私は1984年、昭和59年に

女性記者二期生としてNHKに就職した。

 

大学4年の夏頃から就活を始めたが、

当時は男性と同じ賃金で働く、

総合職として採用してくれる会社は

ソニーとサントリー、

あとは外資系銀行くらいだった。

自分は事務職には向いていないと判断。

必然的にマスコミばかりをハシゴした。

 

他2社からも内定をもらったし、

私は特に女性だから不利だとは感じなかった。

 

入局して一年後、

東京と名古屋で勤務のまま別居結婚。

だか、父が私がテレビに出るのを

何より楽しみにしていたため、

旧姓を使い続けた。

今では当たり前だか、

当時は顰蹙物だったようだ。

初めて「女性であること」の

不便さを感じた。

 

旧姓に関して、

総務や人事が言ってくるならまだしも、

びっくりさせられたのは

ほとんど知らないおじさまアナウンサーに

エレベーターの中でいきなり、

「君は一体、いつになったら、

名前を変えるんだ」と突然叱られたことだ。

今そんなことを言ったら

パワハラで処分されてもおかしくない。

 

だが記者、特に初任地名古屋の

上司たちは頭が柔軟だった。

結婚してからも私の呼び名を変えず、

2年後に東京に転勤した際も

「大村」のまま行かせてくれたのだ。

 

東京に来たら、

今度は人事だか労務だかが

「苗字を変えますか?」と

案の定、言ってきた。

私が拒否すると、

「通称を名乗っている3人の中で

正当な理由がないのは君だけです」と言う。

よくよく聞いてみると、

昭和62年の段階で

戸籍名を使用していなかったのは

有名なAアナウンサー(40代)と

有名なOプロデューサー(50代)で、

アナウンサーは離婚したのがバレるから

プロデューサーは旧姓が有名すぎて、

名前を変えると誰だかわからなくなるから

という答えで、

私だけが "正当な理由なく”

旧姓を名乗り続けているとのことだった。

 

ところが「拾う神」はいてくれるものだ。

平成2年から

記者が原稿を書くPCに

6桁の職員番号を入れると、

名前が自動的に表示されるシステムになったのだが、

このシステムの担当だったKさんが

私の旧姓を登録してくれたのである。

 

「大村ちゃん、大村にしといたから」と

Kさんがサラリと言ってくれた時のことを

一生、忘れない。

あの時、もしもKさんが

人事や労務のルールに従って

夫の名前を端末に登録していたら、

私は局を辞めていたとすら思う。

 

今思えば、Kさんも

雇用機会均等法ができたばっかりの

あの保守的な時代に、

まだヒヨッコの私のために

旧姓を登録するなんて、

まぁなんと大胆なことを

よくぞやってくださったものだと思う。

 

今、NHKの女性たちが旧姓を堂々と名乗って

「個人として」仕事ができるようにしてくれた

恩人だと私は思っている。

 

あれから40年、

私はまだ旧姓のまま仕事を続けている。

Kさん、お元気かな。

今も感謝しています。

###