午後1時半を過ぎた時、救命センターのナースが走って来た。
「今終わりました!これから救命センターの診察室に戻ります。ご本人に会ってください。」
間もなくして、数人の医師に付き添われた夫がベッドに横たわって通路に現れた。
夫の身体には多くの管がまとわりついていると云う印象だった。
私は再び小嶋先生に呼ばれた。
「とりあえず、応急処置的ですが出血を止められたようです。しかし、初期段階で相当量の出血があった為、内臓が圧迫され、あちこちの血管から血液が噴き出してきる状態です。
採血の結果も良く無いです。カリウムの数値がかなり上がってしまっているので、本来であれば臨時で人工透析を行うべきなのですが、透析をしてしまうと血液の流れがよくなってしまう為に、出血が止まらなくなってしまう。
どうしたものだろうか・・。
そのうえ、腹部の出血が大量なので、とにかく開腹して血液を体外に出さなければなりません。どうしますか?」
「え・・。先生、どうしますか?って・・。開腹しなければいけないんですよね?どうしますかも何も・・。私に選択権なんてありません。もう、全てお任せしますから。」
小嶋先生もとにかく焦っている。
開腹手術を行う事に決定したものの、焦りで同意書の出力がうまく行かない様子だった。
「とにかく、書類にサインしておいてください。僕は手術の準備で席を外します。あとは救命センターの看護師に渡しておいてください。」
そう言い残すと、足早に診察室を出て行った。
時間は午後2時を過ぎていた。
夫を一旦ICUに運ぶとの事で、私と息子は緊急用のエレベーターに同乗してICUへ向かった。
エレベーターには、救命医の上野先生も一緒だった。
「息子さん?」
息子を見て私に尋ねた。
「はい。」
「大きいんだね。」
「中1です。」
「息子君、君は男の子だ。しっかり頼むよ。お父さんは今頑張っているから。僕らも頑張るから。」
息子は上野先生の言葉に深々と頭を下げた。