本日は相川七瀬「恋心」(1996年リリース) です。
1995年に「夢見る少女じゃいられない」で鮮烈なデビューを飾った相川さん。それまでの既存の女性歌手とは異なる「ダークなロック」は見る人・聴く人を魅了し、「夢見る少女じゃいられない」はいきなりヒットを飛ばし、代表曲となります。その後も「バイバイ。」「LIKE A HARD RAIN」「BREAK OUT!」とリリースし、いずれもヒット。その勢いのままリリースされた1st.アルバム『RED』は200万枚を超えるダブル・ミリオンセラーを記録し、一時代を築きあげます。相川さんの確かな歌唱力、そしてダークな雰囲気を纏ったビジュアルは、当時の若者を中心に多くの影響を与えました。そして、トータル・プロデュースを手掛けた織田哲郎さんの戦略がドンピシャで嵌まった形となりました。織田さんは楽曲制作だけでなく、ステージングや衣装、ジャケット・デザインやプロモーションといった部分にまで関わり、相川さんの活動を全力でサポートしてきました。
アルバムリリースから3ヶ月後、5枚目シングルとして世に放ったのがこの「恋心」でした。
この曲は三貴「カメリアダイヤモンド」のCMソングとして起用されました。
元々この曲は相川さんがまだ17歳の頃に織田さんが書いたもので、「夢見る少女じゃいられない」と共にデビューシングルの候補になった曲の一つでした。結果的には大人っぽい雰囲気のこの曲はボツとなり、「夢見る少女じゃいられない」がデビューシングルとなりました。
織田さんが書いた歌詞は「逃避行」をテーマにしたもので、罪を犯して逃げている二人の胸の内と、芽生える恋心を描いたものとなっています。
「ねえ 教えて欲しい」
「もう 戻れないの?」
二人で罪を犯し、追手から逃避行を続ける二人。女性はふと相手にボソッと聞くのです。「前みたいに戻れないのか」と。
「遠く波の音 聞こえた気がした」
「よりそう二人の隙間に」
逃げてきたのは海岸。遠くで波のうねる音が聞こえる中で、束の間の安息。ずっと一緒に居たいと心から願うように、二人寄り添って話をします。
「こぼれ落ちる思い出のかけら達は」
「言葉にならない 切ない予感」
しかし罪を犯してしまった以上、前みたいに楽しい日々を送ることは出来ません。逃げている時にはそれまでの思い出たちがぼろぼろとこぼれ落ちてしまっています。この後の最悪のシナリオを予期するかのような、そんな不安が二人を押し寄せているのです。
「恋心 あてもなく今 夜におびえているわ」
「ガラス越しの闇にそっと 涙隠している」
二人でいる安心感は徐々に恋心として、お互いを意識するようになります。ですが、いつ捕まるかわからない状態に自分の精神的な状態は持ちません。今ても不安で夜は怯えています。ふと外の闇を見て、どうにもならない現状を考えると涙が出そうになりますが、強くならなければならない自分は、グッと涙を堪えるのです。
織田さんによるダークなロック路線は続いており、歌詞と合わさってかなり暗めな作風ですが、イントロとサビは少し光が照らすかのようなピアノの音が印象的となっています。ただのロックで終わらすのではなく、織田さん自身が好きな民族音楽のノリを散りばめたり、ベースをディスコ・ビートにするなどの工夫がなされています。エレクトリック・ギター、ベース、キーボード、プログラミングといった全ての演奏を織田さん1人で演奏しています。
この曲は最高位2位までランクインし、最終的にはミリオンセラーとなるなど大ヒットしました。私もよく聴くダークなロック。一癖も二癖もある曲です。
↑MV。ドラマ仕立てで歌詞に合わせて「ボニー&クライド」をイメージした、銀行強盗やコンビニ強盗をして逃げる二人を相川さんが演じてます。織田さんはこのMVの製作総指揮を取り、演出には映画監督の堤幸彦氏を招聘して制作されました。織田さんはわざわざ絵コンテまで書いてこのMVを一から考えたそうですが、初期に思い付いた「ガソリンスタンドの爆破」は流石に予算の都合上出来なかったそうです。コンビニ店員が相川さんによって撃たれていますが、このコンビニ店員は後にエイベックス社長となる松浦勝人氏(当時は専務取締役) が演じています。また、1:17で右側に帽子を被って手を上げている男が居ますが、これは織田さん自身が演じています。
以前投稿した「夢見る少女じゃいられない」と同様に、「恋心」も織田さん自身がギター弾いてみた投稿をしてますので、こちらもどうぞ。