人生は水路と同じ。稲葉浩志「水路」 | よねともが気ままに思うブログ

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本日は稲葉浩志「水路」(2016年リリース、シングル「羽」カップリング) です。




ロックバンド・B'zのボーカリスト、稲葉浩志さんは、1997年からB'zの活動の傍ら、ソロ活動も行うようになりました。ソロ1st.アルバムの『マグマ』は、先行シングルが一切無い状態にも関わらず、ミリオンセラーとなるなど、当時のB'z人気もありつつ、稲葉さんのソングライターとしての手腕も高く評価された形となりました。以降、B'zの活動がメインになりつつも数年おきにソロ活動も行っていき、シングル5作、配信シングル6作、アルバム7作(うち、スティーヴィー・サラスとのコラボレーションの「INABA/SALAS」名義のアルバム2作も含める) をリリースしており、ソロ活動においても精力的に活動しています。

ソロ活動の大きな特徴は、B'zでは行わない作曲・セルフプロデュースも稲葉さんが手掛けることでしょう。B'zでは作詞とボーカルのみにほぼ専念する形でしたが、1995年のB'zのシングル「ねがい」からは松本孝弘さんのみではなく、稲葉さんもアレンジに参加するようになり、楽曲制作に大きな興味を抱くようになり、それが1997年の『マグマ』に結実することになります。『マグマ』で初めて作曲にも挑戦し、大きな評価を得られたことで、ソロ活動においては作詞のみならず、作曲・アレンジにも果敢に挑み、B'zとはまた違った作風を展開することになります。また、ブルースハープ(ハーモニカ) の演奏は同業者も認める演奏力の高さで、ソロ活動で披露してから、B'zの作品にも逆輸入される形で披露したり、楽曲提供の際にもブルースハープでレコーディングに参加することも多いです。他にもギター・ピアノ・パーカッションといった演奏もソロ活動では行うなど、B'zとは違う一面もソロ活動で見せています。

そんな稲葉さんが2016年初頭に、5年半ぶりにリリースしたシングルのカップリングとして収録されたのが「水路」でした。

この曲は玉山鉄二さん主演のWOWOWドラマW「誤断」の主題歌として書き下ろされました。


「誤断」のワンシーン。

「誤断」は、堂場瞬一氏の同名小説が原作となったドラマで、WOWOWのドラマWが得意としていた社会派のヒューマンサスペンスものの作品でした。製薬会社に勤める主人公が、駅のホームで転落する事故を目撃し、それ以降も列車の飛び込み事故が相次いで発生します。その全ての死亡者が、主人公が勤める製薬会社の鎮痛剤を服用していたことが発覚した上、成分表示にミスがあったことが判明します。主人公は上層部から極秘調査を命じられ、鎮痛剤と事故が因果関係の無いものであることを警察に悟られることなく確認してくるように命じられます。そこから、40年前の製薬会社の薬害事件に繋がり、主人公は隠蔽に関わったことで、人が亡くなったこともあって心に葛藤を抱えてしまいます。

人間の深層心理を深く抉り、良心と隠蔽に関わったことで生まれた猜疑心との葛藤を描いた社会派ドラマでした。そんな主人公の心の葛藤を描いた歌詞が「水路」です。

Lod time ago
この小径沿いに 水の流れがあったという

もともとは歌詞が先にあったものに曲を付けたという稲葉さん。この冒頭の歌詞はドラマとは関係無く、「もともとは水路だった」という道を歩いていた時に出てきたフレーズだったそうです。小さい小径沿いは、元々は川の流れのような水路がありました。爽やかで清らかな印象を持ちます。

緑溢れ 木陰は黒い宇宙
ポケットの中 手をつないだ

周囲は木々が広がる小径のようで、その木陰を「暗く冷たい空間」のように例えたのが「黒い宇宙」の部分だと推測出来ます。清らかで明るい印象の「水路」と、暗く冷たい印象の「木陰」の対比が面白いですね。

一時の安らぎに 身を任せて どこまでも溺れてしまえば

ドラマは「やってはならない」という正義感の心を持った「水路」のような人格と、「金と出世の為に動く」という悪どい部分を持った「黒い宇宙」のような人格を持ってしまい、葛藤を抱える主人公の様子が描かれています。そんな主人公の、一時の「金と出世」の為に、身を任せると、どこまでも深くその快楽に溺れてしまうぞ、という警鐘を促すような歌詞となっています。

流れるこの時がもう二度と 戻ってこないなんて思わないだろう

水路はその流れに乗って何処までも進んでいきます。引き返しは効きません。一度この流れに乗ると、後戻りが出来ない、水路を人生に例えたものでした。

一寸先の光 それもすぐ思い出になる

そのような後戻りが出来ない人生でも、何処かに光が差し込む、希望のようなものも出てきます。

過去を変えたいなら 今を重ねるしかない

過去を変えることは、現実的に不可能です。ならば今を目一杯生きて、違う思い出に書き換えればいい。人生という水路を流れる中で、とても大事なことだと説いています。

ピアノ、ストリングス、アコースティック・ギターを中心としたバラードで、タイトル曲の「羽」とはかなり対比した曲となっています。稲葉さんの歌唱も非常に落ち着いたものとなっています。アレンジは稲葉さんとロックバンド「doa」のベーシストで作曲家・アレンジャーの徳永暁人さんによるものとなっています。


徳永暁人さん。

徳永さんは1997年~2006年まで、B'zのサポートベーシストを務めたほか、それまでアレンジを担当してきた明石昌夫さんに代わってB'zの2人と共にアレンジも担当していた、B'zの歴史に触れる上で重要なミュージシャンとなっています。B'zの曲では「Calling」「ultra soul」「熱き鼓動の果て」「愛のバクダン」「OCEAN」などといった名曲を手掛けてきました。2006年頃を最後にB'zのサポートから離れ、「doa」の活動を中心としつつ、多くのミュージシャンの作曲を手掛けるなどしていましたが、2014年の稲葉さんのソロアルバム『Singing Bird』の制作に関与するようになり、このシングル「羽」では全ての曲で稲葉さんと共にアレンジを手掛けました。

落ち着いたバラードながら、重厚なギターとドラムを入れた、ロックサウンドを散りばめた素晴らしいサウンドは、間違いなく徳永さんの功績も大きいものだと思います。加えて、ストリングスと山木秀夫さんのドラム以外のアコースティック・ギター、エレクトリックギター、ベース、ピアノといった演奏は全て徳永さんが演奏しており、間奏のギターソロも徳永さんが弾くなど、マルチな才能を発揮しています。

稲葉さんのコンポーザーとしての才能の高さ。そして徳永さんの演奏とアレンジ。深い歌詞。全てが良いです。稲葉さんのソロも是非。


↑フルはありませんでした。ショートバージョンですが、2番をカットしたものなので、ギターソロやアウトロも聴けます。


↑ライブバージョンがあります。こちらはフルで聴けます。