母のデイサービスも習慣となってまわりはじめた。

昨年から、半日のデイケアに始まり1日コースのデイケア、そして現在のデイサービスにつながって4か月になる。

週4日である。

午前中は入浴と、ご近所の花屋さんまでの散歩。

お昼ごはんをはさんでリクレーション、おやつの時間、そして帰宅となる。

 

さて、午後のリクレーションでは、トランプやぬり絵、イベントの飾りつけ創作などがある。

そのトランプだが、あまり複雑なものはやらないらしく、皆さんが子供のころに馴染んだ神経衰弱や、七並べ、ババ抜きなどをその日の気分でやっているらしい。

ババ抜きにいたっては、名称の「ババ」という言葉が身につまされるらしく、誰からともなく「ババ抜きではなく、ジジ抜きと呼びましょうよ」という提案があり、現在ここのデイサービスでは、「ジジ抜き」と呼んでいるとか。

男性陣は麻雀をやっており、トランプグループに加わっていないために、苦情は出ていないもよう。

ジョーカーをなぜ「ババ」と呼ぶようになったのだろう。

それはともかく、この名称変更によって、ひそかに「トランプやりたいなあ」と思っている男性にとって、敷居が高くなったのはまちがいない。

 

隣の駅のパン屋さんで朝食を摂っていた時のことだ。

隣のふたり席に高齢の男性と、わたしと同じぐらいの年恰好の女性が座った。

父娘だろうか。

娘(らしきかた)の方は、モーニングセット+菓子パンを。高齢男性も菓子パンを注文。

耳にはいってきた彼らの会話を聞くともなく聞いていると、「よかったね。ケアマネさんが決まって」とか、以前母が通っていた老健の名称、最近できたばかりのデイサービスのお名前などが出てくる。

どうもわたしとはご近所さんらしい。

聞くところによると、その高齢男性が最近、要介護認定(要支援かもしれない。足取りもしっかりしていたから)を受け、デイサービスに通うことになったようだ。

このテの情報に反応しやすくなっているわたしは(不謹慎ながらも)、積極的に耳を傾ける。

が、なにぶん父と娘である。

会話もぽつりぽつりと途切れがち。

沈黙を埋めるように、手元のパンをかじったり飲み物を飲んだりと、話もはずまない。

弾丸のように次から次へと言葉が飛び出す母親と娘の会話とはここが違う。

娘のほうは丁寧語なぞ使って、お父さんとは距離感もあるようだ。

お父さんもどこか遠慮がちに、携帯電話のことなどを話している。

そういえばわたしの父も娘と相対すると、かなり遠慮がちだったな、と思う。

どこの親子も雰囲気はおなじなんだな、と感心もする。

 

彼らの会話を聞いているうちに、「で、どこのデイサービスなの?」「地域包括はどこ?」「介護者のつどいって知ってます?」だのと話し掛けたい衝動に駆られる。(もちろんそんなことはできない。彼女たちだって会話に加わってなんてほしくないだろうし)。

 

その後、わたしのほうが先に席を立ち、近くのスーパーで買いものをして電車に乗ると、同じ車両に先ほどの父娘の姿が。

そして自転車こいで坂道を上っている途中に、父親と別れて歩く娘さんの姿。

手には、仏花を持っている。

そういえば先ほど、お母さんの(お供えの)花をどこで買うか話していた。

ああ、お母さまを亡くされたのね、と思う。

母を亡くしても、パンを食べて、花を買って、これからも生きていかなくてはいけないのだな、と思う。切実に思う。

 

こういう御縁とも言えない偶然は、再び同じようなめぐりあわせでやってくるかもしれない。

映画『箱の中の羊』を見る。

是枝監督の作品を見るのは、『万引き家族』以来である。

たまたま薬局のテレビで放送していたワイドショー番組で紹介していてこの作品のことを知った。

一体、なにがきっかけになるかわからない。

おおよそ生活の大半は、こんな偶然に彩られているようである。

 

さて、作品はというと、前作もそうだったが、是枝作品に登場する男の子役は、きれいな子が多い。

妙な言いかたかもしれないが、”きれい”とはつまり、大人になったら美女になるのではないかというような男の子だ。

今回も、ヒューマノイドという人型ロボットという設定ではあるが、採用された子役は、とてもきれいな子である。

話しかたも、演技指導の成果もあるだろうが、たどたどしいところも含めて、とてもかわいらしい。

亡くなった子供の代わりを務めるにじゅうぶんな雰囲気を持ち合わせている。

映画を見る前に検索した口コミでは辛口のコメントもあり、突き詰めて考えれば、なぜいきなり森に帰ることになるのだろう……と疑問も残るところもあるが、そうしたことも、「人間の勝手な過去から作り出された」とか、「親は子供に捨てられるもの」というセリフを導き出すための伏線だったということがわかる。

曖昧模糊としたものほど、見る人によって味わいが変わるのだろうと思う。

 

先日、amazonから『絶望明言』という本が届いた。

NHKの『ラジオ深夜便』から生まれた本だそうだ。

この本の存在も、偶然(なにがきっかけだったか忘れてしまったが)、知ったのである。

表紙には副題として、「明けない夜もある」と書かれている。

これがこの本のテーマのひとつのようでもある。

 

