時間まで居るからと言うけど、帰らなければならないチャンミン。
もう帰さないと、
チャンミンの翌日の仕事に支障が出たら大変だ。
送っていきたいのに、
送っていけないもどかしさ…。
車を購入すれば、
この問題も解決するだろう。
「気をつけて帰って」
「うん、大丈夫だよ」
「着いたら連絡して」
「わかったー。
ユノ、明日はいつもよりゆっくりできるね。
朝ご飯、今夜の残りで食べて、
薬飲んで出勤してね」
「うん、ありがとう」
「じゃあね〜おやす…」
手を振るチャンミンのその手を捕まえ、自分の腕の中に収める。
「わあっ!ユ、ユノっ」
「明日…また会えたらいいんだけど」
「今日お休みしちゃったから、その分、仕事頑張らないと…」
「うん…」
「帰ったら連絡するけど…
ユノは車屋さんに行くんだよね?」
「うん、そのつもりでいる」
「わかった。
くれぐれも無理しないでね」
「ああ」
「おやすみなさい、ユノ」
そう言って、背中に手をまわし、
少し力を入れると、
チャンミンは行ってしまった。
なんて寂しい我が家なんだろう。
今まで感じたことのない寂しさ。
明るかった家は、
一気に停電してしまったようだ。
チャンミンの帰路を心配しつつ、
シャワーを浴びて、
早々にベッドに入る。
そろそろだ。
チャンミンが家に着くのは…。
時計を見つめては、
高鳴る胸の鼓動を感じて、
この感覚を楽しむ。
学生の頃、
好きな女の子からの電話を待っている時のようで、
純粋な気持ちを思い出していた。
スマホが震えた。
チャンミンから着信だ。
ワンコールを待たずにタップした。
「着いた?」
「はい、たった今…」
息の切れた声。
自転車を降りて、直ぐに電話をくれたんだろう。
「今夜は月がキレイですよ」
「月?どれどれ…」
ベッドから出て、寝室のカーテンを開ける。
「うわあ…本当だ。真ん丸でピンクだ」
「ね、キレイでしょう。珍しいですね、こんな色の月…」
「うん…」
しばらく話すのを止め、
同じ月を見ていた。
「色々ありがとうな、チャンミン。
会社まで休ませちゃって…」
「いえいえ、元気になって良かったね」
「それに…色々話せて良かった」
「うん…」
ピンクの月の中に、
チャンミンの顔を思い浮かべる。
「好きだよ、チャンミン…」
「僕も好きです、ユノ」
月の中のチャンミンも、
実際のチャンミンも、
きっと恥ずかしそうに笑っているんだろう。
もう会いたくなった。