抑圧との戦い。TM NETWORK「SEVEN DAYS WAR」 | よねともが気ままに思うブログ

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本日はTM NETWORK「SEVEN DAYS WAR」(1988年リリース) です。




1987年のアルバム『humansystem』の大ヒットもあり、活動は順風満帆だったTM NETWORK。1987年~1988年にかけて行われたライブツアーの最中に、シングル「BEYOND THE TIME (メビウスの宇宙を越えて)」をリリースするなど、多忙を極めることになります。そして「BEYOND THE TIME」リリースと同時期に小室哲哉さんは、次のアルバム作りのヒントや、その時の最新の音楽の動向を確認の意味合いも込めて、イギリス・ロンドンに渡ります。その際、宇都宮隆さんはダンスレッスンやボーカルのトレーニング、英語の勉強を兼ねてアメリカ・ニューヨークに渡り、木根尚登さんのみ日本・東京に残ってラジオ番組などの出演など広報担当として、メンバーが短期間ながら離れて過ごす形となりました。

そんな中でロンドンでも曲作りが行われ、小室さんは宇都宮さんと木根さんをロンドンに呼び寄せて、ニューシングルの制作を行いました。そして生まれたシングルが「SEVEN DAYS WAR」でした。

この曲は角川映画「ぼくらの七日間戦争」の主題歌として書き下ろされました。


「ぼくらの七日間戦争」のワンシーン。

「ぼくらの七日間戦争」は小説家・宗田理氏による小説が原作の映画作品となっています。これは東京・下町の中学校に通う1年2組の生徒の多くが、校則によって抑圧された親や教師への反発から、「解放区」なる大学の全共闘を真似たグループを作り、主人公・菊池英治の天才的な閃きや、リーダーとなる相原徹のリーダーシップなどで、迫り来る大人たちの理不尽な攻撃から立ち向かい、勝利を納める物語となっています。実写映画は1991年に続編映画が作られましたが、小説は「ぼくらシリーズ」として続編が2013年まで刊行されるなど、人気シリーズとなり、宗田氏の代表作となりました。また、2019年にはアニメ映画も作られています。

映画では主人公・菊池英治を演じた菊池健一郎さんが主演を務めましたが、中山ひとみ役を演じた宮沢りえさんがモデルやCM出演などで当時人気を博し、その宮沢さんの映画デビュー作として大々的に宣伝されたこともあり、多くのポスターや宣伝においては宮沢さん主演として扱われています。なお、宮沢さんは2019年のアニメ映画版にも出演しています。

TMのシングル制作と同時に、小室さんは「ぼくらの七日間戦争」の映画音楽も手掛けることになります。この映画音楽もロンドンでレコーディングされており、小室さんにとって殆んどの全工程を全て海外で制作されました。その中で、現地のボーカリストを集めて「TM international」なる姉妹ユニットを結成し、世界デビューをするという計画もありましたが、小室さんが自身の実力の無さを痛感し、またスタジオでの裏方作業の面白さにハマっていったこともあり、計画は頓挫しています。サウンドトラック内に収録されている「FUN FACTORY」はその名残で女性ボーカリストによるボーカル曲として収録されています。

歌詞は小室みつ子さんによるもので、タイアップにかなり沿った詞となりました。日本でデモテープを貰い、ロンドンに向かう飛行機の機内でデモテープを聴き、メロディーを覚えていたそうですが、いざロンドンのスタジオに到着して完成版を聴くと、デモテープと全く違うものになっていて大焦りしたというエピソードがあります。また、かなり映画に沿った詞になった為、映画のスタッフが「こんなに映画に沿った歌詞を書いてもらっていいんですか?」とビックリしたそうです。

"Revolution" ノートに書きとめた言葉
明日をさえぎる壁 のり越えてゆくこと

大人への反発心を秘めていて、既に「Revolution」=「革命」を起こすことを予期しているようです。明日を遮る壁は、中学生にとって明るい未来がこのままだと訪れないことを示す暗示に聞こえます。

割れたガラスの破片 机の上のナイフの傷
理由(わけ)を話せないまま 閉ざされたドア叩いてた

正に「争った」形跡があります。でも大人たちには何故ここまで反抗するのかの理由を話したって聞く耳持つわけない、そういう思いで中学生は戦い続けます。

すべてを壊すのではなく 何かを捜したいだけ
すべてに背くのではなく 自分で選びたいだけ

多分ですが、所謂「不良じみた」子どもたちや荒れる子どもたちも、ただただ急に嫌になり荒れ始める訳ではないと思います。それなりの理由があって荒れるのだと思っています。それはただただ暴力に任せて物を壊したり、殴ったりしているのは、何か自分の生きる理由を探っているのではないのかな、と思いますし、ただただ反抗しているのも、ただ子どもみたいにわがままになっているのではなく、自分で生きる上での選択肢を見つけて、選んで生きるのではないのかな、と思っています。(勿論、大前提で荒れたり不良になることを薦めてる訳では無いし、暴力を許すわけではありません) 不器用だからこそこのようなことになるのではないのかなと思います。

Seven days war 闘うよ 僕たちの場所 この手でつかむまで
Seven days war, Get place to live ただ素直に生きるために

決着がつくまで、ぼくたちは戦い続けます。それは自分たちの居場所を見つけるまで。決意の言葉を胸に大人たちと戦います。

TMの楽曲は比較的難解で、ライブ再現不可能の曲もあります。ましてやアマチュア・バンドが再現出来る曲が少ないのが特徴です。(小室さんの制作方法や唐突な転調などが影響しています) その為、小室さんはこの曲においてはピアノ・ギター・ベース・ドラムスのみでシンセサイザーが無くても再現可能な、十分魅力が引き出せるような構成にしているそうです。ドラムはイギリスのバンド・ABCの元ドラマーで、Yellow Magic Orchestra(YMO) の散開ライブでもドラムを叩いたデヴィット・パーマーによるもので、エレクトリック・ギターもイギリスのギタリスト、クレム・クリムソンによるロックを前面に打ち出したサウンドとなっています。ピアノとシンセ・ベースは小室さんで、アコースティック・ギターは木根さんによる演奏です。宇都宮さんのボーカルはそれまでのTM作品に比べると落ち着いた印象で、また違う一面を引き出しています。曲後半のコーラスはロンドン在住の日本人中学生20人が参加したもので、小室さんがメロディーを教え、宇都宮さんが歌唱指導しています。このコーラスはマルチトラック・レコーダーで3回重ねて60声にしています。

「SEVEN DAYS WAR」はTM NETWORKにおいて新たな一面を見せました。このシングル、そしてサウンドトラックの制作が後の名盤『CAROL』に繋がっていきます。