障がいの壁を越えたうた。酒井法子「碧いうさぎ」 | よねともが気ままに思うブログ

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本日は酒井法子「碧いうさぎ」(1995年リリース) です。




酒井法子さんは1985年に大規模のコンテスト「'86 ミスヘアコロン・イメージガール・コンテスト」に出場し、グランプリこそ逃しますが、「BOMB!賞」を受賞し、芸能界デビューを果たすことになります。当時の所属事務所社長の自宅に下宿しながら学校に通いつつ、レッスンをこなしていきます。1986年にドラマ出演を果たし、同時期に当時のグラビア雑誌「Momoco」に登場するなど、アイドルとして華々しくデビューしました。この辺りから、後年にネタにもされる「のりピー」として振る舞うようになり、その独特の言葉遣いが「のりピー語」として若者を中止に流行するようになります。また、アイドル歌手として「男のコになりたい」でレコードデビューもし、いきなりオリコン6位にランクインするなど、新人歌手として上出来のデビューとなりました。この頃には東京・原宿において当時、多くの芸能人が「タレントショップ」をオープンさせていましたが、酒井さんも「NORI-P HOUSE」をオープンさせ、売上が軌道に乗ると日本全国にオープンし、さらに富士山8合目(標高3300m付近) にも「のりピーちゃんハウス」としてオープンするなど、話題には事欠かせない存在となっていきました。

転機となったのは1993年に放送された江口洋介さん主演のドラマ「ひとつ屋根の下」(フジテレビ系) に柏木小雪役で出演し、女優として評価されることになります。続いて「出逢った頃の君でいて」(日本テレビ系) ではヒロインを演じます。女優としての地位を確立しつつありましたが、歌手としては今ひとつヒット曲を出せずにいました。しかし、そんな中でリリースされたのがこの「碧いうさぎ」でした。

この曲は酒井さん自身が主演した日本テレビ系ドラマ「星の金貨」の主題歌として書き下ろされました。


「星の金貨」のワンシーン。

このドラマで酒井さんは、耳と口が不自由な先天性の聴覚障害者という難しい役柄に挑戦しました。そして大沢たかおさん・竹野内豊さんといった俳優が相手役で起用されました。酒井さん演じる倉本彩の悲恋を描いたもので、この当時のトレンディドラマ全盛に悲しいストーリーながら、酒井さんの役柄に共感を持った視聴者が多く、大ヒットドラマとなりました。1996年には続編「続・星の金貨」も制作されており、こちらも大ヒットとなりました。この「続・星の金貨」では今では主演作を多く持つ沢村一樹さんの連続ドラマデビュー作となっており、いきなり悪役に挑んでいます。

大ヒットドラマの主題歌となった「碧いうさぎ」ですが、この曲ではドラマとリンクするように、酒井さんは手話を用いながら歌唱するという今までに無い試みを行いました。こうしたことで、歌を聴くことのできない聴覚障害者の方にも歌を楽しめるという工夫がとられています。

作詞は作詞家の牧穂エミさんが書いたものでした。作詞はコンペ形式で50人ほど応募者がいたそうで、ドラマの内容に沿ったもの、グリム童話の「星の金貨」に似合うものの2種類の歌詞を作るというのが条件でした。その結果、牧穂さんが書いた2種類の歌詞が選ばれ、主題歌制作時にこの2種類の歌詞をミックスしたのが、現在の歌詞となっているそうです。また、「あおい」を「青」では無くわざと「碧」にしたのは牧穂さんの狙いだったそうです。

あとどれくらい 切なくなれば
あなたの声が 聴こえるかしら

この歌詞はドラマに沿ったもの。主人公・彩の波乱に満ちた人生はかなりつらいもの。ならばいっそ、切なくなればなるほど、私の耳は聞こえるようになるのかな?といった、かすかな希望を望んでいます。

なにげない言葉を 瞳合わせて ただ静かに
交わせるだけでいい 他にはなんにもいらない

でも切なく、つらい人生を歩むのももうこりごり。ならばあなたの目を見て、手話というコミュニケーションで交わせるだけでもうれしい、と思っています。

碧いうさぎ ずっと待ってる
独りきりで 震えながら

ここでの「碧いうさぎ」は私自身。誰かが私のことを迎えに来るのを、恐怖と不安で震えながら待っています。

淋しすぎて死んでしまうわ
早く暖めて欲しい

早く人の温もりが欲しい、じゃないと淋しくて死んでしまう、と思っています。

作曲は織田哲郎さんによるもの。作詞はコンペ形式だったのですが、この時点で織田さんが作曲担当というのは決まっていたそうです。この頃の作曲のみを担当していた織田さんは曲を書いたらアレンジに関してはアレンジャー任せにしていたそうで、スタジオに行くと「口を出してしまうから」という理由でお任せにしていたといいます。サビ前が一瞬メジャーコードにして、そのあとは元のマイナーコードになるのがミソだといいます。

そしてアレンジを担当したのはアレンジャーでキーボーディストの新川博さんによるもの。ポップスとして書かれてはいるものの、フォルクローレといった民族音楽の雰囲気も出しており、完成度の高い作品に仕上がっています。織田さんもこのアレンジを絶賛しています。

オリコン週間5位ながら大ヒットとなり、ミリオンセラーに近いセールスを記録しました。障がいの壁を越えたポップスは、多くの人々を魅了したのです。