VUCA時代のサステイナブルな新規事業推進の要諦

 

VUCA時代のESG・SDGsをベースとした世の流れ


 筆者は元・国連の専門官として、日本でCSRやコンプライアンス(=法令遵守+社会的規範の積極的尊重)とは何かと騒がれていた黎明期より、世界標準でのESG・SDGs関連について、日本企業をはじめ各国大使などとも連携した指導を行いつつ、自ら実践してきた者であり、日本企業での経営者でもある者として、昨今の新規事業展開に気になる点が多々ある。


 VUCA(Volatility(変動性)・Uncertainty(不確実性)・Complexity(複雑性)・Ambiguity(両義性・あいまいさ))の時代に、多様性を尊重し相互に多様化していくことが重要視されるESG・SDGsという世界人権宣言・人権規約に端を発するいわば「国連主導で計画的に導かれるよう形成された国際世論」であり「ESG・SDGsの理にかなった取組みは追い風を受けてビジネスチャンスを広げやすい仕組み」でもあり「逆にESG・SDGsの理にかなわぬ対応は世論やビジネスの逆風を受けやすい枠組み」の中で、旧来の価値観・対応法・「常識」に沿って漫然と新規事業に着手するのは、少なからずリスキーな側面がある。
 

 ちなみに、VUCAの「A」について、あえて筆者は世によくいう「あいまいさ」だけでなく、ある「世界的なカネのかかる大運動会」に外交団はボイコットするが選手団は派遣する、というような状態を、筆者は両義性という言葉を用いて見据えやすいようにしている(外交上のボイコットもするし、選手団派遣で競技を通じて栄誉や国威発揚をするチャンスも活かす、という二律背反しそうな両義を同時に満たそうとしている面で「両義性」がしっくりきそうである)。
 

 コロナ渦中においても、多様に両義性ある経済状態は存在しており、画一的に全業界が困るとは限らず、飲食・宿泊・観光などの業種が人員を抱えきれない状態で致命的なほどのダメージを被る一方で、ステイホームやリモートワークやDX推進・オンライン化などのESG・SDGsの理にかなった追い風を受けるIT業界や特にeスポーツ業界などでは、逆に人手不足や転職市場の活性化を見る状態にある。
 

 もちろん、不況期にも好調な企業もあれば不況にあえぐ企業もあるのだが、コロナ渦中ではCOVID-19パンデミック以前とそれ以降で、ガラッとビジネスの常識・あり方・これから求められる重要なポイントが激変しており、それだけに、旧来からいう不況の状態とは異なる多様で複雑な様相を呈しているのが実態である。
 

 そのような中で、新規事業を進める際に、筆者がよく指導していることは、不確実性の高い状況下で過去に例のないことがビジネスでも感染症でも災害でも起こり得るVUCA時代において、確たることとして基軸となるのはサステイナブルな視点・対応で臨むことであるということだ。
 

サステイナブルであるかどうかがビジネスの成否を握る

 

 サステイナブルというと、世の中では環境分野の用語と誤解されているケースも少なからず見受けられるが、国際的なビジネスシーンにおいても日常の生活・生き方働き方改革においても、ごく身近なものであり、筆者は以下のようにサステイナブルについて整理している。
 

 「サステイナブル」=「ムリなく・ムダなく・長続きする・ESG/SDGsの理にかなった・お互いに幸せになりあう取組み」(©戸村智憲)ということが、筆者なりのサステイナブルについての定義的な整理である。(ある意味で、肩の力が抜けた自然体で、しなやかに強く、追い風を受けて図に乗らず堅実大胆に進めていくスタイルがサステイナブルであろう。)
 

 また、漠然と語られがちなコロナ渦中からの「ニューノーマル」(新常態)については、「感染症対策 x ESG・SDGs x 生き方働き方改革 x DX = ニューノーマル」と筆者は整理している。
 

 さらに、サステイナブルな経営・生き方働き方の基幹部分「ESG・SDGs x 生き方働き方改革 x DX」に何を掛け合わせるかにより、これからビジネスでも生活でも求められることを筆者は例えば以下のように整理している。
「ESG・SDGs x 生き方働き方改革 x DX x 仮想空間 = メタバース」
「ESG・SDGs x 生き方働き方改革 x DX x スマートシティ = Society5.0」
「ESG・SDGs x 生き方働き方改革 x DX x コネクティッドインダストリー(基盤技術・複合領域のかけあわせ) = 第4次産業革命」
「ESG・SDGs x 生き方働き方改革 x DX x 行政サービス = 行政デジタル化・行政DX」
「ESG・SDGs x 生き方働き方改革 x DX x 議会改革 = 議会ICT化・議会ダイバーシティ, エクイティ & インクルージョン(DE&I)」 など。
 

