FOIをテレビで拝見しました。

大輔さんの頭の中を推測するのは最初から諦めていますので、ソロプロと似ても似つかない私の妄想とお思いください。



罠は誰が仕掛けた

男が独り、冬の山奥を歩いている。
信憑性の高い伝承を元に、落武者の埋蔵金を探しにやってきた。

埋蔵金には、単なる貴金属にはない歴史的に計り知れない価値がある。金には代えられない夢を求めているのだ。

埋蔵金などおとぎ話だと思っていたが、ある日、小耳に挟んだその話は歴史的に根拠のある証拠がいくつもつながっていた。
それからは取り憑かれたように資金を貯めては埋蔵金の調査を繰り返している。


枝を払いながら進んでいると、手に何か紐状の物が触れた。
枝葉に引っかかっていたそれを外し、指で土を落とすと、色あせた珊瑚の玉と白い貝殻を一連の玉にした物が現れた。
これは…首飾り?
やった…ついにやった!
男はそれを自分の首にかけ、小躍りした。
この山に埋蔵金がある!やっと近くまで来たんだ!

その時。
首飾りは長さにかなり余裕があったはずが、急に首が絞まった。
…!
男は首飾りを外そうとするが、結ばれているかのように首との隙間が無くなっている。
必死の思いで掴み、引きちぎった。
座り込んで荒い息を繰り返した。足元を見ると蛇がちぎれて死んでいた。
珊瑚色の目をした白蛇だった。

白蛇は神の使い。
神の使いを殺してしまった…?

男は埋蔵金の調査をしているので、歴史や神話、民間伝承の知識もある。
言い伝えや迷信は何かしら根拠があって生まれるものだ。
自分の命を守るためだったとはいえ、縁起も後味も悪いので、男は白蛇を地面に埋めて墓を作った。

あれは確かに首飾りだった…
埋蔵金に必死になるあまり、俺は赤い目の白蛇を首飾りと見間違えたのか?冷静にならなければ…
男は再び歩き始めた。


歩を進める男の足に当たった物が金属音を立てた。何かが落ち葉に埋まっている。
掘り出してみると、抜き身の刀だった。長さからして脇差だろう。

刀!紛れもない、落武者がここを通った証拠だ!

持ち上げても崩れることはなく、しっかりしている。
完全に錆で覆われ、銘も柄の装飾もわからない。
見つけた喜びに刀を片手でなぎ払う真似をしたり、両手で素振りしたりしているうちに、ふと頭に浮かんだ。
(今でも物を斬れるだろうか)

傍らの木の葉を狙って振り下ろした。
あっさり斬れ、切り口のついた葉がはらはらと舞い落ちた。
次は細い枝を切った。
面白くなって徐々に太い枝を斬るうちに、あらたな考えが湧いた。
(人も斬れるだろうか)

男は刀を両手で逆手に持ち、ゆっくり腕を伸ばした。
切っ先を自分の腹に向けた。
バサッ。
近くで鳥が羽ばたく音がして、男は我に返った。
今の状況を自覚した。
(俺は切腹しようとしているのか?)
「わああっ!」
叫びながら刀を放り投げた。
がたがた震えが止まらない。

いくら切れ味を試すためでも、俺がこんな事を思いついたのか?
落武者の怨念か?
刀の近くにいればまた同じ事を繰り返すかもしれない。刀をその場に残し、転がるように走って逃げた。


しばらくして男は頭が働くようになった。
長年、埋蔵金を探してきたが、本当に埋蔵金が近いとしても立て続けに二つも遺物が見つかるのはおかしい。
罠か?
でも誰がこんな山奥に罠を仕掛ける?
大昔に山賊が旅人でも捕まえようとしたのだろうか。
しかし、俺がおかしくなったような幻術を山賊が使えただろうか。
山賊でないとすればどんな人間が…


朽ちかけた小さな社に出くわした。何百年も人から忘れられたような有り様だ。
男は何の警戒心も抱かず、吸い寄せられるように近付く。
無意識に柏手を打ち、礼をして扉を開ける。

顔ほどの丸い鏡が祀られている。
男はそっと手に取った。
裏には凝った彫刻を施してある。
鏡面も曇りない状態を保っており、今ちょうど男の顔が映っている。
その時、鏡に映っている男の顔が、自分の頭の中に直接問いかけてきた。

男は、それに対して恐ろしさも奇怪さも感じなくなっている。


―お前は宝が欲しいのか?
それとも金と名声が欲しいのか?

金も名声も要らない。
強いて言うなら、宝そのものがほしいのでもない。
俺は宝を見つける喜びが欲しいだけだ。

―本当にそれだけか?
金と名声が欲しいならそれで良いではないか。隠す必要はない。

俺は宝を金に変えるつもりはない。
宝がどんな物かをこの目で見るのが俺の夢だ。

―真の宝は長い年月を経て、人知を超えた力を宿している。お前はそれに耐えられるのか?

耐えられるかどうかはわからない。
しかし、宝を見られるなら命と引き換えでも構わない。

―ほう。
真の宝を見届ける覚悟があると言うのか。
しかと聞いた…


男は気がつくと、汗だくになって社の前に横たわっていた。
今の会話は夢だったのか?
誰と何を話したのかよく覚えていないが…

鏡はいくら探しても見つからない。
さっきまでと比べ物にならないほど体が重い。
鏡を見つけた後、何があったのだ…

かすかに滝の音が聞こえる。
川があるのか。顔を洗って一旦落ち着こう。
それに、もっと奥へ行けばいよいよ埋蔵金に近付くかもしれない。
もっと奥へ…



男は水音の方に歩みを進めた。先の方は森が開けているようで、明るく見える。
木々の隙間から、水飛沫とは異なる白い何かが動いているのが見えた。
狐か?雷鳥か?
男は木の陰から覗いた。


薄霧がかかっている。
霞んで上が見えないほど高い岩山から滝が落ちている。
その滝壺で、美しい女達が水面の上を軽やかに飛び交っている。
人の姿をしているが人間ではないとすぐにわかる。
白い衣に長い薄布をまとっている。あれは羽衣だろうか。

本能的に感じる。
これは神だ。


流れ落ちる滝の中から現れる。
岩肌に吸い込まれ消える。
現れたり消えたり、何人いるかわからない。
その光景は絵のように優雅だが、何か圧倒的な力を感じる。大鷲がゆっくりと飛んで睥睨しているようだ。

雷鳴と共に竜巻の中から漆黒の衣を纏った男神が女神を担いで現れた。見上げるほど大きく逞しい男神だ。

どの女神も通りすがりに男神の美しい顔と体にまとわりついてゆく。戯れるでもなく、神の務めを行っているようでもない。何をしているのかまったくわからない。
皆この上なく美しいが、感情の読めない表情をしている。


肌で感じる、これは峻烈な神々。
人間がいわゆる神頼みにすがるような情け深い神ではない。
神は気まぐれなもの。人間の存在など取るに足りない。見つかったらどうなるか…

俺はまた夢を見ているのか。
起きなければ。
夢から醒めなければ。
しかし体が動かない。
額から冷や汗が流れる。

ふっと、一人の女神がこちらを向いた。
この上なく美しい無慈悲な瞳が自分を貫く。
矢が刺さったかのように、目を反らすことができない。

「見たな。」

起きなければ…

ヒュウ、と一陣の風が吹いた。



おわり