主戦場探し | ゾンビは走っちゃダメ!

主戦場探し

 従軍慰安婦の問題をめぐる映画『主戦場』を観る。日系アメリカ人のミキ・デザキ監督が政治家、政治活動家、歴史学者、社会学者、法学者などさまざまな立場の人へのインタビューを集めたドキュメンタリーだ。映画がヒットしたら、インタビューを受けた右の人たちは「不本意な扱われ方をした」と上映中止を求めているが、取材対象者があとから「自分の映像を使うな」と言い出すのはドキュメンタリーではよくあること。だから、撮影前に念書を取っておくことが大切。この監督はそれをちゃんとやっていたようだ。

http://www.kirishin.com/2019/06/09/25695/

 確かに、右の人たちを「歴史修正主義者」とアナウンスし、右の人たちのインタビューの後にそれを反証する映像を持ってくるなど、右の人たちには不利な編集だ。でも、逆のつなぎにしたら右の人たちの主張どおりの映像にできたかは疑わしい。だって、右の人たち、優生思想やらダブルスタンダードやら、ボロを出しすぎ。杉田水脈議員が話題を振りまく割りにはこれまであまりインタビューを見たことないなと思っていたら、喋りを見て「あ、ただの炎上要員だ」。映画のラスト近くに出てくる日本会議の大物なんて、もったいつけたラスボス登場にしてはキャラが弱すぎ。

 右の人たちの「慰安所の設置に日本軍が関与したことを示す書類はない。業者がやったことだ」という主張にも触れていたが、これは説得力がないと前から思っていた。お代官が越後屋と証文を交わすか? 「あとのことは……わかっておろうな」という忖度は日本人のお家芸じゃないのか? アメリカに従軍慰安婦像を造るのは筋が違うだろうと思っていたが、それもテキサス親父のスタンドプレーで台無しに。

 映画は思い付く限りの角度から、従軍慰安婦の問題を捉えようとしていた。ドキュメンタリーはやはり、どれだけ素材を提出できるかが勝負だ。『主戦場』は主戦場を探る映画だ。

 それでもこの問題の解決の糸口は見えてこない。映画でも触れていたが、日本政府は何度か謝罪しているし、賠償金も設定している。でも、日本の靖国参拝や韓国の政権交代(これは映画では触れていなかった)など別の事案で従軍慰安婦の件はリセットされてしまう。隣国同士はある程度火種を抱えているほうがいいんだと言わんばかりに。

 

 自分の映画で韓国ロケを始めた頃、北朝鮮がやたらとミサイルを飛ばしていた。「韓国ロケなんて無理じゃないか」と余計な心配を受けた。撮影を続けるうちに、今度はアメリカと北朝鮮が会談を始めた。だから、政治のことを後追いしても仕方がない。こちとら草の根の、さらに地面の下のほうの切れ端にすぎないんだから。マスコミによれば日韓関係はいつだって「史上最悪」なんだから、気にしても仕方ない。