 生産性の低さが国際的にも機関投資家などによるIR面でも批判を受けている日本企業において、「必要は発明の母」といえば好意的な解釈だが、実態として、「コロナ渦中にこれまで働き方改革でも後ろ向きだったテレワークやリモートワークやビデオ会議の積極活用をしないと、儲けを得るための業務が回らない」という、「尻に火が付き背に腹は代えられず」対応してきて何となくニューノーマルやDX推進の入り口に立って消極的な実態からたまたま環境適応でき始めているだけの企業が少なくない。
 

 しかし、従来からも指摘されてきたことであり、筆者もコロナ渦中といわず現在8歳で小学2年生の息子が生まれた8年前(経営者として1年間の育休取得や3年間の家庭最優先での出張回避・オンライン活用など)から指導や指摘してきたことであるが、長時間かけてでも行う出張や出勤に付加価値があるのではなく、仕事そのものに付加価値があり、いつでもどこでもスムーズに業務を回せるほうがムリがなく、交通費や出張手当や労災リスクなどのムダもなく、出張や出勤関連のコスト削減で利益向上や稼ぐ力の底上げとしても長続きしやすく、また、出勤や出張で生じる付加価値なき拘束時間が浮いた分でプライベートや家庭生活を充実させ、経営上はカネを削減し魅力ある企業像で求人力を高め、役職員はライフとワークの調和をもってイキイキと働ける状態で双方に利するESG・SDGsの理にかなう対応が、サステイナブルな経営のひとつなのである。
 

 要するに、そもそも労使の立場以前に同じ人間同士で大切なことを進めようとするESG・SDGsに沿ってサステイナブルであることは、経営陣にとっても役職員にとっても、お互いに利するものであり、新規事業においてもサステイナブルであるかどうかを見極めることが、ムリなく・ムダなく・長続きして、社会的にもビジネスの追い風を受けて羽ばたきやすく、労使間も企業と社会の間もスムーズに互恵的な関係(企業が本業を通じた社会貢献・社会的問題解消の視点を持つことで、儲けようとすればするほど企業も社会も幸せになりあいやすい状態)になりやすいのである。

 

 ちなみに、BCP・災害対策・不祥事対応などでもカギとなるSDGsにいうレジリエンスとは、筆者なりの整理としては、粘り強く立ち直る・立て直す力(①ダメージの最小化、②元の水準まで早く戻すリカバリータイムの短縮、③ある苦境を教訓に次に備えて備えを積み増す・禍転じて福となす変革を導く)ということであり、コロナ渦中に新規事業や新サービスを展開して成功してきた企業には、これまで踏み切れなかった領域に着手して功を奏している企業が少なくない。
 

 例えば、筆者が結婚式も挙げ上級クラブ会員にもなっている帝国ホテルでは、従来は改装までして取り組みにくかったものの、同ホテルほどの格のあるホテル群に先んじて、サービス・アパートメント(定額制で長期宿泊・衣服のクリーニング利用・インルームダイニング(いわゆるルームサービス)の利用など)が画期的なニュースやトレンドとなり、ホテル業界に震撼を与えつつ他のホテルもこぞって追随するようなブームとなった。
 

 いわゆるサブスクリプション的要素も併せ、海外旅行にも行けず旅行をしたい欲求もありつつ感染症対策も心配な中、帝国ホテルに長期滞在でラグジュアリーな経験をしたいという思いや、ムリない価格設定・ムダのないサービス提供・長続きしやすいFB(飲食)サービスや環境負荷低減なども勘案しながらの生活/ビジネスサポートを、収益確保したいホテルとお得に長期滞在したい宿泊者の双方に利する形態で、コロナ渦中の主力サービスとなっている。
 

サステイナブルな新規事業展開は「悩み」に着目する

 

 さて、実際に新規事業や新サービス・新製品などの管轄や担当として、いかにVUCA時代にサステイナブルに進めていけるのかについては、筆者は「悩み」に着目することが重要であると指導している。
 

