本日はTM NETWORK「パノラマジック (アストロノーツの悲劇)」(1984年リリース、アルバム『RAINBOW RAINBOW』収録) です。
TM NETWORKの楽曲は基本的に小室哲哉さんの手によって作られることが多いのですが、メンバーの1人、ギター担当の木根尚登さんによる作曲作品もあり、それらの作品は小室さんのアプローチとは異なるものも多く、木根さんの作品はTMファンの間でも非常に人気が高い曲が多いです。
TM結成前は、宇都宮隆さんと共にバンド「SPEEDWAY」のリーダーでキーボード・作曲担当としてバンドの中心的存在でもありました。デビューシングルの「夢まで翔んで」も木根さんが作曲したもので、音楽的素養の高いミュージシャンでもあります。とはいえ、クラシックや冨田勲さん、プログレ・ロック・ファンクの影響を受けた小室さんに対して、木根さんはかぐや姫や吉田拓郎さんといったフォーク、ニュー・ミュージックの影響が強く、洋楽もビートルズくらいでした。それぞれ異なるミュージシャンからの影響もあって、TMは作風の異なる2人がメインでメロディを書き、飽きさせることなく曲を発表していったのだと思います。
SPEEDWAY時代ではキーボードを担当し、フォークの影響でアコースティック・ギターの演奏も長けていました。しかし、SPEEDWAYの休止とTM結成に伴い、ダブルでキーボード担当がいるのは絵面として地味だと思った小室さんが、木根さんに「キネ、ギターやって?」と提案します。とはいえ、アコースティック・ギターをやっていた木根さんですが、エレクトリック・ギターは弾いたことがなかった為、「エレキは弾いたことがない」と伝えましたが、小室さんに「弾くフリをすればいいじゃん」と返されたことで、木根さんはギター担当にスライドすることになり、近年ネタ的に言われる「木根さんはエアギターだった」と言われる発端になります。実際はTM結成後にエレクトリック・ギターも練習して弾くようになっており、現在ではカッティングなどが主体ですが、一通り弾けるようになっています。
また、木根さん自身から公言しませんが、本来はマルチプレーヤーで、キーボード・ギター・ハーモニカ・ベース・ドラムスなど、バンドで必要な楽器は一通り演奏できます。TMトリビュートのライブなどで、木根さんがベースを弾く姿も見られました。
作曲もTM活動時から渡辺美里さんに曲を提供するなど、作曲家としても腕を奮い、浅香唯さん・椎名へきるさんなどにも提供していました。
このように小室さんと並ぶメロディメーカーであり、ミュージシャンでもありますが、小室さんのその後の活躍に埋もれがちとなっていたこと、TMで書いた曲もアルバム曲が大半であることなどから、あまり木根さんの凄さが伝わらないのが残念です。そんな木根さんのTM時代における初期作がこの「パノラマジック (アストロノーツの悲劇)」でした。
作詞は作詞家で音楽評論家の麻生香太郎さんが手掛けたものでしたが、歌詞自体は元々木根さんが書いていたもので、麻生さんはその詞を手直ししたものだそうです。歌詞は新しい、不思議な世界へ二人で旅をするものとなっていますが、「SPEEDWAY」から「TM NETWORK」への新たなスタートを感じさせるものにもなっています。
「限りなく続く この軌道(みち)の向こうは」
「誰も知らない Blackin' Hole」
まだ見ぬ先の見えない道。果てしなく遠い道は、僕らから見るとまるで漆黒の「ブラックホール」のようなものでした。この先の試練を感じさせるものとなっています。
「どこかいかれてるエンジンよりも」
「今はお前と One More Rock」
この「いかれてるエンジン」は「SPEEDWAY」を指したものではないか、と推測できます。自分たちで立ち上げた「SPEEDWAY」はデビューこそ出来ましたが、上手くいかずに活動を止めます。「SPEEDWAY」で行くよりも、別の「TM NETWORK」というエンジンを積んで先を目指すのがいい、今は3人一緒に音楽を創るのが良いんだ、という意味合いにとれます。
「気どって On The Radio」
「雑音まじりもいいさ」
果てしない道へ向かう道中でかけるラジオ。場所が悪いのか上手く聴き取れません。でもそんな雑音交じりのラジオもまた醍醐味の一つ。順風満帆ではなかなかいかない道のりを表した詞のように感じます。
「感じる Nice BBC」
「奏でる序曲に 身をゆだねて」
「BBC」とはイギリスの公共放送局で、日本の「NHK」と同じような放送局です。この当時は日本向けにラジオを流していました。このラジオを流しており、ラジオから流れる曲を聴いていました。
「Mercy, Love Is Panolamagic」
「宇宙(そら)から見れば 小さな Green Green Apple」
果てしない道は宇宙(そら)へ。地球を見ると、リンゴくらいの大きさに見えました。目指すところは大きく、地球がちっぽけに見えるような位置に立ちたいといったところでしょうか。
「Mercy, Love Is Panolamagic」
「不思議な世界へ ふたりだけで」
このままブラックホール目掛けて、僕らは不思議な世界へ飛び込んでいきます。
ポップな世界観にメロディアスな木根さんの曲が組み合わさった、洋楽のサウンドと独特なTMのサウンドが融合した秀作だと思います。木根さんと小室さんはトレヴァー・ホーン(Trevor Charles Horn) やブライアン・イーノ(Brian Eno) といったイギリスのミュージシャンが作るような音を目指すなど、アメリカよりもイギリスのテイストに寄せていきました。キーボードは小室さん、アコースティック・ギターは木根さんが弾いています。「1974」の記事でも記しましたが、コンピューターなどの打ち込みは全てマニピュレーターの小泉洋さんが担当しています。小泉さんの手腕抜きではこの曲のみならず、アルバム自体も無かったと思います。
木根メロディ初期作の秀作。バラードだけではありません。
↑4:00から始まります。