浜松市の I 氏からオーダーをいただいて制作したOrder Made Speaker Network Model I-2の最終チェックが終わり、更なる高みを目指して、オーナー自らSpeaker System の改良や部屋(Room-I )の調整などを行い、一段とグレードアップしたが、更なる改良点が見つかり、今回、その改良後の結果を報告します。
Room-I


改良項目
(1)ミラフォニック・バッフルを構成している板の接合部に少し隙間が見える箇所が見受けられたので、この辺りの接合を強固にする。
(2)WO用L1の2.2mH+2.5mH=4.7mHの2.5mHが一般的な空芯コイルだったのを、DCRが極端に低いトロイダルコアタイプの4.7mHに変更する。
(3)SQ用C2の5.6uF+4.7uF=10.3uFの5.6uFが一般的なフィルムコンだったのを、オイルコンの3.3uH+2.2uF=5.5uFに変更する。

 

NW改良後の特性チェック
NS-10Mを使用し、WO,SQ,TWのフィルターが正常であることを確認。
(16Ωを想定しているSQは、NS-10Mのインピーダンスカーブから、500Hz辺りが12Ω位であるので4.3Ωの固定抵抗を直列に繋いで測定し、NWのAT-3dBと+10dBオフセットプロットでデータ調整)

改良後の結果
(1)ミラフォニック・バッフルは、後面開放型であるため、切れの良い低音は出るものの、超低音の再生は望めない。前回の測定でも50Hz以下がかなり減少しており、若干低音の量感不足の印象があった。今回、バッフル接合部の強化が行われ、測定・試聴中、量感不足を感じることは無かった。

 

今回の測定は、改良点(2)、(3)についての測定だが、変化の差が僅かであることが想定されるので、WO用L1のコイルを全て空芯コイル、SQ用C2のコンデンサーを全てフィルムコンにした場合をBefore状態、WO用L1のコイルを全てトロイダルコアコイル、SQ用C2のコンデンサーを全てオイルコンにした場合をAfter状態として、Before/Afterの差をチェックすることにした。
Before状態の配線状態


After状態の回路図と配線図・配線状態


 

事前に行ったNS-10Mを使用した周波数音圧特性では、Before/Afterの差はほとんど無いが、よーく観察すると、WOの130~200Hz辺りでAfterの方が1dB程度高い。当然ながらTWは全く一致。


WOは青:Before 空:After 

SQは黒:Before 緑:After 

TWは赤::Before ピンク:After 


まずは測定の前に、WOに対するSQの位置と、SQに対するTWの位置合わせを次のような方法で行った。


Function Generator SIGLENT SDG1020を使用して500Hz 3波のバースト波を再生し、試聴位置に立てたマイクで拾い、そのマイク信号と入力信号をOscilloscope Tektronix DPO7104で入力信号に対するディレイ・タイム測定し、WOのみの波形とSQのみの波形のディレイ・タイムが同じになるような位置にSQを移動させた。
ディレイタイム測定


Wo-SQ-500Hz-2ms


同様に、8kHz~12kHz 3波のバースト波を再生し、SQのみの波形とTWのみの波形のディレイ・タイムが同じになるような位置にTWを移動させた。
W-SQ-8kHz-2msc


1cm移動させると約30uSECずれることがオシロスコープ上でつぶさに確認できた。
その結果、振動板の位置がほぼ一列に揃う場所が適正位置であることが分かった。


この段階(NWはBefore状態)でのI氏の試聴感想として、「以前に比べ、各楽音の付帯音が無くなり、クリアに聴こえる様になった」とのこと。

 

 

(2)空芯コイルとトロイダルコアコイルの差
100Hz 3波のバースト波を再生し、試聴位置に立てたマイクで拾い、そのマイク信号の波形をオシロスコープで観測。
空芯コイル:2.2mH+2.5mH=4.7mH DCR1.0Ω


トロイダルコアコイル:4.7mH DCR0.07Ω


Beforeの信号部を緑に変換しAfter(黄色)に重ねた波形データ


Afterの方が2波3波の音圧が高い。これは、DCRが低いトロイダルコアコイルの方が応答の良い低音が出ていると想像される。


(3)フィルムコンとオイルコンの差
1kHz 3波のバースト波を再生し、試聴位置に立てたマイクで拾い、そのマイク信号の波形をオシロスコープで観測。
フィルムコン:4.7uF+5.6uF=10.3uF


オイルコン:4.7uF+3.3uF+2.2uF=10.2uF


Beforeの信号部を緑に変換しAfter(黄色)に重ねた波形データ


残念ながら波形観測ではBefore/Afterの差は確認できない。(AfterはBeforeに比べ若干音圧が低いが、これは音量ノブの設定の差によるもの。)
上記測定は、デジタルアンプDA502の試作品で駆動した場合のデータだった。


もしかするとRoom-Iの常設真空管アンプ6C19P プッシュプル8W +8W(画像中段右側)で駆動した場合だと、ダンピングファクターの関係でBefore/Afterの差がもう少し顕著に出たかもしれない。


 

尚、NW素子の種類の変更によるBefore/Afterの差は、試聴での確認が欠かせないので、今回も普段良く聴いている女性ボーカルの曲で行ったが、当然ながら、各種形容詞を使った言葉での評価や、好き嫌いの範疇の評価になるため、個人的には差を感じた部分はあるものの、あえてこの投稿には入れないことにした。

 

余談1
トロイダルコアコイルの容量を測ってみたところ、10kHz位の高い周波数においては、測定値が3.5mH位になり、1kHzでも4.0mH位、100Hzでやっと定格の4.7mHとなった。つまり、トロイダルコアコイルは高いカットオフ周波数のフィルターには向かず、低いカットオフ用としてのみ使用した方が良さそうだ。ちなみに、空芯コイルは10kHzでの測定でも、ほぼ定格の値で測定された。

 

余談2
Room-Iは縦長の部屋であるため、定在波の影響を受けやすいことが推測される。100Hzのバースト波を再生する時、30mSEC(約10m)以上のところに反射波が大きく出ていたが、後の扉を開けた途端にそのオシロ画面の反射波が激減した。そしてそれ以上に、聴いた音が全く違うことを感じることができた。