THE MELTの一演目の物語です。
タグを付けるか迷ったほど他愛ない内容なのですが、書かずにいられませんでした。
「…」
「…?」
「…オ!」
「…ん?」
「トキオー!」
「ワッ!」
トキオはまぶたを開いた。そして繰り返した。
「ワッ!」
すぐ目の前にカケルの顔があった。
「…カケル?!」
「よっ、久しぶり!」
カケルは上機嫌に手を挙げた。
「久しぶりって…」
トキオはカケルを凝視した。
「カケル、何で学生服?しかも何で顔も声も若返ってるんだよ?」
「へへ、これトキオの夢の中なんだよ。遊びにきたぞ。」
「夢?ああ、なんだ、そうなのかあ。」
あっさり事態を受け入れる。夢とわかればもう安心だ。
なにしろ、あの世まで経験しているのだ。
「でも、なんで10代の姿で出てきたんだ?」
「ユキが『久しぶりに会うんだから、童心にかえってパーッと遊んだら?』って言ってさ。童心にかえるなら、ほんとに子供になる方が思いっ切り遊べるだろ?一番体力ある時期だし!」
「へえ、ユキの提案か!ユキは来てないのか?」
トキオはきょろきょろした。
仲直りしたい、とまだ本人に伝えられていないのだ。
「ユキ、いろいろ頼まれ事してて、後で行くから先に遊んどいてって。」
「そっちの世界でも忙しい事ってあるのか!なんかユキ、あんまり変わってなさそうだな?」
「そりゃあそうだよ。だって、俺もこの世の頃と変わってないだろ?」
「言われてみればそうだな。」
ユキの話をするカケルを見ても、もう嫉妬は感じない。そんな自分を嬉しく思った。
「遊ぶっていっても何するんだ?学生に戻ってるカケルはともかく、こっちは良い大人だぞ?」
「そう言うと思って用意しといた。おーい!」
カケルはニヤニヤしながらトキオの背後へ声をかけた。すると、何人もの少年時代のトキオが走ってきたのだ。
「わーっ!何だよこれ?しかもカケルは一人なのに、なんでこんなに居るんだよ?」
「時間が限られてるから、めいいっぱい遊べるようにトキオを増やしたんだ。それぞれのトキオが感じた事はお前に集積されて記憶に残る。」
「…何人分もの記憶が?…」
カケルの気遣いに胸をつかれた。
「さあ、走るぞ!」
カケルと共に、トキオの分身達もはしゃぎながら走り出した。わけもなく走りたい年頃なのだ。
「カケル待ってくれ、そんないきなり…うん?なんだか結構走れるぞ?」
前を走るカケルはスピードを落とし、トキオに並んだ。
「そうだろ?だってトキオ、ずっとがんばってきたじゃないか。そりゃあ走るのも速くなるさ。」
そんな、理屈に合っているような合っていないような事を言われたが、トキオは素直に納得できた。夢の中だからだろうか。
「…そうだな。」
トキオは走りながら涙がじわっと浮かんだ。カケルを失い、この世に戻ってから、どれだけ辛い年月を過ごしたことか。
そうだ、自分はがんばったのだ。
カケルはまた先に進んでトキオ少年達と追いかけっこをしながら、少し離れているトキオに向かって叫んだ。
「トキオはすごいよ!星の仲間が言ってたけど、一度命を捨てようとした人間が元と同じエネルギーを持つまで、倍の精神力が要るんだって。トキオはそれを乗り越えたんだよ!」
「カケル…」
さらに大声で呼びかける。
「ちゃんと上から見てたんだからな!幸いも見つかったんだろ?」
トキオはこぼれそうになる涙をぐっとこらえて、誇らしげに大きな声で報告した。
「ああ、見つけたよ!」
「そうか!知ってたんだけど、トキオの口から聞きたかったのさ!」
カケルはトキオの前へ駆け寄った。
そしてニッと笑い、トキオに向かってこぶしを突き上げた。これは少年時代から続く、二人で考えたハイタッチ。
おはよう、バイバイ、おめでとう、がんばれ、いってらっしゃい、いろんな意味で使っていた。
(過去最高のハイタッチだ。)
トキオもニッと笑い、同じように自分のこぶしを上げてコツンと当てた。二人で指をパラパラパラときらめくように離す。
晴々とした笑顔でカケルと向かい合う。
カケルがふと横を見た。
「あ、ユキが来たみたいだぞ。」
「おっ、来たか? ユキー!」
トキオはそちらへ駆け出した。分身のトキオ少年達も、我も我もと後を追った。
カケルは一人でその背中を見送った。
「…トキオ。
幸いを見つけた今、お前の本当の幸いはこれから始まるんだ。
上からしっかり見てるからな。」
こちらを見ていないトキオに向かって、力強い笑顔でこぶしを突き上げた。
おわり