 例えば、今や生活インフラ的な様相を呈してきているが、当初は流行りもの・一部のアーリーアダプターが利用するもの、といった位置づけでもあったUber Eatsや各種デリバリーは、コロナ渦中に外食したい想いがありつつも、ステイホームで感染症対策が極めて強く社会的に求められてきたという「悩み」と、従来は出前をしていなかったり配達要員の確保なども大変でデリバリーに踏み切れていなかったりしたような飲食店が収益を確保したいものの、実店舗に集客する状況になく困ったという「悩み」の双方がかけあわさり、自宅にいながらにしてスマホのタップ1つで手軽に対人接触も最小限に抑えて外食感覚を楽しめるというところに、爆発的な普及・ヒットとその後の一定の継続利用確保に至るという状況がある。
 

 そして、いきなりゼロから自前で受注やデリバリー体制を構築するムリもなく、アイドル時に人件費をかけて配達要員を抱え続けるムダもなく、スマホ1つでシステム化されたデリバリーサービスを活用することで飲食店側も利用者側も利便性良く長続きし、SDGs目標3にある感染症対策の理にかなって、飲食店側も利用者側もデリバリーのシステム提供者や働き口に困る受取配達サービス提供者(配達員)側も、お互いに悩みを解消して幸せになりあう取組みとなっているところに、新規事業・新サービスの持続的な発展の主要因がある。(配達員を都合よく扱えるようにするような契約から、実施質的な従業員として法令上でとらえていく動きも、ESG・SDGsの理にかなった動向である。)
 

 そもそも、単に「何が売れそうか」という既存サービスの市場予測でのお話しではなく、画期的で新たな潮流を作り得る新規事業・新サービス・新製品であればあるほど、既存の予測以上に「悩み」という人間の本能的な欲求(悩みを解消したいという欲求)を見据えることは、より重要な成功要因となるのである。(既存データであろうとも新規事業展開では成功を目指す上では、各企業がこの「悩み」に関わるデータを見据えるべきであろう。)
 

 歯科医余りの昨今になってなんとなく一般的になってきた虫歯ができる前に予防的に日常的な歯科受診という習慣は、決して否定されるべきものではないが、それでも、虫歯になった際に抜歯すべき際に歯を痛い思いをして抜いてもらうことが趣味な人はいないのではないだろうか。
 

 それでも、抜歯すべき状況の際に痛みやわざわざ時間を割いて歯科医院に出向き、抜歯してもらうのは、虫歯の継続的な痛みから解放されたいという人間の本能的な「悩み」の解消という究極のニーズに基づくものであろうし、痛みを伴いつつも抜歯にて治療してくれた歯科医に感謝するのも、また、人間の本能的ニーズを満たしてくれたがゆえのことであろう。
 

 新規事業・新サービス・新製品を漫然と開発・推進するよりも、サステイナブルに自然と軌道に乗せて企業として追い風やファンづくりをしながら成長しやすくする上では、社会的課題としてどんな「悩み」があるか、社会にいる潜在顧客が何に悩んでいてどうなれば幸せを感じてもらえるか、といったことを把握するために、筆者なりにいう「社会貢献営業」として、社会と対話し「悩み」に寄り添い耳を傾け社会的課題を解決できるように努めていく姿勢・視点・取組みが、これからの新規事業展開に必須であると筆者は常々述べている。
 

 ちなみに、歯科医だけでなく司法制度改革などの影響か弁護士余りや弁護士事務所経営の苦境(中には弁護士事務所経営で資金ショートを起こしてクライアントからの預かり金を着服横領して懲戒処分される弁護士もいる)も叫ばれる中、社会的課題として職業選択の自由を侵害するようなパワハラ的・洗脳的で違法な退職引き留めや「退職願い」ではなく「退職届け」の不当な不受理扱いなどに際し、弁護士による退職代行サービス(行政書士などによるものもあるが…)が流行したり、いわゆるサービス残業の残業代未払いという違法行為に企業経営者が及んだりするのに際し、弁護士保険の隆盛もあってか、弁護士業界が過払い金請求ブームの次に見据える金脈として、積極的に残業代請求を進めるという法令上もESG・SDGs上も理にかなってスマートでサステイナブルな新規事業展開が目立つ(人間の本能的に生きるためのカネに関わる「悩み」の解消と弁護士もクライアントも幸せになりあう形態と解釈すべきであろうか…)。

 以上につき、VUCA時代にESG・SDGsを見据えつつ持続的な発展へとつなげやすいようにするサステイナブルな新規事業展開の要諦について、筆者がよく経営指導や講演などでお伝えする内容を基にまとめておいた。


 本稿が読者諸氏に何かしら少しでもお役に立てばと思いつつ、これからの新規事業の基軸づくりにおける議論の呼び水にでもなればと思う次第である。