誰かが残した蜃気楼。サザンオールスターズ「君だけに夢をもう一度」 | よねともが気ままに思うブログ

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本日はサザンオールスターズ「君だけに夢をもう一度」(1992年リリース、シングル「シュラバ★ラ★バンバ SHULABA-LA BAMBA」カップリング) です。




1988年からサザンの制作に携わってきた小林武史さん。Mr.Childrenのプロデュースと同じくらい、サザンの共同編曲・プロデュースを務めていたことはよく知られていますが、実はサザンのアルバムのプロデュースを手掛けたのは、厳密には1992年の『世に万葉の花が咲くなり』のみで、1990年の『Southern All Stars』は一部の曲に共同編曲・キーボード演奏に関わったのみとなっています。今やサザンの代表作ともいえる「希望の轍」「真夏の果実」「涙のキッス」は全て小林さんが共同編曲・プロデュースを務めたものですが、アルバム全体のプロデュースは1作ポッキリだったのです。

とはいえ、桑田佳祐さんのソロ・アルバム『Keisuke Kuwata』から制作に関与してきており、桑田さんの『Keisuke Kuwata』、サウンドトラック『稲村ジェーン』、原由子さんの『MOTHER』とそれぞれでプロデュースを桑田さんと共に務め上げ、信頼関係を築いた上でいよいよサザン本体との共作となり、この『世に万葉の花が咲くなり』に繋がっていきます。


『世に万葉の花が咲くなり』

『世に万葉の花が咲くなり』は、全16曲入りで、ここまでのサザン10枚のオリジナル・アルバムで過去最長時間と1枚における最多曲数となりました。(最多曲数は当時では2枚組20曲の『KAMAKURA』が最多) その全てに小林さんがアレンジで関わりました。『KAMAKURA』と同様にコンピューターサウンドが特徴的ではありますが、サンプリングが中心だった『KAMAKURA』に対し、『世に万葉の花が咲くなり』はデジタル・レコーディングの黎明期を過ぎて本格的に運用が始まったこともあり、それまで具現化出来なかったサウンドメイクが出来るようになりました。また、桑田さんと小林さんの2人でアレンジの方向性が話し合われており、意見が対立することも少なくありませんでしたが、小林さんのアレンジの提案はプラスになることも多く、桑田さんの提案にさらにプラスαの要素を入れたりと、当時のサザンのサウンドを大きく覆す程でした。今でこそ「オーバープロデュース」と揶揄されてもおかしくはありませんが、サザンの幅広い音楽性をさらに柔軟に対応できるような形にした、とも言えます。しかし、サザンの他のメンバーを置いてきぼりにしがちだった為、バンドサウンドが薄い作品があったり、ギターのサポートメンバーが多かったり(3人のギタリストが参加し、小林さんがギターを弾いている曲もある) と、サザンオールスターズというバンドとしては半ば崩し気味であったことも否定出来ません。

ですが、『世に万葉の花が咲くなり』は、一曲一曲の完成度はサザンのオリジナル・アルバムの中でも特に高いものとなり、現在では名盤としても名高いアルバムとなっています。小林さん自身も「完成度高いアルバム」と評価しています。

そんなアルバムの収録曲の1つが、この「君だけに夢をもう一度」でした。

この曲はサザンと同じ事務所の女優・富田靖子さん出演のトヨタ・カリーナのCMソングに起用されました。



1991年10月にアルバムのレコーディングを始めていましたが、この曲は1991年中には完成していた曲で、この年の年越しライブでも「未発表新曲」の名目で一足先にお披露目されており、さらに1992年の春にはシングルA面曲としてリリースされる予定でした。しかし、桑田さんが「インパクトが無い」という理由でシングルとしての発売を中止。レコーディングを継続した後、夏に「シュラバ★ラ★バンバ」のカップリング曲として改めて収録されることとなりました。

女性の心に寄り添った優しい歌詞が特徴的で、桑田さんらしい言い回し「黄昏」「夢の跡」などを使っています。

冷たいシャツは夢の跡 誰かが残した蜃気楼

このシャツは彼女のもので、彼女が出ていって、そのまま残っていったシャツと推測され、2人で過ごした夏の恋の名残を指しています。

今日も通り雨 夏が遠ざかる
愛しい女性(ひと)は帰らない

雨が降る度に想い出す夏のひととき。ですが、その夏を過ごした君はもうこの家に帰ってくることは無く、ただただ寂しい日々を過ごす僕でした。

優しいだけの遊びなら こんなに惨めじゃないのに

ただただ体だけの関係だったり、友達としての付き合いならば僕の心は傷つくことはありませんでした。

涙枯れても 黄昏がにじむ
うつろに聴く 波の音

悲しい恋の終わりで泣き濡らした僕。泣きすぎて涙が枯れてしまうくらい落ち込んだ様子が窺えます。そんな切ないときに遠くから聴こえる波の音。夏の終わりを感じさせます。

憂いの風吹く 心の中で
熱い影が揺れる

心の中にはすきま風が通るくらいカラッポになるくらい切なさを感じさせますが、何処か胸を震わせる何かを感じています。

君だけに夢をもう一度
なぜに時代(とき)は流れゆく
いつか捨てた恋なのに

タイトルがとにかくグッと来るのですが、僕は君に対して未練が残っており、だからこそ「もう一度僕とやり直してくれないか」と君に対して思っていたのです。向こうは僕のことをどこまで本気で愛していたかはわからないけど、僕は君に対して本気で愛していたことを実感します。夏が過ぎ行く最中、終わった恋ですが、もう一度僕と共に過ごしてくれないか、と君に問いかけるのです。

抱き寄せた女性(ひと)が泣いている
熱い胸が震えてる
今宵は誰も愛さない

君にもう一度告白し、君を抱き寄せると泣いていました。女性の涙を見ると、どこか胸が熱くなるのを感じる僕。今宵は君だけに愛をぶつけようと決めたのです。

この曲はサザンのポップスというよりも、当時の小林さんのアレンジが色濃く出ており、当時のサザンらしくないサウンドとなっています。キーボードの音色、ギターのサウンドなど、当時のサザンにはあまり見られないサウンドです。小林さんはキーボード以外にも、当時休養中の関口和之さんに代わって、シンセ・ベースでベース音を出しています。

君だけに夢をもう一度」そんな言葉を、愛する女性に言ってみたいものです。


↑18:44秒あたりから「君だけに夢をもう一度」スタートです。