母が師匠の元に通っている頃、
その日の教材は、
膨大な量の手作りの手本集の中から、
師匠が選んでくれることが、多かったのだそうです。
その中の1首で、
母がとても心惹かれた歌があったのだそうですが、
後から探しても、その手本が見つからなかったのだとか。
歌の伝える風景は、漠然と思い出せるものの、
どうしても歌そのものは思い出せなくて、
作者の名前も聞いてなくて、
心に響く歌だった、師匠の文字が素晴らしかった、
何で認知症が進む前に、
もう一度書いて下さいとお願いしなかったんだろう、と
手が届かなくなってしまった喪失感は
ハンパなかったのだそうです。
師匠のもとをやめ、
やがて母は結婚し、兄が生まれて、
働くお母さんの忙しい日々が過ぎていきました。
落ち着いて筆を持つこともなくなった頃に、
師匠が亡くなったそうです。
ある日、母の実家を通して連絡が入りました。
書き損じのような短冊や色紙が出てきたのだけれど、
そんなものでよかったら、あなたにもらっていただけるかと、
年老いた奥様からの伝言でした。
おそらく、その他数々の手本集や作品類は、
息子さん方が引き継がれたのでしょう。
練習紙のようなもので申し訳ないのだけれど、と
それでも、何か母に遺してあげたいという、
奥様の心遣いがありがたく、
母はすぐにいただきに行ったそうです。
本当にごく数枚の練習紙でした。
でも、そのわずかな中に、
母がかつて諦めた歌があったのでした。
母は、泣いたそうです。
再び師匠と巡り逢えた気がして、
これは奇跡だと思ったそうです。
僕には、歌のことはよくわかりませんが、
人生の使命と、愛情と、巡り逢いを感じさせる、
師匠から母に届いた歌、最後にご紹介します。
『 山の上に 風寒く 僧の行きかへり 黒衣ふくれて 白きえりまき 』
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