サイゼリヤ・プロシュート ~村上龍の誘惑~ | ちょっと蛇足的な、ココロ模様。

ちょっと蛇足的な、ココロ模様。

人からたまに変わってる、と言われます。
だって変わらなきゃ、何も始まらないじゃない?

by ちょっとナナメ上を行く吟遊詩人 小林宏行                    


サイゼリヤである。

なのに、村上龍である。


こう書くと、
違和感を感じる人はどのぐらいいるのだろう?

庶民の味方のその場所で、
まさかそんな大作家が来店するはずもない。

世の大作家は高級ホテルの一室で
いそいそとペンを走らせ、
最上階のバーでワイングラス片手に
舌鼓を打つものだと決まっている。

それを肯定する人が多いのは察しがつく。

でも私は彼に誘われたのだ。


先日のコーヒータイムは
なぜか赤ワインになった。

つまり、村上龍のせいである。


(前略)

もっと驚いたのは、
パルマ産の生ハムが紛れもない本物だったことだ。
中田英寿が現役でパルマに所属していたころ、
わたしは何度も彼の地を訪れ、
ミラノやピアチェンツァやボローニャなどを含めて、
かなりの量の生ハムを食べたが、
サイゼリアは、本場にまったく劣らない味だったのだ。
ほとんど同じランクの同じ大きさの生ハムが
数枚入った真空パックを成城石井や紀ノ国屋で売っているが、
2000円近くする。

サイゼリアの生ハムは真空パックのものより安くておいしい。
カンブリア宮殿に出演した会長にそのことを聞いてみると、
ブロックで輸入してスライサーでカットしているらしい。
でも、生ハムはあまり注文がないのだと言っていた。

モッツァレラチーズもまさしくバッファローの新鮮な本物で、
本場イタリアの、たとえば高速道路のドライブインの
ものよりは品質がはるかに上だった。
何でこんなにハイレベルの食材がファミレスにあるんだ、
とつぶやきながら、わたしは満足してハムとチーズを味わった。

「逃げる中高年、欲望のない若者たち」より)


これが彼の誘い文句である。

でなきゃ、コーヒータイムに
わざわざワインなんか飲むはずもない。

メニューを開く。

低価格路線がウリのサイゼリヤ。

意外だった。
生ハム1枚当たり200円。

強気である。

生ハムメニューのスペースの大半が
そのウンチクに割かれてた。

私を口説いている。

本物かも。

プロシュート【prosciutto】

そう呼ばれている。

イタリア語で「とても乾いた物」という意味である。
豚のもも肉を塩漬けにした後、
乾燥したところにつるし、熟成させる。
自家製のものは暖炉近くにつるすことがあるが、
意図的な燻蒸は行わない。

初めて知った。


教養の時間中、
目当てのものが運ばれてきた。

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色が映えてない。
残念、節電中の店内だった。

コーヒーブレイクに赤ワイン片手に
生ハムを喰らう私。
今までなかった。

適度な脂身とモチモチっとした感触から織り成す
舌触りのいい食感に私は彼の誘惑に反論できなかった。

でもちょっとしょっぱかったかな。
となりにちょこんと佇んでいる
プチフォッカに巻いて食べるといい塩梅。

美味である。

赤ワインを口に運ぶと
生ハムとフォッカチオの食感が
一緒に塒を巻き始めた。
味覚の矛先も相俟って
一緒にハーモニーを奏でている。


仕事中のわずかな休憩時間。
別にコーヒーを飲む機会を失ったのを悔やむ必要はない。

文化人の営みと外国の食文化に触れる。
わずか数百円の至福。


そんなキッカケをちょっと見過ごして、

あれっ、なんだったっけ?

後になって振り返った時に
思い出せない方がよっぽど悔しい。


そう思ったときに実行するから
日々刻んでいけるのである。


隠れた品格。

決してそれは表に出ない。
自ら探すもの。

そこに彼がいた意味がようやくわかった。


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予感。

ここ最近、お出迎えするようになった
我が家の玄関にある君子蘭(クンシラン)。


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その鮮やかなパッション・オレンジ。

しかし、私にとってはサプライズ・オレンジなのである。


先日も隣り街を歩いていたら、あるチューリップに出会った。

赤いチューリップばかりだと見過ごすのに、足を止めた。


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そう、オレンジだったから。

当たり前のところに意外なものがある。


そう、誘われたのは当たり前のところに
意外な彼がいたからである。

クンシランもチューリップもワイングラスの化身。
そして、オレンジは生ハムの艶やかな柔肌。

赤がオレンジに変わったのは
春の日差しが強かったせいだろう。


無意識が意識に変わるとき
そこに道ができる。


気がつくと、
私は思い出したように
部屋の本棚を漁り始めた。


そう、「ラッフルズホテル」

さあ、また彼に口説かれに行こうか。


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今回のサイゼリア・プロシュートの件、ひょんなことで知り合った
横浜市都筑区センター南駅前にあるイタリアンレストラン
「Cucina Pinocchio」(クッチーナ・ピノッキオ)
オーナーが絶賛していたのを思い出した。

本ブログのキッカケ作り。感謝御礼申し上げます。