ずいぶん前、職場の人間関係について相談したカウンセラー氏から、「明けない夜はないから」と励まされたことがある。

その時は、そんなものかな、と思った。

そして転勤したことで、その場での人間関係は終了し、どうやら”明けない夜はなかった”ように見えた。

しかしわたしがわたしである限り、同じようなことは繰り返される。

明けて朝にはなったが、再び夜はやってくるのである。

その点、「明けない夜もある」ときっぱり言い切ってもらえると、合点がいく。

同じような思いをしている人もいることがわかれば少しばかり(本当に少しだけど)救われるような気もする。

明けない夜もあるが、真っ暗闇だからこそわかる光のありがたみというようなことか。

 

心理系、生きかた本の類のほとんどが、そのままでいいよ、ありのままでいいよ、と言いつつも、背中を前に押すものが多い。

どれもこれも前に押そうとするばかりで、「わかっちゃいるけどとてもそうは思えない」からこそのしんどさを感じることも多い。

 

思っていたよりも分厚い本である。

意外なことに、向田邦子さんの作品からの引用もある。

映画は2時間で終わってしまうが、本は(ブックオフに売らない限り)ずっと手元にある。

一気読みしないで、ゆっくり味わいながら読んでみたい。

地域包括センターで行われた「介護者のつどい」に出席する。

テーマが「死」を前提にしたつどいなので、どうしても内容が重くなる。

介護の”行く先”については、敢えてふれない。

「みなさん、大変ですねえ」というため息と共感。

介護の中にも、思わず笑ってしまうエピソードがあればそれを共有して、今、ここで笑い合う時間を持てれば来た甲斐があるというもの。

 

本日のメンバーは、いつもの3人(お父様を見送られた男性、奥様を介護中の90才男性、そしてわたし)に加えて、実家のお父様を病気で亡くされた若い女性。

普段、家の中で母とかみ合わない会話ばかりしているせいか、話が普通に通じる人、関心をもってうなずいてくれる人たちを得て、ついつい、夢中になって話し過ぎてしまう。

一応、自分の持ち時間を守り、遠慮して話したつもりだけど……。

初めて参加の女性は、引いちゃったのか言葉数が少なかった。

そもそもわたしはこんなに自分のことをべらべら話す人間ではなかった。

それなのに、まだまだ話し足りない気分。

 

帰り際、ケアマネさんに声をかけられた。

そろそろ彼女が訪問してくれる時期だ。

実際彼女に、何を頼めばいいのかよくわからないことも多いが、心強い存在ではある。

母の介護を通じて、顔見知りが増えた。

本当にゆるいゆるい関係。介護が終わったらあっさりと切れてしまうような細~い糸で結ばれた関係。

しかし自分の話を聞いてもらって、そして人の話も聞いて、帰りにはケアマネさんに声をかけてもらって、そういうちょっとしたことで、少なくとも、今日1日の気分は上向きになる。

上向きになれば、デイサービスから戻ってきた母にもほがらかに接することができる。

彼らとの会話が夜になっても、頭の中で続いている。

「飲まない・吸わない・賭けない」のいわゆる健康麻雀が流行っているらしい。

地域のケアセンターで初心者講座を開くというので申し込んだところ、希望者多数のため抽選となり、結果、残念ながら落選のお知らせがあった。

もちろん、カルチャーセンターに行けば受講できるが、まとまった費用をかけて、それに見合うだけの興味と面白みを感じられるかどうか……。

というよりも、そもそも、ついていけるかどうか、わからない。

 

以前、5年間ほど平塚に住んでいた。

「囲碁の街 ひらつか」ということで、公民館などあちらこちらで囲碁の講座や対戦が行われていた。

そうなると、せっかくだからと習いたくなる。

手軽な公民館だけでなく、カルチャーセンターの講座にも通い、実家の父にも教わったりして、ともかく一生懸命勉強した。

が、あれだけ励んだというのに、一向に上達しない。

目の数え方もよくわからない。

どっちが優勢なのかもわからない。

当然つまらない。

「世の中には、どんなに頑張っても、できないことがある。向いていないものがある」という当たり前のことがわかった。

そう悟ってあっさりやめた経験があるのだ。

 

麻雀とて、勝負ごとである。

たいていの勝負ごとに弱いわたしである。

囲碁の時と同じ結果になるのではないか???

そこで思いついた。

こんな時こそYOU TUBEがあるじゃないの!

これなら無料である。

ヨドバシカメラに行って敢えてソフトを買うまでもない。

さっそく検索してみると、ある、ある、たくさんある。

初心者向け講座を視聴してみる。

時間はお手頃、説明も丁寧だが、早口なこともあり、最初は聞き流す程度に。

思ったよりも、かなりフクザツである。

覚えるべき専門用語がとにかく多い。

日本語ではなく、中国語読みなので、それだけでもハードルが高く感じられる。

それでも繰り返し聞くたびに、少しずつ理解が深まってはいる。

さっき聞き逃した部分も、スッと耳にはいってくる。

独学で少し覚えてから、習いに行くのもありかもしれない……と前向きな気分になったところで、「役」とやらが30何種類ある、というのを聞いてぎょっとする。

ええっ、まだこれ以上に覚えることがあったのね!

超初心者向けの対面講座なら、覚えやすいところだけをかいつまんで教えてくれるかもしれない。

デイサービスでは、麻雀をやっている利用者さんが必ずいる。

そうした場所に行くのが少しでも楽しみになるかどうか。老後のためにも、あきらめるのはまだ早い。

それにドラマ『ドクターX』でも、大門未知子が(弱いながらも)麻雀を楽しんでいた。

あの世界に少しでも近づきたいのである♡