車屋さんからもらってきた車のカタログを見たり、
乾燥機が止まったから畳んだり、
スマホでゲームをしたりして、
二時間くらいが過ぎた。
見慣れない静かな部屋。
落ち着かないけど、ユノがここに住んでいると思うと、何となく安心する。
ユノが寝ていなかったら、
片付けなんかしてあげたいけれど、
ガタガタ音を立てる訳にもいかない。
立ち上がって、窓の外を見る。
霧がなくなり、
街の灯りがとてもきれいだ。
少し窓を開けてみる。
ベランダのサンダルが濡れているから、
外には出れないけど、
いつかここから街全体を見渡してみたい。
あっちが僕の家の方かなあ…
そんなことを考えていると、
背後からスマホの音が聞こえた。
「チャンミン、起きてる?」
ユノからだ。
「今、窓から外を眺めていました。
具合いどう?何か必要なら持っていくよ」
そう返信したのに、それから返信がない。
しばらく待ったけど、
そっと寝室のドアを開け、
ベッドに近づいた。
「ユノ…」
小さな声で呼びかけたら、
暗闇でも薄目を開けたのが確認できた。
「何か欲しい?」
「さ、寒いんだ」
掛け布団の端と端を持っていた。
おでこを触ると、さっきより熱い。
「毛布とかある?あ、少し暖房入れよう」
「ない…いつも冬は暖房入れて寝るから、一年中、この布団なんだ」
「そうなの…じゃあ、もう少し何か着よう。ダウンとか…クローゼット見るよ」
「うん…」
灯りをつけて、クローゼットを開けた。
お世辞にも整頓されているとは言えない。
ダウンジャケットが吊るされていたから、
それを手に取った。
着たら眠りにくいだろうから、掛けるだけでもいい。
「ユノ、少し我慢して。布団取るよ」
「ん…」
熱い空気を感じた。
猫の様に丸くなって、
ガタガタと震えている。
ダウンジャケットを掛けて、その上からまた掛け布団を掛けた。
「ユノ、ちょっと待ってて」
僕はキッチンに向かい、お湯を沸かした。
何かに入れて、湯たんぽみたいにユノに抱かせようと思ったんだ。
何か…何かないかな…
僕はお湯を沸かすのをやめた。
何にもないんだ。
調理器具も、耐熱容器も何も。
あるのは、グラスだけ。
これじゃ何もできない。
何か買いに行こうかと思ったけど、
もう空いてる店なんかない。
「ユノ…まだ寒い?」
「さ、寒い…」
ユノをどうにかして暖めてあげたいけど。
震えるユノの手を、擦ってあげることしかできなくて、情けなくなってきた。